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女不動産屋 柳本美土里

金曜日の放課後、いつものように沙綾は友達の紗倉と一緒に校門を出た。
紗綾と紗倉は、名前に同じ漢字が使われていることや、帰る方向が同じということで、小学校に入学した頃からすぐに仲良しになった。
2年生になってクラス替えが行われたが、偶然にも2人はまた同じクラスになることができ、毎日のように一緒に登校し、一緒に学校から帰った。
「ねえねえ、紗綾、今日は習い事がないから、うちに来てくれるよね?」

紗倉の両親は、子どもには幼いころからの英才教育が何よりも大切だと考えているらしく、金曜日以外は毎日、学習塾やスイミングスクール、ピアノなど、何らかの習い事に通っている。
紗綾の母親に言わせれば、「あれじゃあ、子どもが可哀想」だそうだ。
でも、紗倉本人は、それほど大変だとは思っていない。
他の多くの子どもができない水泳のバタフライや、ちょっと難しい曲をピアノで弾けることは彼女のプライドを高めているように思える。
紗倉がピアノで弾けるようになったというボッケリーニという人が作ったメヌエットという曲を聴かせてもらったときは、紗綾もこんな曲が弾けるようになれたらいいな~と思い「お母さん、私もピアノ習いたい」と言ってみたことはあったが、3LDKのマンション暮らしの家ではピアノを置くだけのスペースはないからと、あっけなく却下された。
もしかしてピアノを買うお金がないのではないかとも思う。
でも今では、お母さんに却下されて良かったと思う。
だって、紗倉はピアノの先生に「練習が足りない」ってひどく怒られて、泣いたことがあるって聞いたから。

金曜日は、紗倉の習い事がないので、お互いの家に行って遊んだりすることも多い。
「うちのシューベルトが子犬を産んだの。すっごく可愛いんだから」
シューベルトとは、紗倉の家で飼っている雌犬のことだ。
たしかシューベルトって作曲家は男だったと思うけど、どうして雌犬の名前がシューベルトなんだろう?変だなあとは思っていたが、紗倉に聞いてもはっきりとした答えは返ってこないし、そこは深く考えないことにした。
ボストン・テリアという小型犬の種類だそうで、立った耳や短い尻尾と短い鼻が特徴的だ。
紗倉はシューベルトのことを「可愛いでしょう」と言い「そうやね」と答えているが、目が離れていて口尻が下がっている顔は、可愛いとか格好いいとかではなく、どこか間の抜けた顔だと紗綾は思っている。

そのシューベルトが子犬を産んだというのだ。
紗倉が言うには「すっごく可愛い」らしい。
シューベルトを可愛いと言っていた紗倉の「可愛い」という言葉をそのまま信用することはできないが、生まれたての子犬を見たことがない紗綾は、シューベルトの赤ちゃんに興味があった。

「ねえねえ、紗綾、今日は習い事がないから、うちに来てくれるよね?」
「うん、行く行く!」
2人は、思わず早足になっていた。
「シューベルトの子どもは5匹とも、めっちゃ可愛いんやから」
「え~、5匹もおるの?」
紗綾は、犬が赤ちゃんを一度に数匹も産むということを初めて知った。
紗綾は早く赤ちゃんを見たくて、紗倉は早く赤ちゃんを見せたくて、追いかけっこのようにシューベルトと赤ちゃんが待つ家に2人は駆けた。

「ただいま~」
「こんにちは~」
紗倉の家の大きな白い門をくぐり、アプローチを抜けて楕円形のステンドグラスがはめられた玄関ドアを開けて家に飛び込む。
「ちょっとここで待ってて」
紗倉はそう言うと、手と足を器用に交互に動かしながら4本足の動物のように階段を駆け上がった。
まるでマジシャンが箱から出てくる直前のドラムのような音だ。
そのドラムの音に反応して、紗倉のお母さんが奥から出てきた。
「あら、紗綾ちゃん、いらっしゃい」
紗倉のお母さんは、いつ見てもおしゃれだ。
家にいるというのに、しっかりと化粧もしているし、ワンピースの胸元にはネックレスが光っている。
紗綾のお母さんなら、家ではスッピンにジーンズにセーター、その上にカーディガンでも羽織っているぐらいだろう。

今度は、雷が落ちたような大きな音を立てながら、紗倉が階段を下りてきた。
「紗倉、そんなに急いで階段を踏み外したらどうするの!」
本当に叱っているのかわからないくらいの上品な叱り方だ。
紗倉は、お母さんの声が聞こえないかのように、すぐに紗綾の手をとって家の裏庭まで引っ張って行った。
紗倉の家の庭は一面に芝生が敷き詰められ、その庭を囲むようにバラや色とりどりの花が咲き乱れている。
イングリッシュガーデンというらしいのだが、これも紗倉のお母さんの趣味だそうだ。
その庭の右手の奥に、シューベルトの犬小屋がある。
犬小屋といっても、ドアがある小屋の大きさは紗綾の部屋くらいあり、高さも大人の人が立ったまま出入りできるくらい高く、エアコンも完備している。
紗倉が、犬小屋のドアに取り付けられた覗き窓から、そっと中を覗いて、紗綾を手招きして呼び寄せた。
紗倉の隣に並んで小屋の中を覗いた紗綾の目には、横たわったシューベルトと、シューベルトのお乳を飲んでいる4匹の赤ちゃん犬、母乳の獲得競争に負けたのだろうか、兄弟の後ろでもぞもぞと動いている1匹がいた。
赤ちゃんは、お腹が白く、それ以外は黒い毛で覆われているが、足の先と鼻と口の周りがピンク色。
そっと、小屋に入っていった紗倉が、その1匹を大事そうに手の中に入れて運んできた。
紗倉の二つの掌にすっぽりと入ったシューベルトの赤ちゃん犬の目は、まだ開いていないようだ。
「紗綾、抱っこしてあげて」と、紗倉は赤ちゃん犬を紗綾の掌に差し入れた。
生きている温かさと、柔らかい毛、ちっちゃなちっちゃな足先が、おもちゃみたいだ。
「可愛いでしょう?」
紗倉の言葉に、今度ばかりは心から頷いた。

「お母さん、ね~、ええやん、ねぇ~ってば~」
「私のご飯を減らして、あげてもええから~」
「ダメよ、そういう問題じゃないの。このマンションはね、ペットは飼えない決まりなんだから・・・」
「だって内緒で飼ってる人もおるやんか」
「あの人たちがルールを破っているのよ、そんな人たちと同じようにルールを破ることはいけないことでしょう?」
紗綾は、ピアノのときのように簡単には引き下がらずに、ほっぺたを膨らませてお母さんを睨んだ。

紗倉のお母さんが、紗綾の家で飼えるのならシューベルトの赤ちゃんをあげてもいいって言ってくれたのだ。
あんなに可愛い赤ちゃん犬と毎日一緒に過ごせたら、どんなに楽しいだろう。
紗綾の家はマンションだけれども、犬や猫を飼っている人もいるし、お母さんとお父さんに一生懸命にお願いしたら、どうにか叶うと思っていた。
なのに、お母さんはマンションのルールだからと言って、全く許してくれない。
しかたがないので紗綾は戦略を変えることにした。
まずは、お父さんに許可してもらって、お父さんからお母さんを説得してもらおう。
紗綾はお父さんの帰りを待った。

「ただいま~」お父さんが帰ってきた。
「おかえり~!!」
紗綾はいつもと違い、玄関に飛んでいって、お父さんの腰に抱きついた。
「おっ、紗綾どうした、今日は?はは~ん、さては何か頼みごとがあるな」
お父さんはお見通しのようだ。
でも、こうして紗綾が甘えると、お父さんは嬉しそうな顔になって、お願いは何だってきいてくれるのを紗綾は知っている。

「そうか~、紗綾はどうしても紗倉ちゃんとこの犬が飼いたいんだな。でも、動物を飼うってのは大変だぞ。毎日きちんとご飯をあげたり、散歩をさせたりしないといけないんだから・・・おもちゃのように、飽きたからって放っぽりだすこともできないんだよ」
「そんなことわかってる。絶対にちゃんととお世話するから!だから、ね~お願いします」
困った顔で、お父さんは、お母さんの顔を見た。
「私は知らないわよ。ここはペット禁止になっているのにどうやって飼うの?」
「そうだよな~、他の人が飼っているからって、うちが飼っていい理由にはならないもんな」
「う~ん、難しいな~」お父さんは腕組みをして目をきつく閉じた。
再び目を開いたお父さんは、紗綾に向かってにっこりと笑って言った。
「紗綾、きっとなんとかしてやるから、もう少し待ちなさい」
カウンターキッチンから2人を見ていたお母さんが、怪訝な表情でお父さんを見ているのがちょっと心配だが、お父さんは絶対に嘘をつかない。紗綾はお父さんの言葉を信じることにした。

あんなこと紗綾に約束したけど、あの人どうするつもりなんだろう?
もしかして、こっそりとマンションで飼うつもりなのかしら?
もし、そうなら断固として反対しないといけない。
だって、見つかったときに矢面に立たされるのは私なんだし、ご近所のママ友づきあいもできなくなってしまう。
美和子は洗ったお皿を拭きながら、夫の孝介を考えを探っていた。

紗綾を寝かしつけてリビングに戻ると、孝介は読んでいた新聞をテーブルに置いた。
犬を飼う話をするつもりなんだろう。
最初に口を開いたのは美和子だった。
「あなた、紗綾にあんな約束してたけど、どうするつもり?」
美和子の口調は、事と次第によれば、すぐに反撃するぞという体制になっていた。
「引越ししたらどうかな?って思うんだけど」
「引越し?」
美和子が予想もしていなかった提案だった。
「そう、マンションでもペットが飼えるところもあるって聞いたし、一戸建てなら文句なしでペットが飼える。ここは賃貸マンションなんだから、ペットが飼えるところを買って引越しすればいいと思うんだ。会社の同僚で家を買ったやつがいるんだけど、今は金利が低いから賃料くらいのローン支払いで買えちゃうみたいだし、それなら買ってもいいかなとも思ってたとこなんだ。紗綾のペットのことだけが理由じゃなくて」
それなら犬を飼ってもいい。
実家では犬を飼っていたこともある美和子は、犬が嫌いな方ではない。
自分たちの家を買う、そのことが美和子を高揚させた。
「そう、それなら早くいい家を見つけて引越ししなくちゃね。犬は成長が早いから、なるべく小さいうちに引き取らないといけないと思うわ。明日、犬を譲ってもらえるのか紗倉ちゃんのお母さんと話をしてから、不動産屋さんにいい物件探しを頼んで来るわね」
決めたら行動に移すのが早いのが美和子のいいところでもある。
「じゃあ、頼んだ」
美和子の賛成に、孝介も胸を撫で下ろしたようだ。

翌日、美和子は紗倉の家を訪ねた。
紗綾が話していたように、紗倉の家で飼っているボストン・テリアが子犬を産んでおり、そのうちの1頭を譲ってくれるという。
今のマンションではペットは飼えないけれど、飼える家に引越しするつもりだから、それまで待っていて欲しいと美和子は頼み、紗綾のお母さんは快諾した。

さて、次は不動産屋さんだ。
今の賃貸マンションを紹介してもらった不動産屋さんの女性の社長が、とっても感じのいい人だったのを覚えていた。
相変わらず玄関ドアは、古びた木製の引き戸だ。
開きにくいのも、以前のままである。
「こんにちは、ご無沙汰しております」
半分ほど開いたドアから中に向かって挨拶すると、1人の男性が飛んできて内側からドアを開けるのを手伝ってくれた。
「すみません、開きにくいドアで」
恐縮して謝る誠実そうな男性は、夫の孝介と同じくらいの年代のようだ。
「あの~、社長さんはおられますか?」
その声を聞きつけて、奥から女社長の美土里が顔を出した。
美土里は、父の経営する柳本不動産を継いだ2代目だ。
東京で銀行に勤めていたのだが、父の体調が良くないことと、風通しの悪い銀行の体質に嫌気がさして、地元の関西に戻り父のあとを受け継いだのだ。

「あら、松尾さん。ご無沙汰しています。今日はどうされましたか?お部屋に何か問題でも?」
「いえ、そうじゃないんです。実は家を買おうかと思ってまして・・・で、いい物件を探してもらいたいと思ってるんです」
「そうですか、ありがとうございます」
美土里は、美和子をソファに案内した。
「で、どんなお家をお探しですか?」
「ペットが飼えるマンションか、一戸建てがいいんですが・・・」
「ペット?ああ、そういえばお住まいのマンションはペット飼育は禁止されていましたもんね。ペットを飼われるんですか?」
「そうなんです、娘がどうしてもって言うもので」
美和子は苦笑いをした。

駅からの距離や、広さの希望、できれば賃料程度でローン支払いができる物件という条件を提示し、物件を探してもらった。
「そうですね~、ペット可のマンションは、もともと少ないんですよね。ご希望の条件からするとかけ離れて値段の高いマンションか、予算内なら駅から遠いマンションになってしまいますね~」
「中古の一戸建てなら、条件に合う物件がありそうですね」
そう言うと美土里は、何枚かの物件資料を差し出した。
「中古の一戸建てですか?」
美和子のテンションは少し落ちた。
「このエリアで新築の一戸建てはありますか?」
「ええ、ありますよ。でも、ちょっとご予算からはオーバーしますけど・・・」
そう言いながら、美土里は新築一戸建ての資料を2枚テーブルの上に置いた。
「ちょっと主人と相談したいので、資料をもらって帰ってもいいですか?」
「ええもちろん、お持ち帰りいただいてご検討ください。ちなみにこの新築一戸建てならローン支払額も計算させていただきますね」
美土里はiPadのソフトに金額を入力し、ローン支払額を物件資料の端に書き入れた。

「あなた、ちょっと見て、どう思う?」
不動産屋からもらって帰った物件資料を、美和子は孝介が座っているテーブルに置き、対面に座った。
「ペットOKのマンションって少ないみたいで、希望条件の中にはなかったの。で、物件資料の中で、価格が載っているところの横に書いているのが、ローンの支払い額だから」
物件資料には、間取りの他に地図や写真が掲載されているものもある。
中古一戸建ての資料はだいたい同じくらいの価格帯のものだが、新築の一戸建ては中古に比べて1.5倍以上の金額で、その分ローン支払い額も高くなっている。
「こんなにもローンの支払いは無理だろう」
新築一戸建ての資料2枚を突き返すと、美和子は少し寂しそうな顔になった。
「やっぱり、新築は無理なのかな~」
2枚の紙を掴んだまま、妻は名残惜しそうに資料に目を落としていた。
「新築にこだわってるのか?」
「う~ん、まあね、だって中古って誰か知らない人が住んでいたってことでしょう?トイレもお風呂も、その知らない誰かが使っていたものなのよ」
「それなら、リフォームしたらいいんじゃないか?リフォームしたら、トイレもお風呂も新品だし」
孝介が、そう話しても、美和子の浮かない顔に変わりはなかった。
「以前、中古の車を買ったことがあったでしょう?あのときの車のあたりが悪かったのか、半年ほどしてエンジンが壊れて、修理代を見積もったらあまりにも高いから、結局のところ廃車にしないといけなくなったわよね。あれがトラウマで、中古を買って、もしすぐに何かトラブルが起こったらと思うとね・・・」

確かに、美和子の言うことも一理ある。
新品ならメーカーが保証してくれるだろうけども、中古ならそういう訳にはいかない。
中古車の販売店が一定期間の保証をしてくれるということも、最近ではあるようだが・・・。
そういった保証については、住宅の場合はどうなってるんだろう?
販売した不動産屋さんが保証するなんてことも、あるんだろうか?
「わかった、じゃあ、柳本さんに相談してみようよ。何かいいアドバイスをくれるかもしれないし、場合によったら条件を見直さないといけないかもしれないからな」
明日は仕事が休みなので、美和子と一緒に柳本不動産に行ってみよう。

「なるほど、そうですよね。私たちが仲介をさせていただく中古戸建では、売買契約書で瑕疵担保責任という、ちょっと見ただけではわからない土地建物の問題点を、範囲を限って売主に保証してもらっています」
美土里は続けた。
「ただ、こうした瑕疵担保責任が必ず売買契約書に記載されているかと言えば、そうではありません。あまりにも建物が古かったり、売主が資力がなくて責任の履行ができないということが最初からわかっている場合は、この瑕疵担保責任っていうのを付けずに契約する場合もあります」
「ええっ、じゃあ、売主の保証が何もないとすれば、買った後に大きな問題が見つかったとしても、買主が負担しないといけないんですか?」
孝介は、美土里に尋ねた。
「そうですね、民法では売主に瑕疵担保責任があり、買主が瑕疵を知ってから1年間としていますが、これは当事者間で自由に取り決めができるんです。例えば、引き渡してから3ヶ月以内とするとか、範囲内は主要構造部分だけとするとか。また、売主は瑕疵担保責任は一切負わないとか」
「そうすると、取り決めた期間オーバーや範囲外の部分については、買主が負担して補修しないといけませんし、売主の瑕疵担保責任を免責とした場合は、不具合の一切について売主に責任は求められないんです」

じっと話を聞いていた美和子が口を開いた。
「じゃあ、やっぱり新築一戸建てを買った方がいいんですよね?」
「そうですね、新築一戸建てなら、土台や屋根や柱などの基本構造部分については、引渡しから10年間は売主が瑕疵担保責任を負わないといけないことになっています。また基本構造部以外の部分でも、独自の保証をしているメーカーもあります。そういう点では、新築の方がより保護されていると言えるでしょう」
「しかし、当然ですが中古住宅と比べて新築住宅は価格が高いものです。中古住宅でも、リフォームによって、その部分については最新の設備やご自身のこだわりの内装なども施すことができます。そうしたリフォーム費用を加えても、新築よりも割安である場合が多いですよ」
「でも、建物に問題があったら怖いですよね」
「はい、そのために売主に瑕疵担保責任を負ってもらう必要があるんです」
「そうですか、しかし瑕疵担保責任が売主にあると契約をして、実際に問題が発生したときには、売主はきちんと責任を負ってくれるのでしょうか?」
「たしかに、そういう問題は残ると思われます。滅多にあることではありませんが、実際に問題が起こったときに、売主が責任を逃れようとしたり、資力がなくて補修負担をすることができないというケースもあり、裁判になっていることもあるようです」
孝介と美和子は、ソファに仰け反った。

「でも、安心してください。私たちは、そういうリスクを回避するために、中古住宅、特に一戸建ての売主さんや買主さんには、インスペクションという建物検査と保証がセットになった既存住宅瑕疵保険の加入をお勧めしています。専門家に、構造部分に問題がないのか雨水が浸入する部分がきちんと機能を保っているか、などの保険加入ができる基準の建物かどうかの検査をしてもらい、それに合格したら既存住宅瑕疵保険に加入することができるというものです」
「この保険に加入できるということは、一定の基準で問題のない建物だということが言えますし、保証期間内に問題が発生した場合は、保険により保証してもらえるので、安心ですよね」
孝介が身を乗り出した。
「それって、費用はどれくらいかかるんですか?」
「建物の大きさにもよりますし、基本保証以外にオプションで給排水配管などの不具合も含めるか、保険期間を何年にするかによっても異なります。保証会社によっても多少の違いはあるでしょうね。ある保証会社では、120㎡未満の建物で保険期間5年間、保険金額を1000万円とし、給排水管路の特約を付けたとしても、検査料を含めて7万7,160円となるようです」
「へぇ~、思ったよりも安いんですね。これくらいの費用で5年間の安心が買えるなら、保険に加入した方がいいですね」
「はい、中古住宅の購入に対して不安を取り除いてもらうためにも、必要な保険だと思います。それに、この保険に加入することによって耐震基準を満たすことのできる建物という証明ができ、築年数が古くて住宅ローン控除が使えない物件であっても、住宅ローン控除が使えたりと、税金面でも優遇を受けることもできるんですよ」
「じゃあ場合によれば、保険料を支払っても、保険料以上の減税があるかもしれないんですね」
「そうですね、個別に算出してみないとわかりませんが、充分あり得ると思われます」

「あなた、これなら中古の一戸建ても安心して買えそうね。リフォームは、キッチンとお風呂とトイレと・・・」
「おいおい、まだ買う物件も決めていないのに美和子は気が早いなぁ。それに、犬を飼うスペースも作ることもできるかもな。紗綾も喜ぶぞ~」
「あなたこそ、まだ子犬ももらってないのに」
「じゃあ、今度は紗綾も連れてきて、一緒に売り出し中の家の内覧をさせてもらおうか?」
「そうね、あの子の意見も尊重しないと、言い出したら聞かないところがあるから」
「それは、美和子に似たんじゃないか?」と言った孝介の言葉に、美和子はほっぺたを膨らませて孝介を睨んだ。(完)

このドラマはフィクションであり、実在の団体や個人とは何の関係もありませんので、ご承知ください。