トップページ > 2018年4月号 > マンスリー・トピックス

ラビットプレス+4月号


リクルートスーツを脱ぎ棄てる日は来るか?(イメージ)

毎年この時期に差し掛かると、通勤列車の中がなんとなく爽やかな空気感に包まれる。信号待ちの交差点にも、ランチが安くて旨いレストランにも統一感のある人の集団が目に入ってくる。人々の表情は一様に明るく、目は澄んでおり、瞳は輝いているように映り、なんとなくノスタルジックな気分にさせられるものである。
男性はダーク系のシングルスーツにブルーを主体としたストライプ柄のネクタイをホワイトカラーに格納し、女性は概ね黒のタイトスーツと黒のパンプスに少し個性を感じるブラウスが襟元から微笑んでいるように可憐だ。
勤務先のビルに吸い込まれて行く後ろ姿は、意中の企業に就職を果たした満足感と、社会人の仲間入りを誇らしげに、ある種のオーラさえ漂わせていた。しかし、その初々しい爽やかな風は黄金週間を過ぎた頃から凪ぎ、オフィス街を元の暑苦しくエコノミックで、やたら人口密度が高いだけのコンクリートジャングルへと変貌させ、束の間の草原風景とそよ風は夢と消える。

誰もが新しい人生のステージに期待と不安と淡い夢を描きながら、これまで生きてきた短い時間を“ヨシッ!!”の掛け声と共にリセットしたはずなのであるが、現実はドラマのようには展開しない。その日から新しい人間関係はスタートし、会社や学校は貴方のために存在しているのではないことに気づかされる。第一のハードルと呼ばれる「新しい空気」に馴染めるかどうかは、この1ヶ月で決まるといわれる。そんな新社会人や新入生に向けた自己の意識の持ち方に関する応援メッセージは多いが、本編はその彼らを、手薬煉(てぐすね)引いて待ち構えている先輩、上司に向けたものであり、マネジメントを心理学の分野から指南する“モチベーションマネジメント”である。



評価は誰のためにあるのか?

これから皆さんの下にやってくる新入社員や入学生に対してどのように接し、どのように指導して行けば彼等は一人前になってくれるだろうか。「社会は、現実は甘くないぞ。」「自分が若いころはこうだった。今のように手取り足取り、腫れものに触るような教えは受けたことが無い…。」などと、今日も同僚と一杯やりながら、毎年のことを「めんどうだ」と感じている中間管理職の皆様には、是非ともお読み頂ければと願うばかりである。

M=E×V

M(motivation force=原動力)E(expectancy=期待)V(valence=誘意性)
上記の方程式はイェール大学経営学教授・心理学教授、ヴィクター・H・ ヴルーム(Victor H. Vroom1932年カナダ生まれ)が1964年に著書「仕事とモチベーション」において提唱した期待理論の初期のモデルである。
ヴルームは、人の行動は力の場が生み出すものであり、それぞれの力には方向性と強さがあると論じている。
Vの誘意性とは、結果の優劣であり、ある結果より他の結果が望ましいと考えた場合には、他の結果はプラスの誘意性を持つ。逆にその結果は望ましくない=達成する必要が無いと考えた場合にはマイナスの誘意性を持ち、どちらでも良いと考えた場合の誘意性は0である。
期待は、その行動から特定の結果を生む可能性のその時の認識と定義し、可能性が無い=0、実現する=1とした範囲で数値化する。

誘意性と期待に付与されたそれぞれの数値を乗じると、その行動が持つ想定上の“力”が計算され、人間は最大値を生む行動を選択すると考えたのである。従って、最高レベルの力は、誘意性と期待の両方のレベルが高い行動によって生まれ、誘意性か期待のいずれかが0であれば、0に何を乗じても0であるから、その行動へ結びつく力(原動力=motivation force)はゼロということになる。
すなわち、人間は取り得る行動の選択肢が複数あって、それぞれ予想する結果が異なる場合の心理作用(行動の決定)をM=EVで説明出来る注1としたのである。

注1
この理論は人間の行動に関する標準的なモデルであり、個人の特性に基づく個別対応モデルではない。つまり、一般的に人はどう行動するのかがパターンとして分析可能であるが、実際にどう行動するのかを知るためのものではない。ヴルームの期待理論は、彼自身を含め(ヴルーム・イェットンモデル「リーダーシップと意思決定」1973年など)後続の研究によって更に変化が加えられ、現在に至っても様々な分野の組織マネジメントに応用されている(モーリーン・L・アンブローズとキャロル・T・クーリックによる「旧友と新顔:1990年代におけるモチベーション研究」など)。


期待に応えようとする心理はどこから?

《モチベーションを整理する》
一般的にモチベーション=やる気と解釈されているが、元々は心理学の専門用語として使われていた言葉で、心理学では「動機づけ」という行動を伴う心理的過程の概念を表す言葉として使う。つまり、何か行動を起こそうとするときに必要な要因が動機であり、それをきっかけに行動し、持続させる過程がモチベーションである。一方、モチベーションによって生じる意欲が“やる気”である。モチベーションは個々人が別々に持つものであるから、世間でよく行われる職場環境の物理的整備や福利厚生の充実、報酬の見直し、人事制度改革などの手法はパーフェクトではない。すなわち、組織全体に関する環境改善は有意義であることは勿論であるが、それで全ての従業員や学生のモチベーションに繋がるわけではないということは当然で、得てして一人一人のマネジメントに目が向かない結果となり、大きな設備投資も無駄に終わることが多い。
モチベーションマネジメントを行う者は、メンバー一人一人のやる気はどこから生まれるのか、モチベーションとなるものはいったい何なのかを知っておく必要があるということなのだ。

《モチベーションを理論する》
さて、本題に入ろう。これから皆さんが指導して行くこととなる相手は個々に異なった環境下で育ち、千差万別の価値観と特有の意識を持った「人間」である。それら個人に対して一定の組織に身を置き、組織のルールや社会のルールに従わせながら一人前に仕立て上げていかなければならない。そこにはモチベーションをどう関連付けるかが重要であることは既に述べた。しかし、皆さんのゴールはそこではなく、モチベーションがどのように作用し、組織にとって有益な行動と結果をもたらすのかをマネジメントし、目標を達成させることがゴールである。本項では、そのために知っておかなければならない理論を整理する。
1.自己効力感理論
自己効力感注2とは、英語ではセルフ・エフィカシー(self-efficacy)と言い、自己有能感、自己可能感などと表記することもある。これは、「自分は必ず出来る」「出来そうだ」という確信の気持ちが実感を伴って、自分にはその能力があるという確信を認知している状態を言う。所謂自尊心(self-esteem) 、自意識過剰とは異なる心理状態である。
物事にチャレンジするとき(行動を起こすとき)、その結果に対して達成出来るという自信を持つことは大切である。この自信が自己効力感である。しかし、現実は容易くはない。自信を持つだけでは実務の補てんには繋がらない。途中で挫けそうになるのも当然であるが、その時、自己効力感の高い人は挫折する確率が低く、そうでない人との結果は180度の差が付いてしまうというのだ。

モチベーションを持たせ、行動を起こさせるためには最後までやり抜く強い意志が必要である。それにはある努力をすれば必ず実現するという確実性の高い期待(結果期待)を持たせなければならない。
一方で、その努力は果たして自分に出来るのかという不安が付きまとう。従って、その努力が個人の能力以上を要求するものであったり、経験したことの無い困難なものであったりした場合、効力期待は薄れ、モチベーションは保たれなくなるのである。
すなわち、効力感理論を用いて目標達成に導くためには、個人の能力を見極めた努力を求め、結果期待を意識させられるゴールを設定してやることがマネジメントに求められる。
自己効力感を高めていくことで、人は次第に大きな目標でも効力期待を持てるようになる。それには小さなことからで良いから目標達成経験を積ませ、自信を蓄積させることが重要なのである。
「努力は報われる」という結果期待と、「努力できる」という効力期待が揃って初めて人は意欲を維持し努力を継続出来るのである。


頑張れば報われる!!はず…

注2
自己効力感理論は、1977年にアルバート・バンデューラ(Albert Bandura)が提唱した。彼は自己効力感や社会的学習理論(モデリングによる学習)を研究したカナダ出身の心理学者で、カナダのブリティッシュコロンビア大学を卒業後、アイオワ大学にて博士号を取得。その後、アメリカのスタンフォード大学の心理学教授、アメリカ心理学会会長も務めた。(出典:スタンフォード大学HP)


また、目標設定において重要なことは数値化(量的指標)と分割化(達成経験値の蓄積)である。同じ目標を達成させる場合でも、達成までの道程が遠ければ、到達できたとしても、その達成感を味わうことが出来るのは一度だけであるが、個人の能力に応じて総量を数値化し、段階的にクリアさせていくことで都度達成感を与えることが出来る。部下や生徒は、目標達成経験が蓄積されることで、モチベーションを維持し続けることが可能となる。
つまり、心理的コストを抑えながら継続させる最適な数値によってプログラムすることが指導者として求められるのだ。

2.原因帰属理論
今度は、マネジメントされる側、部下や生徒の心理から分析してみよう。

原因帰属理論は、元々曖昧な因果関係であった事象を、特定の原因に帰属させること(帰属過程=帰属過程に関する理論の総称を「帰属理論」という)により個人の行動を方向づける理論的分析をいい、抑うつの臨床過程でも重視されている(抑うつのモデル理論の一つである「学習性無力感理論」、「改訂学習性無力感理論」などにも影響を与えている)注3
例えば、試験の結果が悪かった時、人は1)自分の能力が低いから、2)試験勉強をさぼっていたから、3)試験問題が難しかったから、4)運悪く、やまが外れたから、のように考える。これは達成課題における成功と失敗の原因を何に帰属させるのかという視点で考えた時、人はあるスタイルを持つと考えられるところから、ジュリアン・B・ロッター(Rotter, J.B.米国の臨床心理学者)とバーナード・ワイナ―(Weiner, B.米国の認知心理学者)が提唱したのが「原因帰属理論」である。

自分の行動の結果、その評価の原因を自分や他人の何処に求めるか、という概念は、「統制の所在(locus of control≒LOC)」と呼ばれ、パーソナリティ検査の尺度として使われている。LOCには「内的帰属(原因を自己の属性に求める)」と、「外的帰属(原因は自己の外に在る)」という概念を基本に、原因帰属のスタイルとして、「統制(内的統制/外的統制)」及び、「安定性(安定/不安定)」を組み合わせることによって4つに分ける。

安定性 統制 安定 不安定
内的統制 1)自己の先天性、潜在的能力が原因と考える 2)自己の努力が原因と考える
外的統制 3)課題の難易度が原因と考える 4)運が原因と考える

試験の結果が悪かったのは
1)自分の能力が低いから
2)試験勉強をさぼっていたから
3)試験問題が難しかったから
4)運悪く、やまが外れたから

LOCを内的ポジティブ、外的ポジティブ、内的ネガティブ、外的ネガティブの4つに分類すると、
A・好いことは自分に起因する (内的ポジティブLOC)
B・好いことは他人や世間、運命に起因する (外的ポジティブLOC)
C・悪いことは自分のせい (内的ネガティブLOC)
D・悪いことは他人や世間、運命のせい(外的ネガティブLOC)

ACタイプは、好いことも悪いことも自分に原因があると考えるので、自己主張が強いが、主体性と責任感を持って自分の幸せは自分で掴む。
ADタイプは、好いことは自分、悪いことは他人のせいにする帰来があり、周りから顰蹙(ひんしゅく)を買うが、案外自身は悪気がないノ―天気。
BCタイプは、好いことは他人や世間のおかげと考え、悪いことは自分のせいと考えるので、自分を責め、ストレスを抱えやすく抑うつ傾向がある。
BDタイプは、好いことも悪いことも自己外の理由や原因で起こっていると考えがちで、他力本願であり、自ら解決しようとは思わない傾向が見られる。


自分のパーソナリティと向き合うには

更に、個々の事象が自分でコントロール可能か、不可能かという要素を加えて6つの原因帰属を提案した。この組み合わせによって個人のパーソナリティを分析し、指導者はそれぞれに応じたアドバイスを与えて課題克服の道標を示すことが出来るのである。

注3
学習性無力感理論:マーティン・セリグマン(Martin・Seligman:米国の教育心理学者でポジティブ心理学の生みの親と称される)の犬の電気ショック実験により、悪い結果を繰り返し経験していると、そこから逃れられる状況が訪れたとしても、逃れようとしなくなる心理が解明された。例えば、長期間の監禁や強制によって脱出意欲すら無くしてしまう心理状態(努力が無意味であるという学習がもたらす無気力状態)。アパシーシンドロームともいう。
改訂学習性無力感理論:セリグマンの学習性無力感理論では、「コントロール不能状況→ネガティブな結果の予期→無気力や抑うつ感、絶望感」といったモデルになっており、コントロール不能な状況の解釈の過程=認知の過程が不足しているとして、認知の枠組みは、失敗に直面して統制不能を感じた時に解釈(自分の能力のせい、また失敗するかもしれない、など)が行われ、解釈の内容によって無力感が生じ、その度合いも変わってくると考えた米国の心理学者、エドワード・エイブラムソン(Edward・Abramson)は、「コントロール不能状況→認知→原因帰属→結果の予期→問題・症状」のプロセスを提案した。

《モチベーションの原動力を掌握する》
仕事にしろ、勉強にしろ、人が行動するにはモチベーション(動機づけ)が重要であることが理解できたと思う。しかし、個々のモチベーションは課題によって、または置かれた状況によって目標達成への意欲は二分される。すなわち、どういう理由でモチベーションを保ち続けられるのかには、大別して二つのパターンがあるということだ。

一つは、「外発的モチベーション」。これは、外からの要因、例えば報酬や評価(物質的な提供含む)を得ようとすることが原動力となるものである。
もう一つは、「内発的モチベーション」と定義され、内面的な個人の感情や気持ち、例えば好意や充実感、使命感などが原動力となる場合である。
一般的には、内発的モチベーションによって行動している方が集中力、持続力が高く、好結果に結び付くとされる。注4
しかし、折角の内発的モチベーションも、外部からの刺激によって簡単に外発的モチベーションへと変化してしまうのだ。ここが人事的マネジメントのポイントである。
例を挙げれば、ある仕事や学習分野に興味を持ち、損得勘定など無く打ちこんでいる部下や生徒に対して、不必要な報酬や評価を与えてしまうような場合である。「よく頑張っているねえ!完成したら昇給してやるよ」とか、「偉いぞ!」などと上から目線で評価することで、内発的に充実感を感じていた課題へのモチベーションが、外発的な報酬提供や評価に原動力が置き換えられてしまう。そうなると、「もっと報酬を上げてくれないと、やってられない」とか、褒められ、認められるためにアピール(承認の充足欲求)するような行動が目立つようになる(心理学では「アンダーマイニング効果=過正当化効果」という)。
これは、内発的モチベーションに対する危険な叱咤激励であり、本人の心理的リアクタンス(反発心理)を生じさせ、モチベーションのシフトダウンを招くことに繋がり、本末転倒となる。テレビCMではないが、親に「勉強しろ!」と言われた子供の口から、「今、しようと思ってたのにぃ~、やる気が無くなったわ!」と。これは案外、屁理屈ではないかも知れない。やる気が失せる瞬間はこのように訪れるのである。


学習動機の二要因モデル理論(市川伸一著:PHP新書・Amazon.com)

注4
過去、教育心理学の分野における内発的、外発的動機づけ(motivation)理論は、学習動機を説明するうえで一般的に多用されてきたが、市川伸一(東京大学大学院教育学研究科教育心理学コース教授)が提唱する「学習動機の二要因モデル」理論でそれを補完し、教育実践によって市川は更に信頼性を高めた。

《最適な人心掌握とは》
デール・ブレッケンリッジ・カーネギー(Dale Breckenridge Carnegie:1922年頃までは「Carnagey」のスペル・米国の作家、牧師。自己啓発などの教育プログラムを多数開発)の言葉に、「人間は偏見に満ち、プライドと虚栄心によって行動している生き物である」とある。この言葉から連想される人間の特性は、感情によって自己の意思が支配されている側面である。つまり、人をコントロールする局面では、相手の感情に作用する言葉や行動(情報)が有益であり、相手は感情の赴くままに行動(情動)するというのだ。
一方、感情の対義として用いられる理性はどうか。道理によって物事を判断する心の働き。論理的、概念的に思考する能力=善悪・真偽などを正当に判断し、道徳や義務の意識を自分に与える能力と解すならば、感情に支配されがちな人の心に制御的に働き掛ける能力が理性であると言える。

本項で述べてきたモチベーションの心理分析によって、「人を動かすため」には人間の持つ意思決定プロセスに対する外的な働き掛けの重要性が理解頂けたと思う。
上司なり、先生なりが新しくその世界に飛び込んで来られたフレッシュマン達をこれからどう導いていき、企業や社会、組織に有用な人材として育てていくために必要なマネジメント術を以下に纏めたので、是非ともご参考にされたい。なお、これらは対象者が貴方の下へ来た時から早速始めなければならない。つまり、教育指導にはタイミングが重要なのであって、賞味期限内に行うことが大切であることをお忘れなく。

  • 一、個人のLOCパターンを把握し、対象者に合ったアプローチを採用する。
  • 一、個人のパーソナリティを見極め、自己効力感を持たせるためには、達成可能な目標設定と適当な達成経験が必要である。
  • 一、大切なのはモチベーション(動機づけ)である。動機は興味、共感、報酬、評価など様々であるが、個人の特性を把握し、且つモチベーションを持続させるプログラムをマネジメントしなければならない。
  • 一、モチベーションの原動力が内発的か、外発的かを理解し、アンダーマイングを起こさせないように叱咤激励(アメとムチ)の使い方に注意する。

これが実践出来れば、貴方は「人心掌握の達人」になれる。