トップページ > 2017年11月号 > マンスリー・トピックス

ラビットプレス+11月号


握手から人の心は読み取れる?(イメージ)

現代心理学は、ある現象に対して、人の心がどのように反応するか、また、それによって人がどのような行動をするのかということを科学的手法(仮説=実験=解釈=考察)で研究し、立証する学問のことである。
古くは「心理学の父」と呼ばれたフロイト、ユングそして今少し話題のアドラーなどが心理研究を行っていた19世紀。その時代の心理学は学問というよりキリスト教(神話)の影響を強く受けた宗教、文化思想的、もしくは哲学と並行した「心の学問」とでも言うべき、形の見えない、触れることのできないものであった。
本編の連載を依頼されるにあたり、取り上げるテーマに対する分析と回答については、学問としての心理学、すなわち「実験心理学」の科学的実証手法のアプローチを踏まえて書き進めていく(前者を「深層心理学」と位置付ける)。


フロイトとユング(講談社学術文庫:Amazon)

《小池東京都知事は何故国政政党「希望の党」を設立したのか》
~小池氏の行動と言動から計る本音と建前~
平成29年9月25日。小池東京都知事は午後、緊急会見を開き、若狭衆議院議員や、細野元環境相らが準備を進めてきた新党について、自ら立ち上げ、党名を「希望の党」にすることを明らかにした。
小池都知事は、「このたび『希望の党』を立ち上げたいと存じます。これは、これまで若狭さん、細野さんを始めとする方々が議論してきたが、リセットして、私自身が立ち上げるということで、直接絡んでいきたい」と述べた。
【ニュースソース・FNN】

上記のニュース報道は多くの国民の目に触れただろう。巷で話題となったのは記者発表のタイミングとニ回に分けたその手法であった。
25日午後2時半ごろ、東京都庁の記者会見室。小池都知事は駆けつけた約100人の報道陣を前に臨時記者会見を開き、「私自身が立ち上げる。直接絡んでいきたい。都政については都知事としてしっかりとやっていく。」と語り始めた。
折しもその30分前。上野動物園で生まれたパンダの赤ちゃんの命名発表を行ったばかり。その会見こそが小池新党結成の記者会見と意気込んで押し寄せた報道陣、記者達に肩透かしを食らわせた。
「呼びやすく、花が開くような明るいイメージ」と話した小池知事は終始にこやかに語りかけ、期待を削がれた報道陣の心の奥を見透かしているかのような、いたずらっぽい目をしていた。筆者はこの報道に小池氏の芯の強さ(転んでも挫けない、逆境を利に変えようとするふてぶてしさ=埋没しない手腕と“くそ度胸”)を見た。シャンシャン(香香)の名前は選考委員会で8点(応募総数32万2581通)にまで絞られたあと、小池知事が最終的に選んだという。「香」は中国で「人気がある」との意味を持つ。

小池氏の心理は「新党=人気政党」であらねばならない(準備不足は織り込み済み。総選挙に向かうには新党は小池人気しかない)という考えの下で動いたと見てよいだろう。新党結成の記者会見で発した「リセット」の響きは、若狭衆議院議員並びに細野元環境相がこれまで記者会見で見せてきた態度や発言に危機感を募らせ、臨時国会冒頭解散の安倍パフォーマンスに新党結成が霞まないよう、このタイミングで決断したのだ。
このスピーディーな方針変更は見事に成功し、その後行われた安倍首相の消費増税使途変更(教育財源への変更)は殆ど話題にならなかった。焦った首相官邸サイドは、おそらくこの日に予定していなかったであろう「臨時国会冒頭解散」の正式記者発表を急遽用意し、臨時の党役員会を開いての挨拶で、28日召集の臨時国会の冒頭で衆議院を解散し、衆議院選挙を行うことを正式に表明するという巻き返しに出た。

新党立ち上げの記者会見では、小池知事と記者達とのやり取りが続いた。
「都知事としての任期を全うすると思っていたがどうするのか?」の問いかけには毅然として、「知事として、代表として日本を変えていく」と答えた。質問したその記者を真っ直ぐ見据えて。
また、同意の質問であったが、「国政に戻るのか?」に対して小池知事はやや相好崩し気味に、「今は、仲間を一人でも多く当選するように…」と返した。想定済みの質問に対する余裕の表情が浮かぶ。この時点で専ら取り沙汰されたのが小池氏の出馬(衆議院選)であった。しかし、実際に実験心理学を学んだプロの多くは、「小池氏は出馬しない」ことをこの時点で確信したに違いない(勿論、人の考え方はその後の状況で変化していくものであるが)。その心理は、自身の人気にすがって立ち上げた「希望の党」であるから、都知事を辞することで受ける批判が人気低下を招くことを最も恐れていたはずである。ここはまず国政政党として野党第一党に君臨し、都知事と希望の党代表の二足のわらじを履きこなすことで「小池人気」を不動のものとすべし、ということであろう。

何故、小池氏が自ら代表を買って出たのか?

生物学的に、高度な知恵を有する霊長類に属するものは、「自分のことは自分で律する」という本能を生得的に遺伝子が持っていると言われる。自分に関係すること、例えば「好き・嫌い」「接近・回避行動」などである。これを自己効力感(self efficacy)と呼ぶ。従って人は能動的に、自発的に好き・嫌いや、する・しないを自ら選択し、これを自分らしさとして表現する。反対に、自分の選択を阻害する状況が生じると、極端なストレスとなって現れるのである。
新党立ち上げの経緯を振り返ってみると、民進党を離党した細野氏が小池氏の懐刀の若狭氏に急接近し、小池氏中心の新党を模索し始めたころ。二人の間にどのような問題が生じたか、どのような検討がなされたのかは知らないが、記者会見の度に意見のズレが目立ち、小池氏の意図しない「出馬待望論」を若狭氏の口から洩れ聞くなど、都知事就任からこれまでに進めてきた小池氏の目論見が崩れそうになるほどの危機感が生じたのである。小池氏自身の心理に、である。そのような状況下で、小池氏の自己効力感の回復欲求が高まり、自分で選択したい!衝動が起きたと分析できるのである。「お前ら、何やってんだ!ここまで培ってきた小池人気を潰す気か!?」「あたしより目立つな!」。
勿論、先の二人にはそんな気は毛頭ないであろうが、結果として二人の言動が火を付けたのである。新党関係者や都民ファーストの関係者、小池氏に近い都議会議員などはおそらく代表就任を抑止しただろう。しかし、人は止められれば動きたくなるものである。これを心理学上「心理的リアクタンス」と言う。本能である。本能を呼び起こされた小池氏の心理には自分自身で決めたいとする「自己効力感」が支配する。
そして9月25日14時過ぎ。「若狭、細野をリセットし、自分が立ち上げる」となったわけである。


希望の党ポスター(イメージ:本文とは関連ありません)

《民進党からの合流を排除する!発言の心理とは》 9月29日の都庁での記者会見で事が起こった。「民進党から合流する人達をすべて受け入れるのか?」という記者の質問に対し、小池氏はこう答えた。意味ありげな薄ら笑みを浮かべて。
「排除されないということはございません。排除します」。
この失言(これは後10月13日出演のフジテレビで小池氏自らが「キツイ言葉」として失言を容認)を引き出したフリージャーナリスト(横田一氏)は、「民進党から希望への公認申請者は排除されないという前原誠司代表の話と食い違いがあるように思いますが。」との前置きを付けていた。
一方の小池氏の発言にも前置きがある。「前原代表がどういう表現をされたか承知しておりませんが…」という具合である。この両当事者に共通のキーワードが浮かび上がってくる。「前原誠司」民進党代表である。この失言を心理学で解明すると、次のとおり小池氏の心の奥が見えるのである。

小池氏は、9月29日の会見で「(民進党の)お金欲しさに云々ことを批判される方、それは全くの間違いでございます」と否定。「今回、希望の党で公認候補として戦っていただく方には、それぞれ自前の努力で、出馬、そして選挙戦を戦ってもらうということを、これをもう条件としています」と発言している。民進党には昨年度末の繰越金残高が124億円あるとも言われ(時事ドットコム)、候補者一人当たり2500万円掛る(2014年選挙の試算報告)と言われる選挙資金に頭を抱えているのではないかとされる希望の党にとっては喉から手が出るほど、と指摘する民進党関係者は多い。その代表である前原氏が希望との合流に際し、小池氏の本性を理解することなく当然のように「合流組は全員公認」を発言したとあっては、黙っていられる百合子様ではなかろう。
そもそも「排除の論理」に使われた理由が「リベラル」である。小池氏は、希望の党としては「保守」を標榜し、原発反対、憲法改正反対の立場に反する一派に「リベラル」のレッテル付けを臆せず放言している(民進党辻元清美氏は、希望の公認を得られなかったことに対し、自らリベラルの力を信じると言って無所属での立候補を決めている ※後に立憲民主党から出馬)が、そもそも小池氏に「保守」と「リベラル」の違いを明確に出来るほどの知識と政治信条は無いだろう。在るのは、またもや自分を無視して前に出た「前原代表」に対する怨差でしかない。金は欲しいが百合子ファーストは譲らない。民進党にイニシアチブは取らさないし、合流も希望公認も全てが自身の「人気=力」があるからこその状況である。この自信と優越感が引き出させた言葉と言えるだろう。

すなわち、この「排除」発言の元にある小池氏の行動心理は、強大な権限を持った者に顕著に表れる、自分の考えや意見を過信してしまうという事象である。小池氏自身は、リベラルの意味を理解し、自分の政治信条と異なる考えを持つ者を希望から排除するのは当然という論理で持論を展開したに過ぎなかったのだろう。しかし、権力者となった小池氏の過信は、物事を考えて発言する過程を経ず、ステレオタイプ(固定化した概念)に基づく判断を正当化するのである。つまり、皆自分の言うことに共感し、当然のごとく従うと本当に信じてしまうのである。その心理状態が失言を生むのである。


発言には心理パターンが影響する(イメージ)

~小池氏の現状は心理学で説明できる~
心理学ではハロー(halo)効果とその延長線上に潜むロス効果で説明する。
小池氏が自民党を離党し、一転東京都知事としてデビューした。そこには女性初の東京都都知事という輝く女性の象徴が刻まれ、ハロー(後光)が輝きを放った。しかし、この後光という輝きはとても短命であることは一般の理解を得ている。「美人は三日で飽きる」は極端としても、都知事に就任して小池氏の政治手腕の実力が見え始める(豊洲問題しかり、オリンピック問題しかり)と、瞬く間に後光は輝きを失い、潜んでいた失望感=ロス効果として都民に蔓延する。小池氏の卓越したところは、それを見越したように次の戦略をスピーディーに実践するところにある。政治塾の運営から、来る衆議院解散を睨んだ新党設立の準備、そして自身が後光を取り戻し、最も輝く場所、すなわち我が国初の女性首相のポストである。
しかし、この戦略的出世街道を走り抜けるにはそもそも時間を要する。小池氏の策をもってしても、延々と後光を放ち続けるには無理があった。心理学では逆のパターン、つまりロスから入って人々の失望感を徐々に期待へと変えていく手法=ゲイン効果の戦術のほうが、より持続的であることが立証されている。「ブス(失礼)は三日経てば慣れる」である。

最近(本編執筆時)の小池氏は睡眠時間が2時間程度と極端に短いと会見で仰っていた。目の周りに隈が出来なければよいがと老婆心ながら…。
そういえば、上野のお山の人気者も目の周りに黒い隈がありますね。

※リベラルとは
本来は個人の自由を重んじる思想全般の意だが、アメリカにおけるリベラルと言われる政治信条は、憲法改正反対や原発再稼働反対を主張する日本のリベラルとは、真逆の立場をとる。極めて広範囲に使われる「リベラル」という言葉だが、アメリカの現代政治においては、ニューディールから現在の民主党へと続く一つの系譜を指し、理想の実現には自然をも征服しようとする。市場経済に政府が介入することや、自国の理想に従わない他国へは武力を行使してでも従わせる。そうやって理性的な人間がコントロールできる領域を広げれば、多様な人間が共存できる理想的な社会ができ上がると考える。こうした一種の理想主義をいうのである。
『参考:山口真由「リベラルという病」新潮新書2017年』

<執筆日:2017年10月17日>