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ラビットプレス+8月号


頑張ろう!!西日本!(イメージ)

平成30年7月5日より西日本(九州北部から中国四国、近畿中北部の広範囲にかけて伸びた線条降水帯注1の活発な活動の結果、長時間に亘り記録的な大雨を降らせ、佐賀県、福岡県、山口県、広島県、岡山県、兵庫県、愛媛県など各所で土砂崩れ、河川や溜め池の堤防の決壊による大規模な浸水、冠水が起こった。これらの災害における被害は甚大で、死者・行方不明併せて約250人、倒壊建物(全壊、半壊、一部損壊)約1000棟、床上浸水約10000戸、床下浸水約16000戸(7月14日現在の報道)となり、連日の猛暑の中で懸命な捜索活動と復旧作業が警察、消防など行政及び自衛隊や民間ボランティアら多数で続けられている。
災害の犠牲になられた多くの方々のご冥福をお祈りすると共に、被災された皆様に心からお見舞いを申し上げる次第である。

とにかく自然災害の多発するこの国である。数え上げればキリがないが、幾他の災害にもめげず、見事復活を果たして今日まで繁栄を続けてきたのもまたこの国の特徴的なところだろう。大災害に見舞われる度、世界中の人々から日本国民のモラールの高さが称賛されてきた。しかしながら、復旧から復興に移り、自宅や事業所の再建、日常生活の再興に被災地全体が動き出したとき、そこには必ず一定数、「取り残され組」が生まれるのも事実である。国民の全てが前向きに、ひた向きに努力し、再建を果たしているわけではない。では、その違いは何処から生じるのだろうか。被害の大小や資産の多少、運不運という側面は、関係ない!ことは無いとしても、ターニングポイントは、そこに置かれているそれぞれの状況と各個人のメンタル面にある。
つまり、苦難を乗り越え、幸せを自ら掴み取ろうとする意欲や、途方もなく先の見えない状態にあっても黙々と復興に努力し、その苦境から抜け出すパワーと持久力の有無なのだ。

注1
線状降水帯とは、同じ場所で積乱雲が次々と発生して世代交代を繰り返しながら帯状に連なる現象で、数時間(時には十数時間)にわたり同じ場所に停滞し大雨をもたらす。帯の幅は20~50キロメートル、長さは50~300キロメートル以上に及ぶ。防災科学技術研究所が1995年から2009年に発生した全国の豪雨を解析した結果、台風の直接的な影響がない集中豪雨のうち、約3分の2は、線状降水帯に伴って発生していたことが分かった。今回の西日本豪雨も規模の大きい線状降水帯が気象衛星によって確認されている。


7月7日の雨雲(線状降水帯):防災科学技術研究所

困難な状況にも負けずに障害を乗り越えようとする、と聞けば、さぞやポジティブシンキングの持ち主であろうとか、持ち前の明るい性格や我慢強さという個人の特性に大きく左右されると考えられがちである。勿論全くの間違いだとは言わないが、心理学では個人の持って生まれた性格という分類の仕方はしないのであり、そのポジティブシンキングや我慢強さはどのような過程で備わるのか、という、「過程」に焦点を当てて分析し、検証するのである。
自らが被災し、万人が絶句する様な被災地の一角で、黙々と自宅の片づけを続ける家人。ボランティアとして他所から訪れた若い元気な学生ではない。被災者の少しでも役に立とうとする思いと勇気がモチベーション(動機づけ)となって、スコップを握っているのではなく、家人のモチベーションは何処にあるのだろうか。


大量の災害ゴミを前に…(西日本豪雨・西与市:共同通信)

【セルフモニタリングとは】
自分の行動や考え、感情を自分で観察し記録して、自分の行動や態度が社会的に適切かどうかを評価し、調整する能力のことをセルフモニタリングと定義する。単に自己を客観的に観察評価するだけに留まらず、自己分析の結果に対応して行動をコントロール出来るか否かで、セルフモニタリングの高低が実証されるのである。すなわち、認知行動的立場における行動コントロールにおいて、セルフモニタリングは行動に対するモニタリングだけでなく、モニタリングされた行動に対する認知も重要とされているのである。
セルフモニタリングという概念を提唱したのはマーク・スナイダ―(ミネソタ大学社会人類学研究所の社会科学者)であるが、背景には1968年、ウォルター・ミッシェル(スタンフォード大学心理学者)が刊行した「Personality&Assessment」が心理学界に大反響を呼び、それまでは人の性格は生涯変わらない特性として捉えられ、状況に応じて変化しない一貫性を有するものであるという定説を根底から見直さなければならないと主張した。これによって性格を重視する「パーソナリティ心理学」と、状況を重視する「社会心理学」との議論が起こり、共通理解として「相互作用」による行動分析が最も理論的であると導き出された。そして、マーク・スナイダ―博士は、この「性格か、状況か」という議論に対する答えとして、セルフモニタリングスコア(初期18項目、その後25項目に整理される)を開発し、セルフモニタリングが高い人は「状況」に、低い人は「性格」に大きく影響されることを実証した。

~セルフモニタリング・スコア(SMS:尺度)~
1.他の人の行動をまねることは苦手だと思う。
2.集まりや会合では、他の人の気に入るようなことをしたり言ったりしようとは思わない。
3.確信をもっていることしか主張しない。
4.あまり詳しく知らない事でも、とりあえず話をすることができる。
5.自分を印象づけたり、他の人を楽しませようとして、演技しているところがあると思う。
6.たぶん、いい役者になれるだろうと思う。
7.グループの中では、めったに注目の的にならない。
8.場面や相手が異なれば、全く別の人のようにふるまうことがよくある。
9.他の人から好意をもたれるようにすることが、それほどうまいとは思わない。
10.私はいつも見かけのままの人間とは限らない。
11.他の人を喜ばせたり気に入ってもらうために、自分の意見ややり方を変えたりしない。
12.私には、人を楽しませようとするところがあると思う。
13.これまでに、ジェスチャーや即席の芝居のようなゲームで、うまくできたことがない。
14.いろいろな人や場面に合わせて、自分の行動を変えていくのは苦手である。
15.集まりでは、冗談を言ったり話しを進めていくのを他の人に任せておく方だ。
16.人前ではきまりが悪くて思うように自分を出すことができない。
17.もし、必要であると思えば、相手の目を見ながらまじめな顔をして、嘘をつくことができる。
18.本当は嫌いな相手でも、表面的にはうまく付き合っていけると思う。
以上の項目が自分に当てはまるものかどうか、じっくり考えて、当てはまるなら〇、当てはまらないなら✕を付け自己評価を行い、次の一覧と照らし合わせる。

1.✕ 2.✕ 3.✕ 4.〇 5.〇 6.〇 7.✕ 8.〇 9.✕
10.〇 11.✕ 12.〇 13.✕ 14.✕ 15.✕ 16.✕ 17.〇 18.〇
スコア判定方法
自己評価と同じ評価の数が多ければ多いほど、セルフモニタリングが高いということになる。

以上によって、
① 自己呈示の社会的適切さへの関心
② 状況の適切な手がかりとして社会的比較情報への注目
③ 自己呈示や表出行動を統制する能力
④ 特定の状況における上記の能力の使用
⑤ 相手や場面が変わった場合の表出行動の変化の程度
が、検証される。

【セルフモニタリングを検証する】
2018FIFAワールドカップロシア大会において、善戦するも、惜しくも決勝トーナメント1回戦で強敵のベルギーに逆転負けを喫した日本代表。本大会前の監督解任やグループリーグ最終戦での戦術など、話題も多かった今大会の日本チームだったが、もう一つ、FIFAのあるオランダ人運営スタッフがツイッターに挙げた記事と写真が世界中を驚かせ、感動させた。
「これは94分でベルギーに負けた日本のロッカールームです。スタジアムでは代表のサポーターに感謝し、ベンチやロッカールームを綺麗にし、それからメディア対応をしました。また、ロシア語(キリル文字)で『ありがとう』と書かれたメモまで残していきました。すべてのチームの模範だと思います。」(プリシア・ヤンセンス氏ツイート文の和訳)
アディショナル・タイムで逆転された日本代表の選手や関係者が、悔しさでいっぱいだったことは容易に想像できる。しかし、ロッカールームはまるで使用前のように清掃、整理整頓されていた。更には、世話になった運営スタッフやスタジアム関係者にメモまで残して感謝を述べて去っていったのである。
他方、第100回の全国高等学校野球選手権大会がまもなく熱い戦いの火蓋を切る。3年生にとっては最後の舞台。また下級生でも必ずこの舞台に戻ってこられる確証はない、過酷な夏のトーナメントであるが、ここでも同様に、勝敗に係わらず、グラウンドを去った両チームのベンチやロッカールームは、甲子園の土垢の痕跡以外、試合前と何ら変わりなく整頓されている。


白熱したゲームの裏では…(イメージ)

これらの称賛は我々日本人の誇りであり、マナーやモラールという面では、常に優れた民族として世界中で語られているが、ここで取り上げた理由は、そこではない。それは、試合に負けた精神的ショックが冷めやらぬ状況下でも、何故ロッカールームやベンチを清掃することが出来るのか。そのモチベーションは何処から生まれてくるのか、ということである。

セルフモニタリングの高い人は、場の空気に敏感であるという実証がなされている。従って、その場に相応しい行動が採れるかどうかを重要視する。
一方セルフモニタリングの低い人は、場の空気よりも自分の信念に正直に行動する傾向が強いことも分かっている。前述したスポーツの試合後に執られた行動について検証してみると、取り上げた例はいずれもチームスポーツであるから、複数の選手や関係者がその場に存在することが鍵となっている。つまり、その場に居た人々全てがセルフモニタリングについて高低どちらかに偏っているということではなく、高い人も低い人も混在しているのは当然である。ただ、チームスポーツの特性として、そもそも協調性が乏しく、利己主義に徹する考え方の選手、関係者は少ないと思われ、また、事例がW杯や甲子園大会であることから、チームスポーツの頂点付近に位置する人々の集団では尚更である。結果として、恐らくセルフモニタリングの高い人が多く集まっている状況では、敗戦の悔しさを噛み締めながらも、「発つ鳥、跡を濁さず」というモラールに配慮することが可能なのであろう。


几帳面という性格ではなく…(イメージ)

【セルフモニタリングで人生観を知る】
セルフモニタリングの高い人の特徴として、社会や他者との融合、他人への気遣いによる人間関係の円滑化を望む。低い人は、行動に一貫性を持ち、信念に基づき行動するため、優柔不断なところは少なく実直であると言える。これらの特性は、人生や社会生活において、吉と出たり、凶と出たり、することがあり、いずれも万能ではない。当たり前のことではあるが、人生観は人それぞれに違うし、幸福感も違う。しかし、一般社会という集団生活の中では、セルフモニタリングの高い人の方が組織では出世し易く、管理職として高い評価を得ている割合が高いことも知られている。そうすると、違う視点で追った場合に見えてくる「ずる賢さ」や「要領」は、セルフモニタリングの低い同僚の「誠実さ」「真面目さ」との比較で、組織内では有利であるということが分かる。
他方、恋愛関係の場で捉えた場合は、高い人の振る舞いは「八方美人的」であるが、低い人の方は「一途」と感じられ、結実する可能性は高くなる。

少々乱暴な言い方になるが、セルフモニタリングの高い人の場合、「社会の原則」を重要視し、低い人の場合は「自身の原則」を核に生きる傾向が顕著である。前述してきたように、それが即、善し悪しに反映されるのは、その時々の場面によってということであり、セルフモニタリングの高低が人間の価値の高低を決めるわけでもなく、個人の幸福度を左右するものでもない。しかし、いずれの場合もその値が極端に振れると、社会不適合や醜形恐怖症といった状態を招くことも分かっている。


チームワークを必要とする現場には?(イメージ)

セルフモニタリングの有効な活用は、貴方自身の人生において、様々な困難に直面したとき、自分の性格・性質、特性がその状況に対応出来ず、「こういう風に物事を捉える事が出来たら」とか、「自分の性格の悪い部分が影響したな」と悩み、自分を変えたいと考えるなら、セルフモニタリングを思い出し、再考してみて欲しい。再考するとは、自身のスコア評価と18項目の〇✕一覧で合致しない項目を確認し、直面している問題に影響を与えていると思われる項目に関して、合致するための自己改革(self reformation)にトライしてみては如何だろう。

<執筆日:2018年7月15日>