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ラビットプレス+7月号


喫煙者にもわかりにくい?(出典:東京都福祉保健局)

新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて、本年4月7日に埼玉県、千葉県、 東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県及び福岡県の7都府県に対する緊急事態宣言が発出(新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項の規定に基づく)され、4月16日になって40道府県を追加して対象を全国とした緊急事態措置が実施された。
我が国では諸外国のような都市封鎖(ロックダウン)こそ行われなかったが、所謂「3密」を避ける措置として、都市間や都道府県境を跨ぐ国民の移動を自粛するよう行政が主導して強く要請したり、過密空間を作り出す業態の事業関係者に対する「営業自粛要請」や、航空機をはじめとする公共交通機関の運行量の大幅削減などの措置が続き、5月25日に緊急事態宣言が解除されるまで、政治・経済活動はもとより、国民生活までもが完全に停滞に陥った。
本項執筆時点では、パンデミックの第二波に対する警戒感も続く中で、少しずつではあるが“平常”を取り戻そうとする社会の動きが見え始め、願わくば完全終息に向かって欲しいのだが、まだまだこれから予断を許さない状況である。読者諸氏におかれても、一層の感染防止と疲弊されたメンタル面の改善にご自愛頂きたい。

そのような社会情勢の中、テレワークや在宅勤務が増えたことで様々なシーンの弊害が報告されている。「コロナ離婚」や「コロナDV」など、物騒な話も巷にはあふれ返っている昨今だが、喫煙者にも一層の肩身の狭さを痛感された方々も多かっただろう。一旦外に出れば、まだ何とか喫煙場所を探し当てて至福の一服を醸すことも出来たのだが、自宅ではそうはいかない。ましてや子供たちも長期間の休校で自宅に籠っている。分譲マンションでさえ、管理組合の規定によってベランダやバルコニーでの喫煙も禁止され、換気扇の下では共用部分に煙が漏れて隣近所から烈火のごとく怒られる。電子タバコの臭いもダメ。在宅のストレスと重なって、スモーカーは詰将棋の雪隠で、王手投了寸前なのだ。
本編では、そんな由緒正しき善良な喫煙者の皆さんや、受動喫煙撲滅を叫ぶ非喫煙者の皆さんにも知って頂きたい煙草の話を纏めてみたので是非お読み頂きたい。最後までお付き合い頂いたあと、さて喫煙者は禁煙を誓うのか。また、非喫煙者は煙草の何たるかをどうご理解頂けたか。何はともあれ人間健康が一番。何事もほどほどになされませ。


一服しながらお読みください?(イメージ)

【最新版・煙草にまつわるルールの今】
まず初めに、この煙草問題という一大事は一体いつごろから表面化してきたのか。お忘れの方も多いと思うので、時代を少し前に戻って時系列に整理しておこう。
喫煙率のピークは男女とも昭和41年(1966年)に遡る注1。当時、男性が83.7%、女性が18.0%で、特に男性は煙草が当たり前の時代だった。その時代を知る年齢の人であれば、通勤電車や列車、タクシー、航空機などの公共交通機関を含めたあらゆる移動手段の中で、また役所、オフィスは勿論、病院の待合室や病棟内での喫煙もごく当たり前に行われていたことを思い出すだろう。当時の日本映画のヒット作を観返しても、スターの手に、口元に、ワンシーンごと、常に煙草は小道具の一つとして登場し、燻らす煙の向こうにヒロインをぼんやり映し出すカメラワークは、煙草を吸う者だけの特権として、銀幕の向こう側の世界に誘ったのであった。

しかし、平成の時代に入ると、状況は一変する。
喫煙率は年を追うごとに低下し、遂には平成30年(2018年)の男性27.8%、女性8.7%という数字にまで減少。全体の喫煙率も17.9%と、専売公社による昭和40年(1965年)からの調査開始以来、最も低くなった。禁煙を推奨する医療機関などには含有タールで真っ黒に変色した肺を写したショッキングなポスターが貼り出され、各種学会において、副流煙による「受動喫煙」の健康被害が発表され、メディアにも多く取り上げられるようになった。そうして喫煙者本人はもとより、吸わない人々(非喫煙者)にも悪影響が深刻であるということで、社会全体に煙草を敵視する風潮が根付いたと言える。平成の時代は煙草離れの時代であった。

注1 日本たばこ産業(JT)全国たばこ喫煙者率調査

(資料:産経新聞社)

平成14年(2002年)8月2日、云わずと知れた健康増進法(平成14年法律第103号)が公布され、国民の健康維持と現代病予防を目的として、健康維持を国民の義務とし、厚生労働大臣が国民の健康の増進のための基本的な方針を定めたうえで、主に自治体や医療機関などに協力義務を課してた法律である。
そして、平成30年(2018年)7月25日、健康増進法の一部を改正する法律が公布され、平成31年(2019年)1月24日から、喫煙する際の周囲の状況への配慮義務等の施行、令和元年(2019年)7月1日からは第一種施設(学校、病院、薬局、児童福祉施設等、行政機関の庁舎など)の敷地内について原則全面禁煙が段階的に施行注2された。

また、法律や都道府県の喫煙に関する条例などによる他、煙草の値上げによる喫煙者の減少も忘れてはならない。煙草の価格が上がる要因としては、主に増税に伴う収益減を補填するために行うもので、その他銘柄の変更や新商品の発売に乗じた値上げも過去に行われている(例:マイルドセブン→メビウス)。
※ハイライトの値段推移

1960年  70円  新発売時
1970年  80円  タバコ税増税
1975年  120円  タバコ税増税
1980年  150円  タバコ税増税
1983年  170円  タバコ税増税
1986年  200円  タバコ税増税
1997年  230円  タバコ税増税
1998年  250円  タバコ特別税施行
2003年  270円  タバコ税増税
2006年  290円  タバコ税増税
2010年  410円  タバコ税増税
2014年  420円  消費税増税
2018年  450円  タバコ税増税(2019年消費税増税は据え置き)

注2 健康増進法改正法:2020年4月1日施行
多数の者が利用する施設(※2人以上の者が同時に、又は入れ替わり利用する施設)等は、当該施設等の一定の場所を除いて喫煙が禁止されると共に、当該施設等の管理について権原を有する者が、受動喫煙を防止するために行わなければならない措置が定められた。
多数の利用者がいる施設において屋内原則禁煙となり、施設によっては屋外を含めた施設内が原則禁煙となり、学校・病院・児童福祉施設といった行政機関、旅客運送事業自動車・航空機については、屋内は完全禁煙で、喫煙室等の設備を設けることもできない(ただし屋外には、必要な措置が取られた場所に限り、喫煙場所の設置ができる)という愛煙家にとっては厳しいものとなる。


受動喫煙対策啓発ツールより(資料:excite)

【人は何故煙草を吸うのか】
JTが喫煙者に行ったアンケート結果注3によれば、煙草を吸う動機は「リラックスのため、気分転換のため、ストレス解消のため」という回答が上位であり、見た目の格好良さやアイテムとして捉える、所謂生活スタイルの一部であるとか、吸わないことがストレスであるなどの回答が続いている。
また、別の煙草に関する民間調査機関のアンケートでは、禁煙する予定が無いと答えた喫煙者の割合は53.7%であったが、具体的に禁煙すると答えた割合はわずか5.6%に過ぎず、残りの40.7%は「いつかは禁煙する」と回答した。非喫煙者や嫌煙家から言わせれば、「煙草を止めない」人が喫煙者全体の約95%に上る驚くべき結果ということになる。

注3
JTをはじめ、大手企業や医療機関などが煙草に関する調査、アンケートを多様な視点から行っている。最近は特に喫煙マナーに関するものや、禁煙意識に関するものなどが多く、喫煙者と非喫煙者の双方に回答を求める例が目立っている。
一例として、ネットリサーチのDIMSDRIVE(運営・インターワイヤード株式会社)では、「喫煙・禁煙」についてアンケートを行い、喫煙率、マナー違反、禁煙成功に関するエピソードなどについて、2018年6月20日~7月10日にかけて実施した(モニター3,893人から回答)結果の纏めは以下の通りであった。
● 喫煙率は2割。喫煙経験率は5割。9年前より8%喫煙者が減少。
● 喫煙者が煙草を吸いたいと思う場所・・・「自宅」に次いで多いのは「飲食店」。
● 禁煙する予定はないが53.7%。喫煙者のほぼ半数。
● 居酒屋、バー、コーヒーショップなど、飲み物と喫煙はやはりセットなのか。
● 煙草でリラックス、ストレス解消などの効果を感じているのは女性の方が多い。
● 止めたいと思ったきっかけは、「健康」が断トツ。
● 煙草の煙や臭いが気になる人の8割以上が、どこで吸っても気になると。
● ポイ捨て、歩きタバコは論外。ベランダや庭も止めてほしいが3割も。
● 禁煙のきっかけは、孫のひと言、節約、病気と、あとは自分の強い意志。
(以上 ネットリサーチDIMSDRIVEまとめ)

何故煙草を吸うのか、という問いかけに戻ってきた大方の共通した答えがストレス対策であった。多様なストレスと向き合って生きる現代人(否、古代マヤ文明遺跡から煙草を神事に使用した様子が描かれた絵文書が発見されていることから、1500年もの昔より人間との関りがあったのだ)には、どうも主成分であるニコチン≒nicotine(植物塩基・アルカロイドの1つ。主にタバコ(Nicotiana tabacum)の葉に含まれる)がもたらすリラックス効果が喫煙者に認識されているため、イライラしたときや疲労したとき、特に効能を感じるのだろう。
一方、このニコチンは依存性(個人差によって強く現れることもある)が確認されてるため、喫煙を止められない大きな原因となっている。しかしながら、ニコチンと同じく依存性のあるアルカロイドの一種であるカフェインやコカイン、モルヒネなどと比較した場合、毒性が低く(体内摂取量の多少や神経毒性と精神毒性の有無など)離脱も比較的容易である注4ことなどから、喫煙(未経験者含む)するものにとっては安心感と入手のし易さで、習慣化を招いている。

注4
厚労省が実施した調査結果に示されている、男性の年代別喫煙率を見ると、20歳代から50歳代まで55.3%~58.6%と殆ど差がありませんが、これが60歳代では36.8%、70歳代では27.7%と、喫煙率は急激に下がります。喫煙が単にニコチン依存によるものならば、何故60歳代や70歳代で急に禁煙できるようになるのかの説明がつきません。これについては、禁煙を行った理由を喫煙者の80%以上が「健康のため」としていることや、そもそも喫煙がストレスの抑制やリラックス効果を目的とした行為であることから、社会の第一線を退く年代になってようやくストレスから解放された結果、比較的安易に禁煙に踏み切れたということではないでしょうか。ニコチンには依存性がありますが、その程度が弱いことについては、科学的にも認められています。(JT 人はなぜたばこを吸うのでしょうか?喫煙者は依存「症」なのでしょうか?)


【新型コロナウィルスやアルツハイマー、花粉アレルギーと煙草の奇妙な関係】
現代に生きる我々は、生活地域の違いこそあれ、殆どの人々が文明社会の恩恵と影響の下に生きている。遡ること今から凡そ250年前ごろ、イギリスを起点として始まった産業革命注5。その潮流はやがて世界を席巻し、資本主義経済の確立と共に、人類は自ら進歩の行く先を生態環境の破壊へと向かわせた。化石燃料を自由自在に使う人類にとって、利便性追求のみが進歩、発展の目的であったため、僅か250年の間に、地球上の空気と水、人間以外の生物体系を狂わせ、それらに与えた悪影響は計り知れない。そして、人類もまた自らを汚染し続けてきたことも、近年になってようやく気付いたのである。
つまり、地球の環境破壊(環境悪化による生体への影響も当然包括する)は特に産業革命以降、人類の経済活動を支えるために排出された化学合成物質や有機塩素化合物によることは既に自明である。従って、諸悪の根源が煙草であるような風潮をもたらした一部嫌煙グループの行き過ぎた議論は、明らかな誘導だと言わざるを得ない。

注5
産業革命(Industrial Revolution)は、18世紀半ばから19世紀にかけて起こった一連の産業の変革と、それにともなう社会構造(特に資本主義の確立)の変革のことである。狭義には、イギリスにおける技術革新に伴う産業上の諸変革で、特に手工業生産から工場制生産への変革と、社会構造、経済構造の大きな変化を指す。広義にはイギリスから世界中に波及した同様の変革を言う。


産業と経済発展に犠牲となったものは…(資料:北九州市 八幡製鉄所)

煙草の効能については、それを扱う研究者や医療関係者によっても視点がまちまちであり、一概に肯定、否定は出来ないと言わざるを得ない。真に中立的な立場で発表された論文は少なく、説得力という点でも、以前喫煙者であったが禁煙に成功した元ヘビースモーカーや、非喫煙者でありながら肺がんを発症し、生還した経験を持つ人にあっては経験者として説得力が有りそうに思われるが、逆である場合が多い。つまり、得てして成功者は、自身の経験から主観的な意見が主張全体に影響していると考えられるからである。
『煙草を止められないのは意志が弱いからではなく、喫煙の本質が薬物依存という「脳の病気」だから』と論じる医療関係者は多い。しかし、この言い方の半分は正しいが、半分は間違いである。何故なら、意志が弱くて止められないという個人も相当数居るはずであり、また、個々のニコチン摂取レベルによっては、「依存症」とまでは言えない喫煙者も一定数居ることも当然だからである。一方で、斯様な文言は、禁煙外来や禁煙指導などの場でよく耳にするフレーズである。つまり、営業トークであり、耳障りの問題とも取れるだろう。禁煙相談に来られるクライアントに対し、「貴方の意志が弱いからだ!!」とは言えないのもある意味理解できるからだ。

他方、喫煙には潰瘍性大腸炎の予防効果があるとの論文注6が掲載され、実例も掲載されている。『タバコと酒」の健康常識はウソだらけ』の著者で、さいたま市立病院麻酔科科長、医学博士の橋内章氏によれば、認知、近時記憶、記憶の保持、学習、注意集中、情報処理など知的機能と総称される多くの機能が、喫煙によって高められることが実験によって証明されているという。
しかしながら、これらの報告も、医学データの特異性から原因と結果を結びつけるには複雑な因子を解析しながら最終的に結論付けなければ意味をなさない(医学的根拠があると断定出来ない)。

注6
Transdermal nicotine for active ulcerative colitisという論文名で、アメリカの権威ある医学誌:ニューイングランド医学ジャーナル(New England Journal of Medicine)に投稿されたもので(N Engl J Med. 1994 Mar 24;330(12):811-5)、ニコチンが潰瘍性大腸炎に治療効果をあげるという主張の発信元になった論文。
「潰瘍性大腸炎」とは、直腸から始まって腸全体に広がる炎症性の病気で、我が国では難病として認定されている(指定難病告示番号97:厚生労働省)。
※実験の方法
潰瘍性大腸炎は非喫煙者に比較的多くみられる病気とされていることから、喫煙によるニコチン摂取が病気の症状を改善することを示唆していると考えられるために、潰瘍性大腸炎の補足的治療として、ニコチンの効果を検証したものである。
先ず、潰瘍性大腸炎で72名の患者をランダム化し、二重盲検法(医師の側からも、患者の側からも、使用する薬や治療法を知られないようにする方法)で6週間、経皮ニコチンパッチまたはプラセボ(偽薬≒全く関係のない薬品)パッチのいずれかで治療を試みた(全ての治験者に対して潰瘍性大腸炎の基本的な治療薬を併用して行った)結果、プラセボ群では37人のうち9人について症状が軽快し、ニコチン群では35人のうち17人の症状が軽快するという結果を得た。
これにより、従来の維持療法に対する経皮的ニコチンの追加は、潰瘍性大腸炎の症状改善に効果を示したと結論付けている。


潰瘍性大腸炎罹患部位に関する臨床調査データ2012(資料:厚生労働省)

さて、今年前半は新型コロナウィルス感染症一色である。感染拡大の第二波、第三波についても予断を許さない状況は続く。このようなパンデミックの中において、喫煙者にとっては興味深く、非喫煙者にとっては耳目を疑うようなフランスの研究結果が紹介された。
そもそも米医学誌「ニューイングランド医学ジャーナル」で、本年3月に発表された統計結果に、中国は新型コロナウィルス感染者1000人中の喫煙者の割合が12.6%であることが示唆されていた。世界保健機関(WHO)によれば、中国の一般人口の習慣的喫煙者の割合は約26%であり、喫煙者のコロナ罹患率が低いことが数字的には見て取れる。このことも相まって、フランス・パリのピティエ・サルペトリエール(Pitie-Salpetriere H)病院の研究チームによる新型コロナウイルス感染者343人と、より軽症の感染者139人を対象とした喫煙、非喫煙による罹患リスク調査では、フランスの喫煙人口(男性約約35.6%:2018年WHO)とコロナ感染者に占める喫煙者の割合が5%で、ニコチンが細胞のウイルス受容体に付着することで、ウイルスが侵入して体内で拡散するのを阻止している可能性があるとするものだった。

また、ニコチンがアルツハイマーの予防に効能があるのではないかという研究は、1960年代から始まっていたが、科学的根拠をもって主張されるようになったのは、2000年8月に、(Smoking and Parkinson’s and Alzheimer’s disease: review of the epidemiological studies.)という学術論文の発表による。当時、煙草産業は世界中でバッシングの対象に晒されていた。前年の1995年5月のWHO第52回世界保健総会が開催されたとき、煙草の規制に関する世界保健機関枠組条約(WHO Framework Convention on Tobacco Control :FCTC)の起草及び交渉のための政府間交渉会議を設立することが決定され、世界中で受動喫煙防止の動きが一気に広まっていくこととなった。その大逆風に立ち向かうかのごとく登場したのが「喫煙とパーキンソン病及びアルツハイマー病:疫学研究のレビュー」という学術論文だった。

更に、煙草とアレルギーとの関連についても疫学的研究は盛んに行われてきた事実もある。生理的研究分野においては、煙草に含まれるニコチンやタール成分が、免疫システムに重要な役割を果たすタンパク質の発現を抑制することはよく知られている。また、日本における喫煙者と非喫煙者による花粉症リスクの調査では、喫煙者の方が発症リスクが低いとの報告もある(Smoking and risk of cedar pollinosis in Japanese men and women.Int Arch Allergy Immunol. 2008;147(2):117-24. 高山コホート・日本人における喫煙と花粉症リスク)。


花粉もウイルスと似ている?(イメージ)

【それでも煙草に罪はない】
2014年12月22日、日本のお昼のテレビ番組で、エボラ出血熱の治療に効果が期待されるアメリカの未承認治療薬「ZMapp」が紹介された。この薬、米国ケンタッキー州の植物工場で育つ煙草の近縁種の葉から作られており、薬の成分のタンパク質を作る遺伝子を導入する。エボラ細菌が入った溶液を容器に満たし、この葉を浸す。あとはこの植物を1週間ほど育てて刈り取り、葉の中でつくられた目的のタンパク質(ウイルス様粒子:VLP)を抽出し、薬にするというものだ。「ZMapp」を開発した会社(マップ・バイオファーマシューティカル社:米サンディエゴ)によれば、従来の培養方法に比べ、植物を使うことで速く大量生産が可能だと説明する。
また、田辺三菱製薬がカナダの子会社メディカゴ社と開発したインフルエンザワクチンの製造方法も、タバコの葉に遺伝子を組み込み栽培し、収穫してワクチンの成分を抽出する。タバコの葉は生育も早く最短で1か月でワクチンが出来、大量生産も出来る。インフルエンザワクチンの精製には、これまで鶏卵が使われていた。鶏卵にその年流行したウイルスを接種し培養、その後精製してワクチンを作るのだが、製造までに6ヶ月程度掛かっていた。このため、ワクチンがその年の流行に合わなかったり、不足したりするなどしていた。


そもそもナス科の植物である煙草は、有効利用に期待が掛かっている(資料:JT)

本年5月15日のロイター通信は、巻き煙草生産量世界2位を誇るイギリスのブリティッシュ・アメリカン・タバコ(BAT)が、煙草の葉由来のたんぱく質を活用した自社の新型コロナウイルスワクチン候補の臨床試験(治験)を準備中であることを発表したと報じた。同社は政府機関や適切なメーカーの支援が得られた場合、1週間当たりで100万-300万本のワクチンが生産可能との認識を示し、米食品医薬品局(FDA)に対して治験許可申請に先立って資料を提出したところ、FDAから受領通知があったことを明らかにしたというものだ。

世界中にパンデミックをもたらした今回の新型コロナウィルスも、毎年重篤な症状を引き起こし、大流行時においては世界中で数十万人という死者を出すインフルエンザウイルスに対しても、各国の製薬会社が競って開発を進めているのが抗ウイルス薬ではなく、「ワクチン」なのである。これまでの煙草と喫煙に関する側面からの考察を通じ、一般的にはあまり善く思われていない“煙草”という植物を使って、命を救うということを真剣に研究している企業も多数あることを知って欲しい。そして、自然の植物である煙草には何の罪もないこと、罪深きはここでもやはり人間であることを認識しなければ、喫煙と嫌煙の関係に明確な未来は訪れないように思う。