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ラビットプレス+12月号 緊急企画!建築物の基礎杭問題を解明せよ!『日本の高層建築物の安全神話が崩れた日』


分譲マンションが傾いた!

横浜市都筑の分譲マンションにおいて、旭化成建材㈱が施工した一部の基礎杭について支持層に達しておらず、また、基礎杭の施工記録データの一部に不適切な転用・加筆があったこと等が判明した。さらに、北海道の公営住宅、横浜市の公共施設においても施工データの流用等を行っていたとの事実が明らかになった。
国は、再発防止対策等について専門的見地から検討することを目的として「基礎杭工事問題に関する対策委員会」を設置し、基礎杭工事の管理体制や施工記録のチェックなどを含め、幅広く検討を行うとしているが、平成27年11月13日に発表するとされた旭化成建材㈱の全件検査結果は、同社の過去10年間に請け負った基礎杭施工工事3040件のうち2376件を調査。十数パーセントの割合(266件)で何らかのデータ改竄もしくはデータ流用が確認された模様だ。

一方、杭施工大手のジャパンパイルも時を同じくして杭施工データの改竄を独自に公表し、問題となっている既成コンクリート杭工法による直近5年間の全件調査を行うとした(11月16日)。同社は、「施工現場における電流計データの重要性に対する認識が十分でなかったためこのような事態を招いた」として謝罪した。
問題はこの2社に限らず、全国の基礎杭施工対象建築物に及ぶと見られ、日本の建築業界に対する信頼を根底から覆すことに繋がることから、国土交通省は危機感を募らせている。

【基礎杭とはどういうものか】
通常、建築物の安定を実現させるために基礎とよばれる構造物を地中に設置し、その上に構造物を乗せることで地盤面に伝わる力を分散支持する。基礎は下部構造物であり、建築物は上部構造物である。
上部構造物の規模が大きい場合、地中深部にまで基礎を構築する必要があり、杭基礎、ケーソン基礎、地中連続壁基礎や鋼管矢板基礎というような深基礎工法が用いられる。今回問題となっているのは、そのうちの杭基礎であり、浅い基礎では構造物を支えることができない地盤の場合に、地中深く杭を打ち込み、構造物を支えるもので、木杭、コンクリート杭、鋼管杭などがある。
そもそも上部構造物が大きくなれば、基礎底部は強固な地盤に達していなければならない。つまり、地表から軟弱地盤が厚く堆積し、この地盤では構造物を支えることが出来ない場合に杭基礎が採用される。その杭には支持機構による分類として以下のタイプが存在する。

1.支持杭
杭先端の地盤支持力によって支持する。
2.摩擦杭
支持地盤に到達させないで、杭周摩擦力で支持する。
3.支持摩擦併用杭
1.2.を併用した杭。
4.引き抜き抵抗杭
地盤アンカーを多数打設するなど、上部構造物が浮き上りを抑える。


摩擦杭図解(資料:旭化成建材)

次に、基礎杭の材料による分類では、既成コンクリート杭、現場打設杭、鋼杭などがある。

既成コンクリート杭
・RC杭(遠心力成形の鉄筋コンクリート杭)
・PC杭(遠心力成形のプレストレストコンクリート杭)
・PHC杭(遠心力成形の高強度プレストレストコンクリート杭)
・PRC杭(遠心力成形の高強度プレストレスト鉄筋コンクリート杭)
・SC杭(遠心力成形の外殻鋼管付コンクリート杭)
現場打設コンクリート杭
・場所打ち鉄筋コンクリート杭
・場所打ち鋼管コンクリート杭
・地中壁杭
鋼杭
・鋼管杭
・H形鋼杭


場所打ち鋼管コンクリート杭の断面図(資料:JFTスチール(株))

更に、工法による分類としては、打撃、埋め込み(既成杭)と機械掘削、人工掘削(現場打設杭)などの施工方法がある。

既成杭
打撃工法
・ディーゼルハンマー
・油圧ハンマー
・埋込み工法
・プレボーリング工法
・中堀り工法
・回転根固め工法
現場打設杭(場所打ち)
機械掘削
・オールケーシング工法
・アースドリル工法
・リバースサーキュレーション工法
・地中壁杭工法
人工掘削
・深礎工法


油圧によってラムを所定の高さに持ち上げ,油圧を解放することによってラムを落下させ
杭頭を打撃して杭を打ち込む方法(資料:日本車両(株)・(株)ワイテック)

【データ流用が指摘された基礎杭とは】
旭化成建材の問題で採用された基礎杭は既成コンクリート杭を用いた支持杭で、地中の支持地盤に杭が到達していなかったと推測され、上部構造物の加重を支えられずに基礎が沈下したものとされている。
一般的に“既製杭”は小規模な現場に、“場所打ち杭”は大規模な現場に向いているので、横浜市都筑のマンション規模なら“場所打ち杭”が適当かと言えるが、それぞれの現場での工法については設計段階で条件を勘案して決めることであり、細い杭を数打つのか、太い杭で少なく済ますかの違いだと言える。そこには騒音規制や残土処理など、状況にも影響するので、一概に杭基礎の工法に問題があったとは言えないのである。
それでは何が問題であったのか。
当初(10月19日)は、施工した杭のうち8本が支持層に届いておらず、それが直接的な原因でマンションが傾き始めたとマンション施工業者の三井住友建設は説明。住民説明会で配られた資料によると、問題の8本の杭の周りの固い地盤(支持層)は、地中の深さ16mほどにあることが判明した。しかし、三井住友建設は、設計の段階で8本の杭の全長をすべて、14mとして設計したとしている。これについては、施工前のボーリング調査において何らかのミスがあり、支持層の深さを14mと想定してしまったとしていた。
しかし、その後の調査で、建物を支える70本の杭のデータが偽装され、一部は必要な深さまで達していなかったもので、敷地内にある4棟のうち、傾きが見つかった建物の南側にある8本が、支持層に届いていないか、届いていても不十分な状態であることが分かった。このマンションでは杭を打ち込むための掘削時に支持層に到達したかを判定するため、掘削ドリルの電流値を記録する方法が採用された。しかし、三井住友建設側が施工記録を点検すると、複数の杭の数値が不自然に似通っていることが判明し、問題の棟の10本を含め3棟で計38本の杭の施工記録が支持層に届いている別の杭のデータを流用して加筆されたものだったという。その理由は、電流計の故障や不具合から正規データの取得が出来なかった部分を補てんするためだった、と言っている。


波長が一致した別々の地盤電流計データ(資料:北海道新聞社)

国土交通省では11月に入り報告データの改竄が施工計器類の不具合などから誘発された可能性があるとして、施工計器類の運用実態を見極め、施工業者のコンプライアンスの徹底と計器類の整備促進を検討するとしている。又、流用が確認された物件や特に横浜市都筑のマンションに関与した現場責任者の関わった物件(19件が報告)、地方公共団体が先行して調査し流用が明らかになった物件などについては、ボーリング調査などにより杭到達の有無に関し調査の実施を求めるとしている。
しかし、この問題に対する全国規模の波及を恐れてなのか、国の矛先が計器類の不具合という技術的なミスであったかのような結論付けが急がれているようにも見え、本質的な業界の体質の問題を闇から闇へ葬ろうとしているように思えてならない。

【見えない工事への信頼】
11月16日、石井啓一国土交通大臣は記者会見で、「工事をしっかりしてさえいれば、データはないがしろにしてもよい、という風潮があるなら是正する必要がある」と述べた。また、対策委員会の深尾精一委員長(首都大学東京名誉教授)は、「かなりなデータ流用があったとしても、安全と言えそうだと思っており、調査を急いでいる」とし、「杭一本のデータが得られなかったとしても先ず安全というなら、全てのデータを求めている仕組みに問題はなかったのか」「(杭施工業者の改竄を)全て調べると、(建築の)本来業務が止まらざるを得ない。バランスが大事」だと述べた。どこかで聞いたようなフレーズではないか?


深尾委員長の記者会見(資料:共同通信)

そもそも地球上の建築物に絶対安全などというものは存在しない。とりわけ大規模な上部構造物を支える杭基礎においては、地中内部の構造と工法により安全の度合いや沈下の有無は大きく左右され、支持層の厚みの大小によっても施工基準に係わりなく沈下する可能性を秘めているものだ。
基礎杭の種類や工法の選択は、現場における設計に委ねられていると前述したとおり、実際の建設場所の地盤に応じて支持杭または摩擦杭のいずれを選択すべきかは、建築計画における様々な要因を勘案して決定される。勿論、いずれの杭基礎を採用したとしても、技術的基準に適合しなければならないことは当然であっても、例えば摩擦杭を採用し法令及び技術的基準に沿った工事を完了したとして、当該建築計画の周囲において別途掘削等が行われ、この地盤が沈下した場合、杭周面の地盤との摩擦力が低下し、支持力を失った建物は沈下することとなる。


摩擦力低下による建物沈下の図解(資料:住宅紛争処理技術関連資料集)

他方、支持杭による工法によっても、同様に周辺地盤の沈下に影響されて建物が沈下するネガティブフリクションを起こす場合がある。ネガティブフリクションとは「負の摩擦力」を意味し、厚く堆積した軟弱地盤に沈下が生じたとき、この沈下により杭に引き下げ力が働き、杭先端の地盤や杭そのものを破壊して建物を沈下させることが確認されている。杭を引き下げる作用は摩擦杭の支持機構と逆の力であることから「負の摩擦力」と呼ばれる。過去の事例から、摩擦杭の支持力を上回る程大きな負の摩擦力が生じるのは、10cmを超える沈下が広範囲に生じた場合であることから、ネガティブフリクションの危険性が懸念されるのは沖積粘土層の厚堆積地域で上部構造物の加重過多等によって地下水位が低下し、軟弱地盤全体が圧密沈下注するようなケースである。
年間に2cm以上の沈下が確認されている地域では、設計時にネガティブフリクションの想定による安全性を検証しなければならず、沈下が生じても上部構造物に影響は出ない理屈であるが、実際には建物の沈下事例が報告されている。
注:圧密沈下
水で飽和した粘土やシルトが水を失って体積を減少させる現象を圧密といい、圧密によって地盤が沈下する現象を圧密沈下という。粘土層やシルト層は、砂や礫層と較べて間隙が多いという特徴が圧密沈下という現象を引き起こす。


軟弱地盤によるネガティブフリクション図解(資料:鹿島建設(株))

地中深く施工される基礎杭に万能はあり得ない。たとえその先端が支持層に深く到達(根入れ)していたとしても、支持層自体の沈下やせん断は地震や地殻変動によっても当然に起こり得るのである。
この星は生きている。だからこそ、人の英知を絞ったと言え、それが大自然には儚い基準であっても、人々がすがる先はそれしか無いのであるから、最高の技術を提供することに邪念の余地はあってはならない。

建築基準法施行令第38条(基礎)
建築物の基礎は、建築物に作用する荷重及び外力を安全に地盤に伝え、かつ、地盤の沈下又は変形に対して構造耐力上安全なものとしなければならない。
2 建築物には、異なる構造方法による基礎を併用してはならない。ただし、建築物の構造、形態及び地盤の状況を考慮した構造計算又は実験によって構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。
3 高さ13メートル又は延べ面積3,000平方メートルをこえる建築物で、当該建築物に作用する荷重が最下階の床面積1平方メートルにつき10トンをこえるものの基礎の底部(基礎杭を使用するにあっては、当該基礎杭の先端)は、良好な地盤に達していなければならない。ただし、建築物の構造、形態及び地盤の状況を考慮した構造計算又は実験によって構造耐力上安全であることが確かめられた場合においては、この限りでない。
4 打撃、圧力又は振動により設けられる基礎杭は、それを設ける際に作用する打撃力その他の外力に対して構造耐力上安全なものでなければならない。
5 建築物の基礎に木杭を使用する場合においては、その木杭は、平屋建の木造の建築物に使用する場合を除き、常水面下にあるようにしなければならない。

<執筆日:2015.11/23>