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ラビットプレス+11月号


建国70周年記念パレードでは・・・(産経新聞:イメージ)

中華人民共和国(中国)は、2019年10月1日、建国70周年注1を迎えた。
「中国は世界の東方にそびえ立ち、如何なる勢力も我々の偉大な祖国の地位を揺るがすことは出来ず、如何なる勢力も中華民族の前進を阻むことは出来ないのである」。習近平国家主席は、北京の天安門広場で行った軍事パレードの訓示でこう演説した。主席は、相当な軍事パレード好きで知られ、過去6年間で今回が3回目の大規模軍事パレードである。前任の江沢民氏や胡錦濤氏が、夫々10年間で1度しか軍事パレードを行っていないことと比較すれば明確だ。
当日は、兵士1万5千人、戦車、装甲車などの車両約580台が轟音を立てて街を進み、戦闘機約160機が大空を舞うこれまででも最大規模の軍事パレードであった(CCTV報道)。

習近平国家主席は、「中華民族の偉大なる復興」を掲げ、2049年までに「社会主義現代化国家」の樹立を目標としており、野望の中心は、「世界一流の軍隊」を建設することである。すなわち、米国に代わって世界一の覇権国になることである。
中国は、今正に米国との貿易摩擦や香港問題など国内外で難しい問題を抱えている。その真っ只中での周年行事、特に軍事パレードを盛大に行う目的は、国内的には国威発揚であり、対外的には米国をはじめとする自由主義諸国に対し、主席自らが指導育成してきたと自負する中国共産党率いる軍隊、「人民解放軍」の改革の成果を強調し、とりわけ核戦力の三本柱である(ICBM=大陸間弾道ミサイル、潜水艦発射弾道ミサイル=SLBM、核搭載戦略爆撃機)の威力を見せつけることにある。つまり、野望達成の手段として、軍事力を最重要視していることがわかる。そして、パレードの冒頭、国旗よりも先に共産党旗が先導したことを見ても明らかなように、中国共産党は国家を牽引するという主張が明確であり、人民解放軍の増強は益々続く。これこそが世界の脅威であることに西側諸国は気づかなければならない。


13億人を超える国民を束ねる共産党一党支配(資料:毎日新聞)

注1

アジア大陸東部を占める人口約13億3000万人の共和国。1949年10月1日、国民党との内戦に勝利した中国共産党の全国統一によって、毛沢東を主席として成立。首都は北京。全人口の9割を超える漢民族を中心にして、55の少数民族からなる多民族国家。面積約959万7千平方キロメートル。

10月4日。我が国では第200回秋の臨時国会が開会した。安倍内閣総理大臣は、その所信表明演説で中国との関係に関し、「日中新時代を切り拓きます。来年の桜の咲く頃に、習近平国家主席を国賓としてお迎えし、首脳間の往来だけでなく、経済交流、青少年交流など、あらゆるレベルでの交流を拡大し、日中関係を新たな段階へ押し上げてまいります。」と言及した。
しかしながら、中国を巡る多くの問題は解決しておらず、国際社会の一員としての立場と、主権国家としての立場、歴史問題や経済、米国の同盟国としての貿易問題など課題は山積である。この国の行方は、日中関係を抜きにして語ることは出来ない。

【中国の夢・・・遥かなる野望】
中国は4000年余りの長い歴史を有するアジアの大国である注2。一国統治(万世一系)が2000年の日本とは違い、その間の政治的な変遷は歴史上の事実として、広大な領土には多くの異なった民族集団が存在し、事あるごとに対立と統治を繰り返してきた。これは一国家というよりその地域全体の話だ。
世界地図では、15世紀末以降のヨーロッパ諸国(主にスペイン、ポルトガル)から始まり、地中海を発信地として大西洋、インド洋、太平洋への大航海を実現させ、その後オランダ、フランス、イギリス各国が新たな貿易市場を開拓する目的で世界進出を競った。その目的は、アフリカやアジア、あるいはアメリカ新大陸に対する国家的な植民と、それに伴う現地人に対する支配から、新市場開拓や原料調達、供給地としての拠点確保を目的とした入植にシフトしている。
その頃の中国は、朝貢貿易(中国の皇帝は周辺の国々に経済的な恩恵を与えることと引き換えに、緩やかな従属関係を求め、これによって中国への侵略を防ごうとした。従わない国に対しては交易を止め、経済制裁を科した。)を前提とした冊封体制(さくほうたいせい≒中国皇帝を頂点とし、周辺諸国の支配者との間に君臣関係を結び成立させた東アジアの国際秩序で、始まりは1~2世紀の後漢の光武帝時代とされる)を外交基軸としており、産業革命以後の欧米各国による自由貿易の要求に耐え切れず、1840年のアヘン戦争、1856年アロー戦争などの敗戦を機に、香港割譲や不平等条約締結、主要港開港などが一気になだれ込み、伝統的な華夷(かい)秩序注3は崩壊していく。


朝貢貿易では琉球王国独自のルートも存在した(首里城:イメージ)

注2

中国は政治的観点や国体維持の視点からすれば連続した歴史を有している国家ではない。現在の中華人民共和国は1949年の成立だ。しかし、それまでの長きに亘って易姓革命(皇帝の姓が変わる王朝交代)を何度も繰り返してきたし、元、清のように異民族支配の時代もあった。つまり、4000年の歴史という表現は、東アジアにおける古代文明(黄河文明)が仏教文化を基本に開花した辺りから通算して4000年~5000年という認識が持たれている。中国4000年というフレーズは日本的であり、1981年に登場したインスタントラーメン(商品名中華三昧)のCMに使われたキャッチコピーが日本人の間に根付いたと言われる。

注3

華夷秩序(思想ともいわれる)は、中華思想の類義語として使用されることも多いが、中華思想という語句には中国に対する日本や欧米資本主義国の蔑視が込められているため、中国人はほとんど使わない言葉だといわれている(宮家邦彦・元外務省外交官、中国大使館公使、現外交政策研究所代表)。夏(中国)は世界のうちでもっとも文化の卓越した中央の地であるとし、周辺の諸国を文化の遅れた低劣の地と蔑視し、夷狄(いてき)と称してこれを差別する立場を貫き、自国文化の優越性を強く意識する考え方を華夷秩序という。

1912年、満族駆逐、中華回復、衆議政治を唱える孫文(中華民国の国父と呼ばれる政治家・革命家。初代中華民国臨時大総統、中国国民党総理)が中華民国を建国した。1949年には、毛沢東率いる中国共産党が中華人民共和国を建国した。1978年、中華人民共和国の事実上の最高指導者となった鄧小平は、中国首脳として初めて正式に訪日し、日本の科学技術の発達を目の当たりにして驚愕したといわれ、一転して非効率な社会主義と決別(社会主義近代化政策)すべく、改革開放路線を歩み始める。
2017年10月18日。中国共産党の習近平総書記(国家主席)は党大会で、新たな長期目標を盛りこんだ国家ビジョンを提示した。建国100年にあたる2049年までに国民生活を先進国並みに引き上げ、あらゆる面で「強い大国」になることを主眼とし、毛沢東による「建国」、鄧小平による「経済発展」に続く長期の目標として提言し、両氏に並ぶ権威を固めに入った。


中国が進める西太平洋進出(産経新聞社:イメージ)

~中国の列島線構想と巨大経済圏構想・一帯一路~
中国共産党の人民解放軍の主たる戦力は陸軍であったが、鄧小平指導部の下での改革開放路線において資源の輸入及び製品輸出に必要不可欠な海上輸送路(シーレーン)の安全確保のため、海軍の近代化と戦力強化に注力した。当時の海軍総司令官であった劉華清(元中国共産党中央軍事委員会副主席)が打ち出した中国人民解放軍近代化計画において、海軍の作戦行動範囲を2000年までに日本の九州、沖縄、台湾、フィリピンを結ぶ線(第1列島線)を示し、2020年までに小笠原諸島からグアムに至る太平洋上に東進させた第2列島線まで拡大。2050年には世界の制海権を掌握するという理想を明示した。
現在の習近平指導部が第1列島線を超える西太平洋での海軍艦隊及び空軍の遠洋演習を常態化させ、空母の就航を急いだことも、世界に中国の存在感を示す狙いがある。今世紀半ばまでに米国と並ぶ「世界一流の軍隊」を造るという習近平国家主席の構想と劉華清氏の人民解放軍近代化計画は見事に合致している。


一帯一路構想にはロシアルートも存在するらしい(日経新聞:イメージ)

一方、2013年に習近平国家主席が提唱し、14年11月に中国で開催された「アジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議」において広く参加各国にアピールされた、中国西部-中央アジア-欧州を結ぶ「シルクロード経済帯(一帯)」と、中国沿岸部-東南アジア-インド-アフリカ-中東-欧州と連なる「21世紀海上シルクロード(一路)」を主軸にした巨大経済圏構築構想(一帯一路)が世界中の注目を集めた。中国にとって重要なことは、一帯におけるエネルギー確保の安全保障と、一路周辺海域での資源開発及び輸送路整備である。中国本土の海岸線延長距離は約1万8千キロに及ぶが、第1列島線上には米軍基地や日本の自衛隊基地が点在し、台湾本島などによって外洋への出口が塞がれている。習近平指導部では、先ず第1列島線から米軍を排除し、周辺水域への「接近阻止・領域拒否注4」を優先的克服課題として行動している。

注4

中国が特に南シナ海を最重要拠点とするのは、輸入する石油の約8割がこの海域を通るルートで運ばれることや、豊富な海洋資源も在る。また、水深が深く戦略原子力潜水艦(核搭載可能原潜)が他国に感知されずに西太平洋へ出やすいため、米国に対する核抑止力の重要拠点となり得るからである。

しかし、覇権主義を強める中国への警戒心が強い中、公表当初、主要国の首脳で参加したのはロシアのプーチン大統領とイタリアのジェンティローニ首相のみで、インドは代表団の派遣も見合わせた。中国政府によれば、2019年4月時点での126カ国と29の国際組織が協力文書に署名したと発表しているが、域内外の大国の支持を得ることが現在も困難であり、アメリカ、EU、日本との間で、「一帯一路」における資源をめぐって、利益衝突が予想される。また、ロシアやインドは、中央アジアや南アジアへの中国進出を警戒しているのも事実であって、その成果はまだ見えていない。

【沖縄を守ることが日本を守ること】
2007年、中国の国防予算が初めて日本の国防費を超えた。2018年度においては日本の国防費の4倍を超える規模にまで膨らんだ中国の軍事力強化政策で、近代化と増強は大きく進み、尖閣諸島への領海侵入や軍艦の海峡横断は常態化し、領土問題では威圧的な姿勢で日本に迫っている。
2019年3月。自衛隊の奄美、宮古両警備隊部隊新編に合わせるように、同月28日から中国は大隅海峡注5(種子島と大隅半島の間)、宮古海峡(沖縄本島と宮古島の間)をそれぞれ3隻の中国海軍艦船が航行した。30日には空軍の戦闘機、爆撃機計10機が宮古海峡上空を通過して太平洋へ出るなどの軍事行動を繰り返し、日本の西部方面警備の強化も関係ない、「我が道を行く」という中国の意思を表したものと捉えられている。


薄い青色部分が大隅海峡の公海部分(陸上自衛隊:イメージ)

注5

海洋法条約に規定する「国際海峡」とは、「海洋法条約によって国際航行を定められた範囲で自由に行える海峡のこと」である。日本では、陸地から12海里以内(これを領海と定義)で、「国際海峡」とされる海域は、宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡東水道、対馬海峡西水道、大隅海峡、の5カ所だけである。
一方、「宮古海峡」は公海でも領海でもなく、日本の「排他的経済水域」(EEZ)であり、主権国の日本に許認可権があるので、外国による人工島建設や海洋測量などは拒否できる。ただし、軍艦などを含めた船舶が無許可航行することは可能な水域なのである。

元々、鹿児島県の大隅半島佐多岬から日本の最西端・与那国島までは約1400キロ。本州がすっぽり収まるほどの広さの海域に大小約600もの島々が連なっている天然の防波堤である。南西諸島の島々の連なりは中国にとって目障り極まりないのであるが、この海域は長らく防衛の空白域と言われていた。防衛省では日本全体の中での防衛空白域の解消を進めており、近年特に目立っている中国の挑発行動に対して危機感を募らせている。これらを含め、自衛隊幹部の間では、「沖縄を守ることが日本を守ること」という揺るがない信念を共有している。


中国海軍70周年での海上パレードに登場した中国原潜(毎日新聞社:イメージ)

【対中政策と日本の行方】
民主国家の使命と存在意義は、主権者たる国民の生命と生活の保障と向上に在る。中国の台頭は20世紀以降、覇権国の地位を保ってきたアメリカを脅かし、今や世界第2位の経済大国としても、アメリカの筆頭競争相手国に位置づけられている。日本を含む多くの国々において、対中政策を一国と一国の問題として論じるにはアンバランスであり、相手は大きくなりすぎていることを前提に、自国と認識や利害を共有する諸外国及び地域との十分な意思疎通の上に立つ連携によって対処しなければならない。
「中国の異質性」に対する世界各国の認識は、温度差はあるにしろ、殆どがそのことに気づき始めているのは事実だろう。中国の台頭が国際社会にとって望ましいものとなるよう、関係諸国の対中政策は実効性を備えたものでなくてはならない。

米中貿易戦争とでもいうべき関税報復合戦が収まらない。本質は米中の覇権争いであり、主戦場が次世代新技術分野である。とりわけ次世代通信(5G)分野では、アメリカの中国排除の動きが報じられているが、問題はこうした分野の技術が軍民両用であり、安全保障の根幹に関わるからである。
日本にとって5Gは、Society 5.0(日本が提唱する、高度な先進技術の導入であらゆる課題が解決されていく超スマート社会の実現と、その分野において世界をリードして行こうという国家戦略)を実現するための重要な通信インフラであり、近未来の経済発展の基盤と位置付けている。米中の覇権争いは、日本を含む主に先進諸国が、将来性の高い重要な分野において、中国と協力できるかどうかに関わってくる。つまり、ハイテク分野における米中分断がもたらす国際社会への影響の大きさは計り知れず、日本はこうした競争に巻き込まれない政策を採ることが肝要である。
安倍首相の示す日中新時代の具体策は何なのか。単に日中二国間の関係改善を目指すだけでは時代錯誤も甚だしく、特に、中国と「界」を接している日本にとっては国家存亡に関わる問題なのである。


超高速大容量通信技術を巡る覇権争いが熾烈に(一般社団法人電波産業協会:イメージ)

民主主義や法の統治など、アメリカが中心となって築いてきた、国際連合を始めとした20世紀以降の国際秩序を根底から崩そうとしているのが中国であり、それらを維持しようとしているのがアメリカである。
天安門事件(1989年)をきっかけに、アメリカが中国に対して行ってきた「関与政策(1979年に国交を正常化した後、中国発展を目的に経済協力とヘッジ戦略で関与してきた対中政策)」の失敗がクローズアップされるようになった。中国を豊かにすれば、国際秩序の中に中国が進出するようになり、中国国内でも民主化が進むと考えられていた。しかし、天安門事件以降、中国共産党の権力が増大し、共産党政権に批判的な勢力への弾圧が強化され、習近平国家主席の任期が無期限になったことも併せ、これらの経緯を踏まえて、トランプ政権は「関与政権」から舵を切っているという(麗澤大学特別教授・ジャーナリスト古森義久氏)。

日本は、第二次世界大戦後の日本と東南アジア地域との関係を基礎として、東南アジア諸国(とりわけASEAN注6主要国であるインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポール)と、中国の台頭に関する認識を共有し、議論を深める必要がある。それを基に中国との競合政策について、信頼できるASEANのパートナーシップを強固に保ったうえで、東南アジア地域の安全保障について対中、対米関係の中心的存在とならなければならない。

注6

ASEAN(Association of Southeast Asian Nations東南アジア諸国連合)
1967年の「バンコク宣言」によって設立された東南アジア10か国による地域共同体。原加盟国はインドネシア、マレーシア、タイ、フィリピン、シンガポールの5か国。1984年のブルネイの加盟後、加盟国が順次増加し、現在は10か国(上記5ヶ国以外にブルネイ、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)で構成されている。
2015年に共同体となったASEANは、近年、高い経済成長を見せており、世界の「開かれた成長センター」となる潜在力が世界各国から注目されている(出典・外務省)。

台頭する中国に対する日本の外交姿勢は、ASEAN諸国を代表するリーダーシップを発揮した複数国家対中国という対峙関係を構築することであり、それによってこの国の行方は決まると言っても過言ではないだろう。