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ラビットプレス+9月号


性別って何の基準!?(イメージ)

新型コロナウイルスの感染拡大が半端ないスピードで拡がっている。このコラムにおいても昨年3月の号において初めて新型コロナウイルスに関する記事を書いたが、その時の国内罹患者数は感染者26人(無症状病原体保有者3人含む:令和2年2月10日厚生労働省発表)であった。それが今日現在(令和3年1月11日13時30分発表)、なんと28万8640人注1である。単純に1万倍強である。これをパンデミックと言わずして何と言うのか。
医療科学が発達した現代だからこそ、感染症に対する恐怖が薄れ、コロナウイルス恐れるに足らず、という風潮は今後更に問題を深刻化させていくだろう。勿論、100年前と同じ対応をしろと言っているのではない。しかし、目に見えない敵と対峙する個々人の心構えという一点においては、100年前も今もそれは変わらない。無症状であっても、自分は感染していないと考えるのではなく、もしかすると感染しているかもしれないという心構えで行動することが、感染拡大を止める最良の方法であることを自覚すべきだ。
注1
新型コロナウィルスによる日本国内での感染状況は、令和3年1月11日現在、感染者数累計28万8640人、死亡者数4066人で、罹患後の回復者数は22万2137人(厚生労働省速報値)。都道府県別では東京都が7万6163人、大阪府が3万4452人、神奈川県2万7336人となっている。因みに世界では、米国の感染者数が2200万人を超え、インドが1050万人超、ブラジルが800万人超と桁違いの感染者数を抱えている。
さて、トップページにも記載されているように、このメールマガジンも今年の3月号配信をもって廃刊となるとのこと。その歴史も大したもので、2004年(平成16年)発刊というから足掛け17年間に亘って発行され、購読者数(受信登録者数)は今や5万5千人に迫るメールマガジンは稀有である。栄光の「ラビットプレス」に心から敬意を表します。
最終号まであと2回、拙者がこれからの時代に思いを込めて、最もお伝えしたかったテーマを選び、思いの丈を記そうとペンを執ったのが女性に関する話題です。特にアジア地域、とりわけ我が国における女性の存在について、正にウィズコロナ、アフターコロナ時代に相応しい、輝ける女性の時代を現実とするため、今何故女性が必要なのか、これほどまでに女性はどうして優秀なのかを生物学、心理学、社会学的な見地から解き明かし、新しい日本の進むべき道を考えようと思うのである。


性別を超えた人権の尊厳がグローバルスタンダードだ(LGBTQ+イメージ)

最近(と言っても随分以前からだが)、企業の採用担当者らが集う場で交わされる会話に、「男子に比べて女子の方が優秀な学生が多い」という話をよく耳にする。面接の場での「優秀」とは、筆記試験の成績、面接の受け答えに論理的思考が働き、コミュニケーション能力の高さを感じることや、礼儀や挨拶、表情などで、印象点を押し上げる要因も含め、「優秀」の評価に影響する。
ただ、これは“面接”という採用前時点での評価であり、面接担当者へインプットされる前提の情報である。従って、本番環境(入社後の実務場面)での能力(アウトプット)とイコールではないことは重視しておかなければならない。
現実的には我が国の労働環境上、男性優位は揺らいでおらず、殆ど全ての業界で男性社会は継続している。ただ、前述のようにインプットの時点で女性優位の現象が定着してきているから、自然にアウトプットでも女性の活躍に期待が掛かってきている。しかしながら、優秀とされる女性が最前線の現場に放り込まれた際、敢然と立ちはだかる男社会の壁に弾き飛ばされ、理不尽とハラスメントに無力を痛感し、やがて精神状態に支障を来たすことも。勿論男性にも起こり得ることだが、新入社員の離職率が圧倒的に女性が高い営業職などでは、女性の能力にその原因を求められるのも旧態依然としている。
しかし、それでも女性の能力が否定されることはない、とするには、性別による「優秀」と「劣等」を客観的に分析したデータを基に検証ししなければならない。

【どっちが優秀?・・・生物学的考察】
男女の身体的、行動的特徴に違いがあることについて、遺伝子のみにその決定原因があるのではなく、ホルモンなどの生物学的要因による身体的特徴が発現し、脳の各部位(大脳半球、偏桃体、海馬など)の男女差が行動的な違いをもたらしていることは、既に各方面の研究によって明らかになっている。


Y染色体とSRY遺伝子(SRY:teaching.ncl.ac.uk)

遺伝子による男女の決定は、性染色体の持ち方で決定される。男は染色体XYを持ち、女はXXを持つ。
およそ妊娠6週目までは、生殖腺に違いはなく、男性生殖器と女性生殖器の原器を併せ持っており、胎児に男女差は現れていない。6週目ごろからY染色体のSRY(sex determining region Y)遺伝子がTDF(testis determining factor)タンパクを産生するようになり、このTDFタンパクが未分化の生殖腺細胞のDNAに結合すると、そこから精巣が形成される。このSRY遺伝子が精巣決定因子の機能を持っていることは、マウスのXX胚にSRY遺伝子を導入することによって精巣が形成され、生まれるマウスが雄になることで確認されている(SRY遺伝子にTDFが存在しない場合は卵巣を形成する)。胎児の生殖器の男性化、女性化は、精巣から分泌されるホルモン(ミュラー管ホルモン)の有無によって決定される。分泌されるアンドロゲン(男性ホルモン)は女性生殖器を退化させ、男性生殖器を発達させるので、女性にはその働きが起きず、男性生殖器は退化する。
思春期の二次性徴における性成熟もホルモンが関係し、脳の視床下部細胞から性腺刺激ホルモンを放出するホルモンが分泌され、それによって下垂体から性腺刺激ホルモンを分泌させて性成熟が起こるのである。
身体的特徴の他、行動レベルでも男女の違いは研究されている。勿論、ヒトの場合、性別の違いによって受ける社会的影響が異なるので、それも要因の一つではあるが、平均的に男子は暗い色を好み、女子は明るい色を好む傾向がある。4~6歳児に自由に絵を描かせる実験では、男子は機械的な対象(例:車や飛行機など)の絵を好んで描き、女子は自然的な対象(人物や草花)の絵を描くことが多い。これには前述の社会的影響だけではなく、生物学的な根拠も証明されている。例えば、先天性副腎過形成症(副腎で多量のアンドロゲンが分泌される)が認められる女子においては、男子と同じような絵を描くことや、サバンナモンキー注2の雄の子供は自動車のおもちゃを好み、雌の子供は人形を好むことが実験で確認されている。
注2
アフリカのサバンナに生息し、数十頭単位の雄雌複合の群れで生活し、ヒトの持つ特定の記号と特定の意味を結び付けて認知する特徴(意味性)を有し、社会的知性の高い種である。別名ベルベットモンキー。学名「Cercopithecus aethiops (日焼けをしたような) pygerthrus」(顔の色が黒いことから名付けられた)。


サバンナモンキーは黒い顔が特徴(写真:日立市かみね動物園)

このような行動的差異は、脳の男女差にも起因する。男女の脳の一部は構造的に二形であり、性的には平均的に二形である(同性内での違いも考慮すると、性的には二形ではなく重複していると考えられる)。
2013年に、拡張テンソル解析と呼ばれる画像解析技術を用いて行った脳梁(左右大脳の半球を繋ぐ神経線維の束)観察の結果、その繊維数は男性より女性の方が多いこと及び半球内の繊維連絡は男性の方が多いことが分かった。そして、この関係は小脳では逆であることも発見された。これら男女性差は13歳ごろまでは目立たず、14歳~17歳ごろまでに顕著となることが分かり、この性差が行動に及ぼす影響について、男性の脳は知覚と協調運動の結合を促進するように構造化されており、女性の脳は分析的、直感的処理に適するようデザインされているというのだ。
また、偏桃体(前脳の深部にある大脳基底核の一部)は、情動(感情を引き起こす刺激に対する反応)のうち、怒りや恐怖というような負の感情に対し特に関係している領域である。偏桃体の活動分析の結果は様々であり、男女差については確定的ではないが、偏桃体の体積が少女の怖がりと正の相関関係を示し、少年にはその傾向が現れないという報告もある。
一方、海馬は、言葉で表現できる知識や出来事の記憶(エピソード記憶)の学習に関わる部位であるが、学習の資質によって男女の性差が生じることが分かっている。海馬の活動は、女性では左側が優位であり、男性は右側が優位である。左の海馬は言語的な記憶に関わっており、右は幾何学的(図形、空間分析的)な記憶に関わるとされているから、認知的思考(頭に浮かぶイメージを通して感情を表現する)を要求される場面においては、女性の方がより言語的な戦略をとる傾向があることを裏付けている。
その他、腹内側前頭前野(社会的評価の処理に関わる部位)、前頭眼窩野(視覚、聴覚、体性感覚とともに味覚、嗅覚情報なども収斂する部位)、帯状回(感情の形成と処理、学習と記憶に関わりを持つ部位)、言語野、小脳なども性差が有ることが確認されている。


高次脳機能図解(資料:脳梗塞リハビリSC越谷)

【どっちが優秀?・・・行動学的考察】
行動学的には、様々な認知課題において男女に差が有ることはすでに周知の事実である。例えば、成人における問題解決の性的二形の系統を研究する実験において、平均的に男性は空間課題について女性より優れていた。男性はメンタルローテーション(mental rotation:ある物体を回転させるとどのように見えるかという課題に対して、実際に物体を動かさずに、心の中に思い浮かべた視覚的イメージを回転させることで判断する機能)や物体操作を必要とする課題が得意で、シミュレーションゲームによる迷路攻略において、女性より早く且つ正確に課題を克服した。また、運動技能を計るテストでも女性より高い正確性を示している。
一方、女性は平均的に男性より想起テスト(記憶の基本的過程のひとつとして、保持している情報を適切なタイミングと場所で「思い出す」ことを課題としたテスト)に優れ、また、文字や数字、物体の名称を素早く答えるテストでは、男性より処理速度が速かった。これらによって、女性は男性よりも物体の位置の記憶や言語記憶、言語学習にも優れていることが導き出された。女性は対応する物体を見つける課題やペグ(杭や釘など)を決められた穴に差し込むという、正確な指の動きをも要求される課題でも男性より高いパフォーマンスを示した。迷路や、経路を見つける課題において、男性は女性よりも少ない回数でルートを見つけられた。しかし、女性は提示された目印を男性よりも記憶していた。このことから、女性は日常生活において自分の位置を見定める場合に、より目印に頼ることが示された。


作業療法などでも使われるペグボード(写真:オージー技研)

その他、意思決定のプロセスを調べる心理テスト(Iowa Gambling task)注3では、女性は失敗を回避するように意思決定を行い、男性は長期的な視野での意思決定を行う傾向が見てとれたという。参考:大木紫杏林大学医学部 「脳と行動への影響」
注3
Iowa Gambling task(IGT):ヒトの意思決定に影響する身体からの信号をソマティック・マーカー (somatic marker:身体信号) と呼んでいる。このソマティック・マーカーによる意思決定の誘導は、熟慮に基づきコストや利益を計算して選択を行う意識的過程より先だち、無自覚的に生じると仮定され、その仮説を検証するために考案されたのがアイオワ ギャンブリング タスク(Iowa gambling task :Damasio, 1994 ; Bechara et al., 1994, 1996, 1999 ; Bechara, Damasio, & Damasio, 2000)である。
(トーマス・ベイズ統計によるアイオワ・ギャンブリング・タスクのモデリング方法)
IGT実験参加者には、あらかじめ2000ドルの所持金がヴァーチャルに付与されます。参加者は4つのカードのデッキ(束)から、どれか1つのデッキを自由に選び、1枚カードを引く試行を繰り返し行います。参加者は実験を通して所持金を最大化するよう教示されています。デッキ毎のカードには報酬と損失が組み込まれており、それらの金額と出現頻度はそれぞれ違います。最終的にどのデッキを選べば所持金が増えるかを試行の上で見つけ出すことを課題として、デッキの性質を学習させるのです。


どのデッキを選ぶことが望ましいかという方略において、健常群と比較して、麻薬中毒や強迫性障害といった臨床群では、この方略を獲得する能力が低いことが指摘されており、IGTは様々な臨床群における意思決定能力の欠如の度合いを評価するために用いられます。

【それでも女性は優秀である】
以上、見てきたように、ヒトに備わる性質には性差があり、それは生物学的な脳の構造と社会学的な見地からいう育まれた環境、そして性別を問わず備わる個体差など、多様な能力が一人々の人間を形作っている。本編の目的である“女性が飛躍する社会”を創造するためには、女性のみを対象にした議論は片手落ちで、性別や人種、多数少数に係わらずあらゆる人間を対象にした社会構造の再構築が求められる。とりわけ我が国が有史以来維持してきた「男性中心型社会構造」の改革には、相当の知恵と膨大な労力が必要である。
我が国の政府がお題目を唱えるも、遅々として進まない女性活躍社会の実現には、ことの本質をないがしろにした上辺の議論と民間企業の努力義務に解決の期待を寄せ、雇用機会均等に代表される“達成率”という数字が結果の風潮に流されているだけでは全く意味をなさず、本末転倒なのである。


男女共同参画白書(概要版)平成28年版(資料:内閣府男女共同参画局)

本稿によって整理したかったことは、男性が優秀なのか、女性の方が優秀なのかを比較によって解き明かすことではなく、男性には男性の、女性には女性のそれぞれの特性と秀逸した能力が個別に備わっていること、そして男女ともに個々の特性が当然にして存在し、時には性差を超えた能力が発揮されること、それらも社会的要因によって変化し得るものであるから、如何に環境が重要であるかを知っておくことである。これらがベースとなって初めて女性の真の社会的進出は可能となり、活躍のステージが明確化し、更に飛躍へと結びつくのである。
後編では、各界各方面において活躍する方々のパフォーマンスに注目したそれぞれの適合性を検証しながら、本編の目的達成に必要な社会システムとは何かを考えてみたいと思う。
次月号に続く