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ラビットプレス+9月号


黒塗り高級車での送迎は権力者のステータス(イメージ:ブラバスVクラス)

兵庫県の井戸知事は10月31日、私用で神戸市中央区を運転中、転回禁止場所でUターンし、同県警葺合署から交通反則切符(青切符)注1を交付されたという。
井戸知事と言えば、令和元年8月、同県が公用車をトヨタのレクサスからセンチュリーに変更。知事、議長用計2台で7年間のリース契約の総額が約4200万円になり、従前7年間との比較で、消費増税分を含め約1400万円の負担増となったことを同県議会(兵庫県議会決算特別委員会)で問題視され、瞬く間に全国からブーイングを受けたのは最近の話だ。そして、今回の違反は「公用車センチュリー」での失態かと思いきや、井戸知事の自家用車で、ご自身がハンドルを握ってのことらしい。11月10日定例記者会見上、これについて記者から問われた同知事は、「明らかに私の不注意でミス。しっかりと反省したい」と述べ、原因については、「従来通ったことのない道に行き着き、Uターン禁止を見過ごしてしまった」と説明。反則金は既に納付したとした上で、「何十年も続けてきたゴールドでなくなるのが残念。自分の不注意を悔いている」と答えた。
センチュリーかレクサスか、SNS上のツイートで最も適当とされたのはクラウンだが、そんな話はさて置いて、そもそもこの知事さんの発言が事あるごとに癇に障るのは拙者だけではないだろう。
現在の知事制度は、昭和22年(1947年)に成立、施行された地方自治法により、府県が自治体になるとともに、身分も地方公務員に改められ、公選による直接選挙で選ばれ(同法17条)、都道府県を統轄し代表する執行機関であり(同法147条)、都道府県の事務を管理執行する(同法148条)。つまり、地方自治体における住人の代表として、絶大な権限と責任を負っているのが知事である。従って、知事の公式な発言は都道府県民の代弁であり、センチュリーに貴方も乗ってみたら?とか、ゴールド免許でなくなるのが惜しいなど、私人としての感情を露わにして発言することに問題がある。

注1
青切符は、軽微な違反や事故の際に切られる交通反則切符。青切符を交付された場合に予定されているのは、違反点数の加算と定額反則金の納付である。対象となる違反は多く、時速30km未満の速度超過や、信号無視、携帯電話の使用、車両定員オーバー、転回禁止違反などが青切符に当たり、点数でいえば一発で行政処分を受けることがない5点未満の違反で、青切符の交付時には、同時に反則金の納付書が渡され、期日までに反則金の納付を行えば刑事訴追が免除される。


上司だって見逃しません!?(イメージ:兵庫県警ポスター)

公用車に関する問題提起は何も兵庫県知事に始まったわけではない。
記憶に新しいところでは、舛添前東京都知事の湯河原別荘通い、橋下元大阪府知事のフィットネスジム通い、浜田香川県知事の同窓会出席送迎など、その他顕在化していないものも相当あるやもしれず、地方都市の首長や地方議会議長クラスの専用車、国会議員専用車など、日本国内の行政機関にはおそらく数百台に上る送迎用“公用車”が用意されているだろう。
兵庫県における今回の契約は、コロナ禍以前で、県議会でも承認されていたが、県では今年度、コロナ禍で1000億円以上の減収を見込む状況となっており、県庁職員のコピー用紙に至るまで「ケチケチ作戦」を励行しているなか、到底無視できる問題ではないと同県議会野党会派は質問の意図を明かしている。

【コロナ禍における地方財政の現状】
読者諸氏は、地方自治体の財政調整基金という名目の積立金をご存じだろうか。
地方自治体が財源不足や緊急の支出が生じた場合に備えて、「貯金」として積み立てる基金で、その他に、自治体の借金にあたる地方債の返済のための減債基金、庁舎や設備整備、災害対策など緊急事態に備えて積み立てる特定目的基金などがある。これらは地方自治法や地方財政法に基づき、各自治体の条例で置くことができる(朝日新聞総合2020.7.12)。
2004年度に政府の地方交付税(所得税や法人税など国税の一定割合を地方自治体に配分)の三位一体改革により、補助金削減、税源移譲と並んで交付税削減が進められ、04年から06年までの3年間の削減総額は5兆1千億円となった。これを契機に地方自治体の多くは前述の財政調整基金の取り崩しを余儀なくされてきた。
今回のコロナ禍においては、休業要請等に応じた事業者に対する協力金など、コロナ対策として地方自治体が独自に実施している給付金の格差が露見したわけだが、本年度において各自治体の財政調整基金残高の約半分が東京都の積立金であるなど地域差が著しく、コロナ対策に充当できる財源格差の一因となった。


大都会東京はやはり一人勝ち!(イメージ)

地方自治体の財政基盤、所謂歳入は、地方税注2、手数料、施設等利用料、国庫支出金(各種補助金等)、地方交付税、地方譲与税、地方債などで賄う。

注2
道府県が課する租税の総称。普通税と目的税からなり、前者には道府県民税・事業税・地方消費税・不動産取得税・道府県たばこ税・自動車税などがあり、後者には自動車取得税・軽油引取税・入猟税・水利地益税などがある。地方税法上、道府県税は都に準用され、都税と読み替えられる。[出典:精選版日本国語大辞典]

一例を挙げると、大阪市における財政収支概算(粗試算)における平成31年(2019年)2月版と令和2年(2020年)3月版の向こう10年間の予想収支をグラフで見れば、将来世代に負担を先送りしないため、「補てん財源に依存」するのではなく、「収入の範囲内で予算を組む」ことを原則とし、行財政改革を徹底的に行い、「通常収支(注)(単年度)の均衡」をめざすとした2019年2月試算では、2022年から2023年には収支が黒字化出来るとしていた。
しかし、2020年3月版では、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大が歳出・歳入両面に与える影響や、高齢化の進展、障がい福祉サービス利用者の増加等に伴う扶助費の増や、投資的事業の財源として発行する起債償還の増等により、通常収支不足が拡大するとし、試算期間を通じて通常収支不足が生じるなど、前回(2019年2月版)に比べ収支が大幅に悪化する見込みとなっている。


資料:大阪市財政局

11月の半ばに差し掛かり、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に黄信号が点った。日本医師会の中川俊男会長は11日の記者会見で、全国の新型コロナウイルス感染拡大に関し、「第3波と考えてもよいのではないか」との現状認識を示した。北海道をはじめとする感染者の急激な拡大により、全国各地で三度増え続ければ、「医療提供体制が全国で逼迫するのは明らかだ」との懸念を示し、国民全体の高い感染防止意識が必要不可欠であると述べている。このような状況が長期化すれば、企業収益が悪化し、企業が納める法人住民税や法人事業税が減少し、従業員が解雇や減給になれば、従業員が納める住民税が減少する。各自治体の地方税収は1割から3割を超える減収になるかも知れないと、地方財政に及ぼす影響を危惧する(金目哲郎・弘前大学人文社会科学部准教授)。


ステージ3は到来したのか?(資料:朝日新聞)

【更に加速する税収減・・・財政危機に直面する地方自治体】
多数の自治体が、貯金にあたる財政調整基金の大半を補正予算に充てた。また、財政調整基金が枯渇したところでは、別の用途の基金を取り崩して予算編成した自治体も出ている。2021年度の各自治体における予算は、企業の収益悪化などから税収不足がさらに深刻化する見通しとなっている。
大阪市では、令和3年度(2021年)の税収を下方修正し、6924億円見込みとした。これは、前年度の予算から▲496億円の減収となり、法人市民税▲36.9%、個人市民税▲6.2%など税制改正による影響も反映している。また、本年度に市税、贈与税・交付金の徴収猶予額は約180億円。固定資産税の軽減による減収は123億円と試算される。リーマンショックの影響を受けた2009年度の市税収入は、前年度に比べて▲472億円だったが、それを上回る景気後退が財政を襲うというのである。


関西の経済はどうなるのか…(イメージ:兵庫県庁左と大阪市役所右)

前掲の井戸知事率いる兵庫県の財政状況は、本年8月に県が公表した2019年度決算見込みによれば、実質収支の黒字幅が、過去43年間で最も低い2500万円に減少。基金の積み立て(貯金)を加味し《実質単年度収支》は12年ぶりの赤字(3億900万円)となっている。これは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による市場激変の影響を殆ど受けていない数字である。従って、2020年度における収支は大幅に悪化することが予想されている。歳出に関しては、そもそも幼児教育の無償化などで社会保障関係費は3190億円(同4.5%増)に膨らみ、公債費(借金返済)は、臨財債の元金償還開始などで0.8%増え2656億円と財政を圧迫しているうえ、兵庫県には震災関連の残高が3229億円。2768億円の県債残高(行財政構造改革の期間中に収支不足を補った分)をも抱え、苦しい台所事情が続く。
一方で、公営企業会計(8会計)の純損益は27億円の黒字を確保しているが、このうち病院事業会計について、短期間とはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う入院病床の確保や受診控えなどで、39億8800万円の赤字を計上している。
このような現状下での「センチュリー」騒動であり、問題にならない方がおかしいと思うのは健全な県民感情だろう。野党県会議員の追及も当然のことなのだ。何せ、現知事は5期20年の任期を務めてきているわけだから、兵庫県の財政について誰よりも危機感を持っていなければならないからだ。

【アフターコロナでの地方財政健全化】
地方財政法(昭和23年法律第103号)という法律が在る。
この法律は、地方公共団体の財政の運営、国の財政と地方財政との関係等に関する基本原則を定めることにより、地方財政の健全性を確保し、地方自治の発達に資することを目的としている。また、この法律で、地方公共団体は、国の政策に反して、国及び他の地方公共団体に損害を与えてはならないとし、国は、地方公共団体に対して自主的な健全運営を助けると共に、自立性を損なうような負担を地方公共団体に転嫁してはならないと規定している(第2条1項、2項)。
法が規定する地方公共団体の「健全財政」とは、第1に、財政運営の「堅実性」である。具体的には、その自治体における財政収支と推移が均衡のとれたものであること。第2には、財政構造(体質)の健全性で、その財政が、経済変動や財政需要の増嵩に堪えうるだけの体質を持っているかどうか、つまり「弾力性」である。第3の条件は、「適正な行政水準の確保」と向上性である。住民の行政需要に応えながら、限られた財源の中で収支の均衡がとれた財政運営を続けていくことが、地方公共団体に求められる「健全財政」を支えるということだ。

さて、読者の皆さんがお住まいの地域行政は健全な自治体として評価されているだろうか。
全国815市・特別区と47都道府県、926町村の最新データから毎年財政健全度ランキングを報じている東洋経済「都市データパック2020」によると、市の財政健全度では、1位が刈谷市、2位みよし市、3位は安城市と、トップ3を愛知県内の市が独占している。脳裏に浮かぶのはトヨタ自動車㈱関連の産業基盤だ。これら3市は共通する点として、弾力性のカテゴリーで評価が高く、強固な産業基盤を背景とした潤沢な財政収入がある半面、財政規模に対して固定的な支出が十分に抑制されていることが挙げられる、としている。トップ10のうち8市が愛知県下の自治体というのもあっぱれだが、トヨタでさえ、永久的に繁栄を続けられるかどうかはわからない。


イメージ(東洋経済)

【コロナ危機・財政出動の始末は…】
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、各国・地域が検討している財政出動額が200兆円超と金融危機(リーマン)当時を上回り、年間で史上最大規模に膨らむ見込みだ。日米欧や中国の巨大経済圏でヒト・モノ・カネの流れが滞る前例のない事態に発展し、景気後退が現実味を帯びる。(時事通信ワシントン支局2020.3)
それ以降、コロナ禍の終息は見えず、日本国内だけでも100兆円を超える財政出動を発し、世界規模では1200兆円(11兆ドル)に迫る勢いだ。
本年7~9月期の実質国内総生産(GDP)はプラス成長となるが、コロナで落ち込んだ分の半分程度の回復と予測される。経済財政諮問会議の民間議員は、これまでのコロナ経済対策によるGDP押し上げ効果が20年度の約35兆円から21年度は約4兆円に縮むと試算。人の移動と外需の回復で補えない分は追加策で下支えするよう求めている。(日本経済新聞2020.11.10)

アフターコロナとは、新型コロナウイルスに対する有効なワクチン(治療法)が開発され、誰でもが利用可能となった時、我々はコロナ後の世界へとようやく足を踏み入れたと言えるのだ。その段階になると、各国政府は持続可能で包摂的な成長へと財政政策の舵を切る必要が生じる。最優先課題は公衆衛生に係る政策である。保健リスクを軽減することで、景況感と信頼の回復に繋がり、経済活動と雇用を後押しすれば、財政の負担を減らすことが出来る。コロナ危機からの脱却が確実かつ持続的であることを実感できるまでは、財政政策は景気を下支えし、柔軟であり続ける必要がある。脱却が不確実の状況で財政の引き締めに転換すれば、景気回復は間違いなく腰折れし、結果的に将来の財政コストを増加させることになる。今回のコロナ危機では、これまでの社会構造に大きな変化をもたらせた。壊された雇用の多くは、おそらく戻ってこないだろう。航空業などは、縮小が続く可能性がある。IT関連やデジタルサービスのような、拡大部門へと資源の移動を促進することが必要となる。支払い能力の有無による企業の区別も必要となる。政府は、それを基に転換社債の活用や、経済再生システム上重要な企業を対象に資本を注入(一時国有化を含め)することによって、さらなる対策を講じることができるのである。そのためには、政府による財政支援の継続が必須条件である。


アフターコロナ時代の暮らしは…(イメージ)

日本政府は既に、例年を大きく上回る規模の国債を発行している。特別定額給付金(国民一人当たり10万円)のための支出は13兆円に上り、国債によって全てが賄われている。その他、持続化給付金や雇用調整助成金の拡充など、様々な政策が実施されており、2020年度の新規国債発行予想額は90兆円を超える。
以前から言われているが、国の「借金」は、2020年3月末時点で1114兆5400億円(財務省公表値)となり、過去最大を更新した。今年度末には単純に1200兆円を超える計算で、8月に開催された政府税制調査会では消費税の増税が必要という意見が出ている。2011年の東日本大震災によって創設された「復興特別税」と同様に、コロナ増税が実施される可能性は高いかも知れない。本当に増税が唯一の財政再建策なのだろうか。
この問いに関しては次号で述べてみたい。皆さん良いお年を。