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ラビットプレス+9月号


マンションでも戸建でもバルコニーは重宝する(イメージ)

今年のお盆休みは過去に経験したことのない“戸惑いの時間”ではなかっただろうか。例年なら5月のGW明け当たりから既に帰省のために交通機関の予約や旅行の手配、家族や友人との日程調整を済ませ、梅雨明けのギラギラ太陽に向かって非日常の世界へ飛び立つ人々で駅、空港はごった返していた。
ところが今年はどうか。本格的なお盆休みに突入した8月8日(土曜日)。東京駅を出る下り新幹線の予約状況は昨年の2割前後(JR各社発表)に留まり、自由席の乗車率に至っては東海道新幹線下り列車が5%から最高でも50%であった。空の便も同様で、全日空によれば、お盆期間中に予約していた航空券をキャンセルした人は、8月1日から8日までの一週間で約26,000人以上だと報じた。

然らば、毎年帰省や旅行を実施していた人達はどう過ごしていたのか。県外への移動自粛は殆どの都道府県において要請され、ご自身の居住する地域内を目的地とした日帰り旅行や、政府の『Go Toキャンペーン注1』対象の旅行や宿泊、近場での食事などで戸惑いの時間を過ごされた方はまだしも、仕事の先行き不安や、既に窮地に陥ってしまった産業分野で働く人々などにおいては、「Go To」といっても何処へ向かえば良いのかも見えない、混沌とした気分で居られた方々も多かったのではないかと察するに余りある。


夏休みでもこの状況(成田空港:日本経済新聞)

とにかく、今年の夏は、全く次元の違う時代の幕開けを予感させる夏だ。なんとなく季節感も後ろにずれこんで、遅い梅雨明け、酷暑の続く暦上の秋と、人間の生活様式そのものの対応も迫られている。
先月号では、テレワークや在宅型就業形態に則した住宅活用のヒントとして、ログハウスの魅力をお伝えしたが、本編では今在る住宅のニッチスペースを見直し、アフターコロナ時代の住宅活用術について考察した。在宅が増え、家族と言えども共有する時と空間に息苦しさを感じ、それぞれの居場所が無いとお嘆きの方に贈る『バルコニー』の利活用法。ただし、戸建て住宅は特段、集合住宅のバルコニーには法律上や規約上の規制があるので、用法を正しく理解して活用することをお願いする。

注1
「Go Toキャンペーン」とは、新型コロナウイルス感染収束後に日本国内の人の流れを創り出し、地域の再活性化につなげることを目的として、観光・運輸業、飲食業、イベント・エンターテインメント業などを対象に、補助金の支出により需要喚起を目指すキャンペーン施策の総称。政府は複数の省庁に掛けてそれぞれの産業分野別にキャンペーン内容を策定し、第一次補正予算にて事業総額1兆6,794億円が計上された。中でも目玉となっているのが国土交通省観光庁管轄の「Go To Travel」で、予算規模1兆1千億円の大盤振る舞い。先陣を切って国内旅行や宿泊を対象に、地方創生と観光産業の復興を目的として登録旅行会社が販売する旅行商品(交通+宿泊のフリープラン、団体ツアーなど)や、登録宿泊施設が直販予約システムで販売する宿泊プラン等を予約する際に、最大半額相当(1泊あたり最大2万円/日帰りの場合最大1万円)の補助が適用される。キャンペーンの対象期間は2020/7/22~2021/1/31まで(7/27より準備の整った事業者から割引価格で旅行販売開始)としているが、キャンペーン開始前に予約した旅行についても、7/22~8/31の宿泊分については旅行後の申請により割引分が還付されることとなった。詳細は下記観光庁資料を参照。
https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001357523.pdf

【バルコニーの定義と法規制】
バルコニー (英:balcony)は、建物から外部に張り出した手摺付きの開口部の露台を言う。バルコニーは古代ローマ時代、既にその原型が登場する(日本建築学会論文・カタルーニャの歴史的都市邸宅ファサードにおける開口部とバルコニーの変遷:近代以前の都市住宅におけるバルコニーに関する研究 「その1」・熊谷亮平;松村秀一)。また、ラテン語のバルコニーを意味する(Balcone)は、劇場の観客席などを言う(balco)から派生した言葉で、現在では一般観客席とは別に上階部分の特別席を指すのに使われるようにもなっている。
バルコニーとベランダ、テラスなど、呼称表現の違いに対する解説は本編の目的ではないので触れないが、共通する部分として、建物内部ではなく、敷地内に在りながらある意味独立的な空間・スペースという場であることを念頭において話を進めていこう。

日本の建築基準法ではバルコニーやベランダの法的定義はなされていない(テラスについても同様)。テラスはそもそも建築物の一部ではないので、特に外観的イメージから名付けられる場所であり、建築物と一体をなす形状をいう場合には、基準法上の要件により、テラスと称されても、それはバルコニーやベランダとして取り扱うこととなる。ベランダとバルコニーの違いが、一般的に「屋根の有無」によって定義されているが、ここでは、「バルコニー、ベランダとは、建物から突き出して床を構成する部分」で、屋根や壁の有無は関係ないものとする。
また、2階以上に設ける場合、転落防止柵の設置にも規制が掛かる。建築基準法施行令126条は「(屋上広場等)屋上広場又は2階以上の階にあるバルコニーその他これに類するものの周囲には、安全上必要な高さが1.1m以上の手すり壁、さく又は金網を設けなければならない。」とし、建築基準法の「避難規定の掛かる用途・規模の建築物注2」に対して適用される(ただし、バルコニー等の床から足掛かり(壁の立ち上がり)がある場合、地方自治体の定める条例によっては規制が変わるので注意が必要)。


足掛かりと柵の関係に注意(イメージ)

注2
手すり高さの制限(令126条)が適用される建築物とは、
建築基準法別表第一(い)欄(一)項から(四)項までに掲げる用途に供する特殊建築物、階数が3以上である建築物、採光無窓居室(採光に有効な開口面積<居室面積×1/20)のある階、延べ面積が1000㎡を超える建築物である。
別表第一 い欄
 (一)劇場、映画館、演劇場、観覧場、公会堂、集会場、その他これらに類するもの
 (二)病院、診療所(有床)、ホテル、旅館、下宿、共同住宅、寄宿舎、その他これらに類するもの
 (三)学校、体育館、博物館、美術館、ボーリング場、スキー場、スケート場、水泳場又はスポーツの練習場
 (四)百貨店、マーケット、展示場、キャバレー、カフェー、ナイトクラブ、バー、ダンスホール、遊技場、
    公衆浴場、待合、料理店、飲食店、物販店(10㎡超)

なお、住宅を新築する際や既存住宅における増改築に関し、建物の床面積への参入や、斜線制限にも留意しなければ違法建築となる恐れもある。床面積とは、建築基準法施行令2条1項に、「三  床面積 建築物の各階又はその一部で壁その他の区画の中心線で囲まれた部分の水平投影面積による。」とされているが、建設省住指発第115号 (昭和61年4月30日)において、「外気に有効に開放されている部分の高さが、1.1m以上であり、かつ、天井の高さの二分の一以上である廊下については、幅2mまでの部分を床面積に算入しない。」とする措置(住宅局建築指導課長通知)で統一されているが、特定行政庁の建築主事による解釈にも掛かるので、建築確認の必要の有無や、容積率、建蔽率等、設置するバルコニーの形状によっては適用される法令、条例に対する注意が必要となる。
 
バルコニーの中でも屋根を兼ねる構造のルーフバルコニーは、都市計画法により指定される地域に応じた防火性能を要求される。その場合、建築基準法上の耐火性能注3の具備が必要となる。

注3
耐火性能は主として次の二つの要素によって決められる。
1.都市計画による指定地域:防火地域・準防火地域・法22条地域
2.建築基準法上の建築物の種別:耐火建築物・準耐火建築物
耐火性能確保については、平成12年国土交通省建築基準法告示1400号指定の材料または、大臣認定仕様の不燃性能が認められた材料を使用して施工しなければならない。
 
更にルーフバルコニーの場合は防水性能が必須条件となる。防水の工法には種類があり、防水施工箇所の特性(施工後人や物に影響されない、日光の照射時間や気候条件、建物構造による揺れや振動条件など)によって、シート系防水(塩ビまたはゴムシート)、塗膜系防水(ウレタン、FRP)、アスファルト防水などから選択する。
材質によってそれぞれ長短があり、施工箇所の向き不向きに留意して施工する必要がある。
 
 シート系防水
 長所:耐久年数は13年から15年程度と長期。施工費用が安価。
 短所:施工下地の状態により施工不良を起こしやすい。歩行や車両通行はジョイント部分の剥がれを助長するので
    不向き。
 
 塗膜系防水
 長所:液状の材料であり、施工下地の状態を選ばない。トップコート(最上部塗膜)の塗り替えによりメンテナン
    スが安価で容易。
 短所:材質が柔らかいので重量物の設置などにより傷つきやすい。材料や施工方法によっては高額になる。
 
 アスファルト防水
 長所:アスファルトルーフィングシートとアスファルトコンパウンド(アスファルトタール状に熱で溶かしたも
    の)を三層貼り合わせるので、耐久性(15年から20年)に優れる。
 短所:仕上げにコンクリートで保護するため、防水層の状態を確認できず、メンテナンスのタイミングを逸し易
    い。メンテナンスの工事費が高額。


ウレタン系塗膜防水工事(イメージ)

【バルコニーの有効利用が家庭を救う?…戸建て住宅の場合】
戸建住宅には建物本体に掛かる利用上の規則や規約は存在しないので、前述した法令上の制限をクリアし、所有権の許容範囲で自由に利用することができる。自宅が密集市街地内に在る場合、隣接する家屋の居住者への配慮が必要となるが、騒音や臭気による影響を与えないなら“第三の部屋”として活用することができる。
1.面している部屋を拡張する
既存のリビングや寝室などと隣接しているバルコニーなら、部屋の拡張という視点で改築を検討してみてはどうだろう。何かと物が増えすぎ、くつろげるはずであったリビングも、今や生活臭が充満する空間にしか過ぎない。そこに改めて安らぎを取り戻す。LDKという間取りが一般的となった現代の戸建住宅では、リビングにバルコニーやベランダを設置している間取りが多いので、既存のサッシを枠ごと取り外し、リビングの面積を広げる工事を推奨したい。その際、不要な家具(敢えてソファーを指定したい)などは思い切って断捨離することは当然で、ビフォーアフターのイメージを刷新することが肝要だ。また、リビングは家庭内でのパブリックスペースであることを意識し、家族全員で広がったリビングの使い方を話し合うことこそが重要な目的である。
また、夫婦の寝室を拡張する場合、広がった分だけ別の使い方を考えるのではなく、就寝スペースを分離するという野望?に挑戦してみてはどうか。結婚してから何年も新婚当時のまま、これといった会話も無いのに、Wベッドで休んでいるとか、シングルベッドを二台並べて、互いに背を向けて寝ているなど、スペースの関係で、そこはもうどうしようもないと諦めているなら、広がったスペースも二分して、それぞれの就寝スペースを新たに確保してみるのである。離れてみてこそ気づくことは非常に多く、そして有益であることは間違いないのだ。


リビング拡張リフォーム(イメージ:ミサワホーム・シニアス)

2.完全分離の瞑想ルーム
バルコニーを改装して一部屋を増床することは出来るけれど、そもそもバルコニーは居室としての構造を満たしておらず、また広さ的にも3畳前後しか増やせないというのであれば、是非お勧めしたいのが瞑想の部屋を造ることだ。瞑想自体は一般的で、珍しいものではないが、騙されたと思って体得してみて欲しい。
瞑想とは、“心を静めて無になること”である。瞑想は、目を閉じ、姿勢を正しく保って呼吸を整えるよう集中することから始め、毎日続けて実践することで、リラックス効果や心の整理ができると言われている精神療法である。瞑想によって得られる効能は、ストレスの軽減から解消、集中力の鍛錬、ポジティブシンキングの思考といった、現代人には非常に有益で、誰もが求める精神的安定領域に達するための修練である。考えてみて欲しい。本編で検証していることそのものが、皆さんの日常生活における安定領域への誘いであり、アフターコロナの時代を健やかに生き抜くための住宅活用術なのである。ハード面だけにいくらお金を投資し弄ってみたところで、何の解決にも至らないのだ。要は、何を目的とし、それを達成するためにどう使うか、をイメージしたリフォームでなければ無意味だからだ。


瞑想することができる場所は…(イメージ)

さて、瞑想ルームは光も入らず、音ひとつ聞こえない深い海の底のような環境が求められるとお思いの方、それは真逆である。瞑想こそがそのような脳内環境を創造するのであって、物理的環境には左右されないと言われる。従って、どんな環境の住宅であろうが、貴方が深く腰を下ろせるスペース、足腰が弱い方にはゴロンと寝そべられるスペースさえ確保できれば瞑想ルームは作れるのだ。「起きて半畳、寝て一畳」とは昔の人は言い得て妙である。

【バルコニーの有効利用が家庭を救う?…マンションの場合】
マンションや集合住宅のように、バルコニー自体に所有権や自由な裁量権が及ばないスペースの有効利用には限界があり、利用可能範囲が極端に狭くなる。バルコニーとは、建築基準法上も屋外の解放廊下や階段と同様に、吹きさらしの床を言うのであり、原則として造作や部屋としての利用は出来ない。従って、現状での利用可能範囲で有効なスペースとして“活用”することだ。特に階下の屋根を利用するルーフバルコニーでは、防水や防音、防火対策に法的制限も掛かることから、お住まいの定めるルールを遵守した用法を見出すべきである。

今主流の利用方法として、戸建ての「庭」感覚で、ウッドデッキや人工芝などを多用したカフェテラスやバーベキュースペースなどの活用方法が取りざたされているが、拙者は集合住宅のバルコニーの活用方法として、植物の寄せ植え注4など、鉢物を利用した坪庭を提唱する。ただし、ご注意頂きたいのは、バルコニーの床面に直接花壇などを造作し、土を入れたり、根物を植えてはいけない。通常のガーデニングという感覚ではなく、あくまでも鉢植えの植物を主体とし、バルコニーの一角を利用した移動可能な坪庭である。これは、共用部分であるバルコニーの特性と、狭い空間に物が溢れることを防ぎ、且つ植物という“生き物”と向き合う時間と場を得るという理由からで、目的はアフターコロナ時代を生きるために必要な家庭内環境の整備である。


ベランダBBQも良いけれど…(イメージ:President resort)

注4
寄せ植えは、ひとつの場所(鉢など)に複数の植物を植えることで、全体の調和や、華やかさを演出し、狭いスペースでも高度なガーデニングセンスを発揮することができる技法である。創作者の個性や感性、植物に関する知識などが要求され、内面に潜む世界観を表現するアートとしても人気がある。
 
鉢植えを使用するメリットは、交換がし易く移動も簡単であることから、並べ替えなどで違った坪庭の表情を作り出すことができ、部屋から観る風景も変化して飽きが来ないことにある。また、スペースの広狭によって植物の種類を選べる利点や、時には部屋内に運び入れることで、室内にもその効果を享受させることが出来る。そして何といっても生き物だということだ。世話をしなければ死ぬのである。


寄せ植えは填まります(イメージ:楽天市場)

人間は一人では生きられない動物である。縁があって家庭を築き、家族を持ち、その仕事に就き、係わる人々と共に苦楽を生きてきたと言えども、全てが最良の関係ではないのである。夫婦だから、家族だから許されることも、その逆もあることを、コロナウイルス禍が教えてくれたのではないだろうか。結果として離散することも自由であるが、続けていくことを選択するなら、工夫と努力が必要だ。
たかがバルコニーと一笑するも、されどバルコニーである。使い方によっては、バルコニーにそよ吹く風が、忘れていた幸福感を思い出させてくれるかも知れない。