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いよいよ大阪が変わる!?…都構想住民投票の行方


橋下大阪市長の進退を懸けた結果は?(イメージ:共同通信)

5月17日、運命の時がやって来た。
大阪市を廃止し、五つの特別区に分割再編する「大阪都構想」の賛否を問う住民投票が先月17日に投開票された。
本編は執筆時点において当日を迎えていないので住民投票の結果をお伝えすることができない。しかし、だからこそ結果論で批評する大阪都構想の賛否や大都市の在り方、問題点を無責任に露呈させるものではなく、純粋に橋下大阪市長(ひょっとすると本コラムが読者の目に触れるときには肩書が変わっているのかもしれない)が掲げてきた都構想の本質と、それに反対する人々の真意を総括し、住民投票の結果と照らし合わせてみたいと考え、本編を執筆したものである。


大都市の更なる発展に有効な手法となるのか(資料:大阪都構想法定協議会)

大阪都構想とは、遡ること61年前(昭和28年12月)、当時の大阪府議会が審議した「大阪産業都建設に関する決議」が始まりで、大阪府と市を廃止して大阪都を設置し、旧市内に都市区を設置するとされたことに端を発する。その後、実現の日の目を見ることはなかった。
時は流れ平成12年、大阪府知事に就任した太田房江(本名・齋藤房江)氏が大阪府と大阪市のニ重行政を解消させることを目的に大阪府と市を合併させる「大阪都構想」を主張した。これに対し、当時の大阪市の磯村隆文市長は、それとは逆に市の権限を強める「スーパー政令市構想」を主張し対立した。その後、大阪府は『大阪都市圏に相応しい地方自治制度』を平成16年に発表した。その中で、「大阪新都」構想を主張し、政令指定都市としての大阪市は残し、府を廃止して「大阪新都機構」という広域連合に再編するというものであった。新都機構には評議員会を設置して府下の政令市や各市町村が広域行政の意思決定に参加できるようにし、新都機構は国から権限や財源の移譲を受け、新都全域の都市基盤整備事業などを行うとした。又、市町村は、大阪府から権限を譲り受け、基礎自治体として住民サービスを行うといったものであった。
それらの流れを大阪維新の会が引き継いだものが、現在橋下徹大阪市長の掲げる「大阪都構想」である。つまり、大阪都構想は決して目新しい行政改革というわけではないのである。


近代都市「大阪」を創る!…関一元大阪市長は何を思う?(資料:Amazon)

【都構想反対、慎重派の主張】
今回、大阪維新の会が推進しようとしている都構想について、各界から有識者の異論が多い。その全てが市民を納得させる意見ではないにしても、維新の会が示す都構想プランに関する政策論的な主張に限っての意見を集約すると、概ね次のような論旨が浮かんでくる。

大阪市の廃止・解体・特別区化によって、大都市自治体にとって不可欠な都市計画等の行政権限と財源が大阪新都に吸収される。大阪市民の税金の4分の3が大阪都税に変わり、国から市へ配分されている地方交付税交付金も大阪都が吸収する。それらを最終的に特別区へどれだけ再配分するかは大阪都の条例によって決定される。特別区は、財政削減の圧力を受け続ける存在となる懸念は絶えずつきまとう。そして、「特別区」は憲法上の地方公共団体とは解されておらず、その制度的な根拠は立法政策に委ねられることになっている。
これら制度上の問題は、現在の政令市である大阪市の自治権限や財源に関する現行制度上の「権利」を特別区にそのまま委譲出来るものではないということ。つまり、特別区における自治権限と財源確保は白紙であるから、広域行政を主体とする新都の犠牲になる可能性は極めて大きいのであり、特別区=行政サービスの向上とはならないことは明白である。


資料:日本共産党

都構想実現に、維新の会・橋下大阪市長が最も得意とするフレーズが「ニ重行政の解消」である。
しかし、そもそもニ重行政のもたらすデメリットの抽出には表面的なサンプル(WTCとりんくうゲートタワー、府民図書館と市民図書館、府民プールと市民プールなど)を多用し、本質的な調査と問題解決の対案検討という本来の行政が担うべき仕事を行わない上で、制度改革という手法に舵を切ることは許されないとする。

【都構想賛成、推進派の主張】
表層的ニ重行政の見直しによる財政の健全化には、現行の府と市による調整が殆ど不可能である現実から、制度の改革が残された唯一の手法である。有識者、学者のうち、反対論者の多くが広域行政主導による権限増大と特別区の悲惨な姿を想像したうえで結論に導く論争を繰り返すが、現状の府政と市政において過去に行われてきた対立行政の結果が今の無駄に表れていることを直視していないとする。

都市経営論の見地から、大阪市が基礎自治体としての適性規模を超過しているという現状。基礎的自治体では、ある程度の人口があれば総所得が増えてくる。
一方、基礎的自治体の運営では、一定の費用が行政にかかるので、行政サービスを行う上では、ある程度の人口があったほうが規模の経済(スケールメリット)を発揮でき、コスト減に寄与することとなる。従って、現行市制の中核市制度は、その原理から20万人(以前は30万人)としているのにはこのような研究による結果が反映されている。
つまり、現在の大阪市を特別区5区に分割する場合、50万人前後の人口規模を前提とする区割りは、適正規模からすれば妥当性があるとする。


資料:大阪維新の会

【住民投票とは】
前述した都構想賛否の初歩的且つシンプルな対比にご不満な向きもあろうが、結局のところその他多くの論点については全てが推測にしかすぎず、所謂机上の論理、やってみなければわからない部分を多く含み、やらずして善し悪しを議論しても虚しいと感じる。従って、大阪市民の皆さんには、住民投票に際して何を基準とするかに、出来るだけシンプルな比較の下で投票されるのが望ましいのだが、時すでに遅し。結果は出ているのである。

住民投票とは、日本国憲法第95条に基づき、国会が特定の地方自治体にのみ適用される特別法を制定しようとするときは、その地方自治体の住民による住民投票の結果、過半数の賛成がなければ制定できない(地方自治法261条)としている。又、市町村の合併の特例に関する法律にも規定があるが、大阪都構想に関連して制定された「大都市地域における特別区の設置に関する法律」の住民投票規定が今回の根拠法令である。今回の住民投票は投票者数にかかわらず成立し、賛成の票数が有効投票(賛成票と反対票を合計した総数)の半数を超える場合は、特別区設置協定書に基づき大阪市が廃止され、特別区が設置されることとなる。反対の票数が有効投票の半数以上の場合は、特別区は設置されない(同法第7条、第8条)。

【5.17の結果、それからの大阪】
泣いても笑っても、すでに結果は出ている。しかし、今日現在でその結果を知る由も無いので、住民投票の結果によってこれからの大阪がどうなっていくのか、又どうしていかなければならないのかを検討しておこう。

≪大阪市特別区設置協定書に反対多数となった場合≫
現在の大阪市が維持されるのであるが、何事も無かったかのような状態に戻るということはないであろう。何故なら、大阪市議会において協定書が採択された政治的手法は健在であり、事後の大阪維新がどのような政策提言を行ってくるかが注目される。又、橋下市長は、住民投票に際して協定書が否決された場合に、市長を辞職し、政界からの引退を表明している。しかし、政治家のこの手の発言に関しては、撤回という二文字で無かったことにするのは常套であるから懐疑的に見た方がよい。特に大阪維新の会及び日本維新の党にとって、橋下のイデオロギー無くして存在価値は見出せていない現状で、ここで恰好よく政界からの引退を決められては、他の議員は堪ったものではないからだ。
そうであれば、一応、世論の非難は覚悟の上で、大阪の都構想に匹敵する、それ以上のインパクトを持った次なる行政改革案を用意する必要がある。それは都構想の先に見据えた本来の目的である「道州制」である。そうなると自然、橋下氏の動向は国政に焦点を移すことは明白であるので、大阪市長の辞職については、「男らしさ」のパフォーマンスを見せつける策として有効と踏めば、それも手段として有り得る。


(イメージ画像)

≪大阪市特別区設置協定書に賛成多数となった場合≫
住民投票が賛成多数で可決したときは、大阪市の解体と特別区設置に向けた実務がスタートする。大阪市議会の場では行政手続(区割り、特別区の事務分担、一部事務組合、特別区財産債務、職員管理など)に対する具体策の修正が行われるが、ここから反対派による重箱の隅の粗探し論争が激化し、最後の抵抗の前に相当の時間を要することが予想できる。しかし、方向性が決定している以上、長くても2年から3年程度の調整期間を経て大阪市は特別区へ移行し、市制126年の歴史に幕を下ろす。
しかし、これで全てが終了するわけではない。橋下氏の最終目標は前述のとおり道州制の導入である。広域自治体として強大な権力と財政基盤を得た大阪府(都に名称変更するかどうかは未定)は、広域行政の施策として市営地下鉄や塵芥処理(清掃局)の民営化やリニア鉄道関西空港線敷設、公営賭博場(カジノ)誘致など、これまでにしたためてきた構想を一気に実現へと導き、関西圏経済の中心として東京都に対抗する政策を打ち出していく。

【橋下徹氏はこんな人】
結局、5.17住民投票の結果がいずれに出ても、橋下氏の夢が破れることはないのである。

現在、松井大阪府知事と橋下大阪市長は共に大阪維新の会所属である。本編の主題である都構想の推進の原理は、府と市のニ重行政がもたらす疲弊からの脱却であるが、政治的にそれらを打破するというなら、理想の二大首長が就任しているのであるから、制度改革に固執しなくても互いに調整を行いながら、これまで長年に亘る府と市の確執から実現することが叶わなかった「府と市の包括的広域行政」を現実のものとすることも夢ではないはずである(現に、都構想反対派、慎重派の論理は安易な府と市の協調路線を取り上げている)。しかし、足元の理論には目もくれず、都構想と道州制にひた走るのは何故か?


(イメージ:読売新聞社)

そこには橋本氏が夢見る都市間競争力の向上=「世界の大阪」構想がある。橋本氏は常々、広域行政の重要性に近畿圏規模で触れている。関西空港と和歌山、伊丹空港と兵庫、大阪、京都、奈良の文化圏の統一管理など、大阪という概念からは大きく逸脱している。良くいえばグローバルアイでの関西経済復活ということになるが、政治的には一大阪市長が権限踰越(けんげんゆえつ)の発言となる。
この「世界の大阪」構想実現には橋下氏の思いが詰まっているのであろうが、関西の一弁護士からメディアの人気者となり、司法闘争から立法府の在り方に疑問を呈し、国替えの論理ではなく国造りの視点で行政の舵取りに挑んだ関西ローカルのメディア寵児が、今、壮大な野心に向かって突き進んでいる。

<執筆日:2015.5/16>

本コラムに示された見解は執筆者個人のものであり、公益社団法人全日本不動産協会
または全日本不動産近畿流通センターの見解を表すものではありません。