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女不動産屋 柳本美土里

光彦は、青色のワーゲンビートルを沢渡公園の駐車場に停めた。
「ここって、足湯があるのよね」
ガイドブックを手にした妻の智子が、首を伸ばして周りを見回した。
「あっ、あそこ」
智子が指差した先には、壁がなく柱だけに支えられた黒っぽい屋根が見えた。
そこが足湯に違いない。
車のドアがロックされるのを待たずに、小走りで向かう智子は、60歳を間近に迎えた女性とは思えない幼さがみえる。

智子と結婚してから30年以上が経つ。
車が好きな光彦は、智子を連れて年に1度か2度は、ドライブ旅行に行った。
娘の奈津美ができてからは、車にチャイルドシートを積み込んで3人で出掛けたものだが、年頃になった娘は、親と一緒の行動を敬遠するようになり、家族3人でのドライブ旅行は、娘の成長に伴い夫婦2人のものに戻った。

足湯には、既に2組の男女がいた。
1組は20代くらいの若いカップル、もう1組は光彦たちより少し年上のご夫婦のようだ。
2組の男女は、光彦たちを見つけると、軽く会釈をし、光彦たちも無言の会釈を交わした。智子は、柱に手をかけると、短い靴下を素早く脱ぎ、スカートを膝までたくし上げると、湯船の縁に腰を下ろし、白い脚を投げ出した。
「温かくて気持ちいいわ、あなたも、浸かったら?」と、智子は光彦に促した。
「そうだな、せっかくだから・・」と、ハーフパンツから出ている脚を、湯の中に差し込んだ。
長い運転時間のために、少しむくんだふくらはぎに、温かい湯がまとわり、気持ちいい。
脚を浸けているだけなのに、しばらくすると体中に温もりがめぐり、汗も出るほどになった。
「そろそろ行こうか?」
2人はタオルで脚の水を拭い、駐車場に向けて踵を返した。

今回の旅行は、上高地の紅葉を見るのが目的だ。
2人は、上高地行きのバスを待ち、乗り込んだ。
川と山に挟まれた、いくつものカーブの道を縫って走ると、既に色づいた葉の色が、車窓の横を流れていく。
いくつかのトンネルを抜け、最後の急坂のトンネルを抜けると、あっという間に左手に大正池が見えてきた。
帝国ホテル前でバスを降り、川沿いの道を選ぶと、徒歩で河童橋を目指した。
さすがに行楽シーズンだけあり、川沿いの細い道には、観光客が蟻の行列のように続いている。
2人は、その行列に続いた。
河童橋に近づくにつれ、人混みは増し、橋のふもと辺りが混雑の頂点のようだ。
橋の上では、日本人だけでなく、金髪の外国人やアジア系の人たちも、多くいるようだ。
欄干にもたれながら、川と山の景色を背景に、だれもが写真を写すのに夢中になっていた。

「あら、あの子」
智子の視線の先を見ると、お婆さんらしき人に抱きかかえられた、小さな女の子が視界に入った。
思わず笑顔がこぼれてくる優しそうな顔で、女の子を見ている智子は、きっと菜々美のことを想っているのだろう。
菜々美は、僕たち夫婦の1人娘、奈津美の娘、つまり2人の唯一の孫である。
「菜々美は、元気にしてるんでしょうか?」
笑顔がこぼれていた智子の顔に、曇りがかかった。

1年ほど前まで、菜々美は家にいた。
結婚をしていた娘の奈津美が、菜々美を産んで直ぐに相手の男性と離婚をし、実家へ連れて帰ってきていたのだ。
離婚の際には、菜々美を引き取りたいと、夫側からの申し入れがあった。
「べつに、いいんじゃない」
母性が少ないのか、また来るかもしれない再婚のチャンスに、子供が手元にいることが障害になるかもしれないと考えていたのか、当の母親である奈津美は、娘を引き取ることに固執はしていなかった。
それでも、小さい子供には母親が必要だという理由をつけて、祖母である智子が、夫側に孫を渡すことを頑強に拒んだ。
「子供には母親が必要だから」
その理由は表向きに真っ当なものなのだが、妻の智子には、もう1つの理由がある。
それは、智子自身が、光彦と出会う前に結婚していた相手側に、子供を取られたという過去があるからだろう。
光彦が、仕事から戻ると、ときおり、智子が離れ離れになった子供たちの写真を見て涙ぐんでいるのを目にした。
娘の奈津美を授かってからは、そういうシーンは減ったが、それでも自分が腹を痛めて産んだ子供が恋しくない筈はない。
そんな智子の過去が、娘の離婚の際に、甦ったのかもしれない。

そうした母の気持ちをよそに、娘の奈津美は、実家に帰った気楽さなのか、菜々美の面倒を母親に任せきりにして、しばしば家を空けるようになった。
「あなたも、少しは母親らしく子育てをしなさい」
奈津美は注意をされると、ぷいと家を出たきり、数日帰ってこないこともあった。
「あたし、仕事を始めるわ」
そう奈津美が言いだして、行き出したのが夜のお店だ。
家に帰ってくるのは日付が変わってからだし、朝方になることもあるようだ。
そして、奈津美が起きてくるのは、たいてい昼過ぎ頃だった。
「わかってるわよ、うるさいわね~。だいたい菜々美を引き取りたいって言い出したのは、お母さんでしょ?私は旦那の方に引き取ってもらっても良かったのに・・・だったら、お母さんが菜々美の世話をすればいいのよ」
「それに、お母さんだって、若い頃に夜の仕事をしていたことがあるんでしょ、私知ってるわよ。そんな人に夜の仕事について、とやかく言われても、白けちゃうわ」
娘にそこまで言われると、智子はそれ以上、言えなくなった。
父親として、娘に意見をするように智子から言われても、光彦も仕事にかまけて娘との時間をとってこなかったことによる負い目や、反抗期がずっと続いているような娘に対し、埋められない溝を感じていた。

そんな暮らしが続いたある日のことだった。
「私、家を出て行くわ」
唐突に言い出した奈津美の言葉に、智子は一瞬、言葉に詰まった。
「どういうこと?」
「好きな人ができたから、その人と暮らすの」
あっけらかんと、奈津美は言い放った。
お店で知り合った男だそうだ。
「そんな簡単に・・・じゃあ、菜々美はどうするの?」
「お母さんが、菜々美と一緒に居たいのなら、置いていくわよ」
「置いていくわよって・・・あなた・・・」
子供と別れる辛さを、自分自身の身で知っている智子には、娘の言葉が信じられなかった。
この子には、母親という意識はあるのだろうか?
「奈津美、あなたはお母さんなのよ。自分の子供を養育する義務というものがあるの。いくらなんでも自分の子供を放り出すなんて、許しませんからね」
さすがに智子も、厳しい口調で奈津美を叱った。
「あっ、そう。判ったわ、じゃあ、菜々美も連れて行くわ」
自分と菜々美の身の回りのものだけをキャリーバッグに詰め込んで、奈津美は家を出て行った。

それからというもの、子供が家庭内で虐待されたというニュースが出る度に、智子は孫の菜々美の身の上を案じるようになった。
「まさか、そんな心配は、ないだろう。この間、奈津美が連れてきた男は、気弱そうで結構優しそうな感じだったじゃないか」
「でも、あの子のことだから、菜々美にろくに食事も作らず、放ったらかしているかもしれないわよ」
智子は、心配で居ても立ってもいられない様子だ。
「それなら、奈津美の住んでいる家に行くか、たまには呼び寄せて、観察してみたらどうなんだ?」
そして、光彦たちは、娘たちを定期的に家に呼ぶことにした。
奈津美が面倒くさがるので、家に呼ぶのは、2ヶ月か3ヶ月に1度のこととなった。
菜々美の様子に不審なところはなく、歳相当に元気に育っているようだ。
光彦は安心していたが、心配性の智子は、孫と会えない時間が長くなると、何かにつけては菜々美に心を砕いた。

河童橋から臨む北アルプスと梓川の雄大な景色は、まるで絵葉書を見るようだった。
橋のふもとの売店で、ソフトクリームを口の周りに付けた、あの女の子を微笑ましく横目で見ながら、2人は川沿いの道へ下り、上高地の散策を続けた。

それから1ヶ月ほど経った頃に、光彦は体調の不良を訴えた。
「なんだか、腰が痛いんだけど・・・」
光彦は右手で自分の腰を掴み、顔をゆがめた。
「あらあら、あなた腰痛なんて持っていなかったのにね。やっぱり齢には勝てないんですね、整体にでも行ってみればいいんじゃない?」
光彦は、智子の勧めのまま、整体に通った。
「整体に行っても、全然良くならないし、さらに痛さが増したような気がするんだけど」
「そうなの?おかしいわね・・・」
智子は首を傾げ、少しずつ不安になってきた。
もしかして、他の病気が隠れているのかも?
でも、まさか・・・
智子の勧めもあって、光彦は病院で精密検査をすることにした。

精密検査をしてから1週間後のこと。
病院から智子に、診察結果を説明したいから病院へ来るようにとの電話が入った。
「どうして、私なんだろう?あの人の検査結果なんだから、本人に直接説明すればいいのに・・・でも、もしかしてこれって・・」
智子は、病院の予想外の対応に不安を募らせた。
夕方には先生の手が空くからと聞くと、智子は病院へと急いだ。
「奥さん、ご主人は、膵臓がんです。それもステージ4の・・・」
医師は、レントゲン写真や、いろいろな検査データを智子に見せて、説明をしてくれたようだが、智子の記憶に残ったのは、すい臓がんと、手の施しようがありません、という医師の言葉だけだった。

家まで、どうやって帰ったのだろう?
朦朧となる意識のなかで、光彦の帰宅を告げる言葉により、我に返った。
光彦は、ダイニングのテーブルに突っ伏した顔を持ち上げた智子を見て驚いた。
智子の目は真っ赤に腫れている。
「どうした?智子。泣いていたのか?」
返事をすることもできず、智子は光彦に飛びつき背中に腕を回した。
「おいおい、どうしたんだ?ちょっと落ち着いて話をしてくれ」
光彦は優しく智子の腕をほどき、ダイニングの椅子に座らせ、水を飲ませた。

ようやく落ち着きを取り戻した智子は、静かに話を始めた。
病院から呼び出されたこと、医師が話をした光彦の病名と病状。
そして、それは治る見込みのないもので、死を覚悟しなければならないこと。
かなり進行していて、余命はいくらもないだろうとのこと、などを。
そこまで言うと、智子は声を上げて泣き出した。
「そうか、なんだか変だとは思っていたが、やっぱりそんな風になっていたのか・・」
自分の身体が、普通じゃない状態になっているのを、自分自身で薄々感じていたのだろうか?光彦は、覚悟をしていたように、智子の話を坦々と聞いた。
「よく判った、教えてくれて、ありがとう」
「あと、どれくらい生きられるかは判らないけど、これからは終末のための整理をしていこうと思うから。それに、無理な治療をして、副作用に苦しみながら生きながらえるのは望まないから、延命治療は行わないようにして欲しい」と。
自分の死を、そんなに冷静に受け入れることができるものなのだろうか?
自分のことだから覚悟をすることができるのか?
光彦の前では我慢している涙も、彼がいないときには、しばしば込み上げてきて、涙が溢れた。

あんなに元気だったのが嘘のように、あれよあれよと言う間に光彦は衰弱し、それから3ヶ月を過ぎた頃に、臨終の床に就くことになってしまった。
まさか、あの上高地へのドライブ旅行が、光彦との最後の旅行となるとは。
四十九日の法要が終わってからのことだ。
「お母さん、お父さんの財産、ちゃんと分けてくれるんでしょうね?」
四十九日が終わったばかりで、何を言い出すのかと思ったら、財産分与の話とは。
自分の子ながら、情けない気持ちになる。
「財産なんて、そんな大それたものは、うちには無いわよ」
「でも、家もあるでしょう。それに、貯金もいくらかしているんじゃない?」
娘の奈津美は、探るような目で智子を見た。
奈津美と同棲している男は、工場への派遣工員として働いているらしい。
奈津美も、幼子を抱えているので、そうそう夜の仕事もできていないのだろう。
お金に困っているのも想像できないことではなかったが・・。
「判ったわ。うちには家と貯金しかないから、しかるべき人に相談して、財産分与をするから、ちょっと待ってちょうだい」
「そう、出来れば早めにお願いしますね」
奈津美は、そう言うと、そそくさと家を後にした。

「そうですか、父がご紹介したマンションでしたか」
美土里は、柳本不動産の応接セットの向かいで女性と話をしていた。
そのお客様は、美土里の父親が、店で元気に働いていた頃に、物件を紹介し購入されたらしい。
「はい、契約は主人1人で来たみたいなんですが、引渡しを受けるときには、私も一緒に居ましたので・・・お父様には、お世話になりました」
智子は、小さく頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ、ありがとうございます」
30年ほど前に購入してくださったお客様が、柳本不動産を覚えておいてくれて、こうして来店いただいている。
美土里は、感謝を込めて礼を言った。
話を聞くと、ご主人が亡くなり、相続をしたいのだが、不動産の評価額が判らないので教えて欲しいと。
「そうですね、お電話でその旨をお聞きしていましたので、事前に査定をさせていただいています」
美土里は、いくつかの書類をテーブルに置いた。
「所有者は、ご主人の光彦さんだけのようですね。登記簿謄本には住宅金融公庫の抵当権設定がありますが、団体信用生命保険には入っておられましたよね?となると、このローン残額は、団体信用生命保険で支払われますから、抵当権設定などの担保権は着いてないということになりますね」
智子は、たしかマンションのローンを組むときに、そんな保険に入ったような話を聞いていたが、何十年も前の話、よく覚えてもいなかった。
「それって、どういうことなんですか?」
「一般的に、住宅ローンを借りる際には、借りた人が返済途中で亡くなったり、高度障害になったりした場合に、それまでのように返済ができなくなりますので、予め団体生命保険に加入をして、万が一にそういうことが起こった場合には、保険金でローンの残額を支払うことになるのです。そうすれば、貸すほうも安心だし、借りるほうも、不幸にも働き手が居なくなっても、ローン返済に困ることはなくなるというものなんです」
「もし、まだ団体信用生命保険によるローン残額弁済の手続きをされていないのでしたら、早急にされる方がいいですよ」
「はい、解りました」
ローン返済をしなくても済むというのは、とても助かる。
「次に、この部屋の売却査定額ですが、取引事例などから計算して、概ね1000万円くらいになります。お持ちいただいた固定資産税の評価額も、同じくらいの金額になっていますね」
「売却査定額と、評価額って違うのですか?」
「ええ、簡単にご説明すると、売却査定額というのは、これくらいで売れるでしょうという実勢価格です。それに対し、固定資産税評価額というのは、市区町村が固定資産税請求のために算定した価格で、土地の評価額と建物の構造や築年数などから計算する金額のことで、市区町村の評価した金額ということです。なので、違うことも多いのですが、この部屋の場合は、査定額と評価額がほぼ一致しています」
相続で財産分与をする場合であれば、相続人の間で同意があれば、それらの価格で財産分与することに問題はないらしい。

「うちの場合は、家族は私と娘だけなんですが、相続もその2人ですればいいんですよね?」
「そうですね、ご主人が亡くなられたら、配偶者である奥さんと、お子さんでの相続となります。ただ、こういう言い方をするのは申し訳ないのですが、ご主人に奥さんが知らないお子さんがおられたとしたら、その人にも相続する権利が発生します」
「それはないでしょうけど・・・」
「まあ、そうですよね」
美土里は微笑んだ。
「いずれにせよ、遺産分割協議所を作って財産分与の内容を決めた上で、相続登記をされることをお勧めしますので、その際に、司法書士が相続人を確定するために、戸籍を辿って調べてもらえます。もし、そういった専門家に心当たりがないのでしたら、私どもと懇意にしている司法書士をご紹介させていただきますよ」
不動産屋さんは、相続が起こったとき、不動産売却や査定などの相談に乗ることが多いのだろうか?
美土里が、相続についていろいろ助言をしてくれるのを頼もしく感じた。
「じゃあ、うちの財産としては、マンションが1000万円、預金が1000万円ですので、合計2000万円となりますね」
「そうですね、相続財産は、プラスの財産とマイナスの財産があります。つまりマイナス財産というのは借金のことです」
「借金は住宅ローンだけでしたから、さきほどの団体生命保険で支払われるということでしたら、借金はないということになります」
家計の財布を握っていた智子は、きっぱりと言った。
「そうですか、それは良かったです。それなら、先にお話した2000万円相当が遺産ということになりますね」
そこで、智子は首を傾げた。
「マンションは私と娘で2分の1、現金は500万円ずつというふうに分割すればいいのですか?」
「そうですね、法定持分という法律で決まった持分での分け方をするのであれば、そういう分け方でもいいですし、お母さんがマンション、お嬢さんがお金という分け方でも大丈夫ですよ。極端な話をすると、お嬢さんが同意すれば、お嬢さんの相続分を放棄して、お母様が財産全部を相続するということも可能です」

智子は、困った顔をした。
あの娘が、相続放棄するわけは無い。
不動産とお金をそれぞれ2分の1ずつするのがいいのだろうか?それとも、他の方法がいいのだろうか?
「現金を全部娘に渡したとしたら、私にはマンションが残りますが、主人が亡くなり年金も減るだろうし、生活していけるか不安です。でも、マンションと現金を半分ずつすれば、500万円が手元に残りますが、マンションの持分半分を娘が持つことで、何か不具合はないのでしょうか?」
「そうですね、手元の預金が全くゼロになってしまうと不安ですよね。マンションの持分半分をお嬢さんが持つということは、厳密に言うと、奥さんだけがマンションに住むとすれば、賃料相当額の半分を、お嬢様が奥様に請求する権利を持つことになります。でも、実際はそんな請求をするお子様はおられないでしょうけど・・・」
でも、奈津美の場合なら、そういうこともあるかもしれないと智子は思った。
「それと、もうひとつは、お嬢様がマンションの持分を担保に誰かからお金を借りたときに、万一、その借金を返せなくなったら、他人が奥さんのマンションの2分の1の持分を持ってしまうということです。この場合でも、全部の持分を持たないと、他人はマンションを他に売ることも現実的にはできないでしょうから、奥さんが出て行かないといけなくなるということは無いでしょうが、奥様に賃料の半分相当額を請求するということは考えられますよね」

「逆に、マンションをお嬢さんが相続して、預金を奥様が相続するとすれば、お金が手元に残って安心かもしれませんが、お嬢様がお金に窮した場合、マンションを売ってしまうかもしれない、もしくはマンションが借金の担保にされ、返済ができなくなれば競売となって他人のものになってしまう可能性はあります」
いや、それだけはどうあっても避けたい。
だって、このマンションは、光彦が自分との結婚を決めたときに、一緒に住もうと買ってくれた思い出のマンションなのだから。
とすると遺産分割は、マンションと預金を、それぞれ奈津美と半分ずつにするというのが、現実的なのだろうと思えた。
「ありがとうございました。これからどうすればいいのか?少し解ったような気がします。娘と相談して、遺産分割の内容が決まりましたら、またご連絡させていただきますので、そのときは、どうか司法書士の先生のご紹介をお願いします」
ご教示いただいたお礼にと、智子は謝礼の入った封筒を差し出したが、美土里が受け取ることは無かった。
智子は、感謝の気持ちで美土里の計らいを受け止めた。(完)

このドラマはフィクションであり、実在の団体や個人とは何の関係もありませんので、ご承知ください。