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女不動産屋 柳本美土里

美土里と美希が喫茶店「カフェ・レトロ」の木製の椅子に腰掛けると、カウンターの奥から芳しいコーヒーの香りが鼻腔をくすぐった。
柳本不動産の女社長である美土里と、美土里が通うネイルサロンのネイリスト兼オーナーの美希は友人としても親しく、美希のネイルサロンが入るビルの1階にある水出しコーヒーが売りの喫茶店で、ときどきお喋りをする。
2人は年齢も近く、どちらも独身で、小さいながらも経営者の立場という共通点があるからか、なんだかとてもウマが合う。

「あ~あ、春なのにな~」
いつも前向きな美希が、溜息を漏らすなんて珍しい。
美希がこういう時は、吐き出してすっきりしたい何かがあるのだ。
美土里は、美希の憂鬱に水を向けた。
「どうしたの?何かあった?」
小首を傾げた美土里の目を覗きこんで、美希は口を開いた。
「べつに、特に何かあったって訳じゃないんだけどね~。春になって暖かくなると、一緒に過ごせる人がいないのが、なんだか寂しくて・・・」
「なにそれ、また~?暖かくなって彼氏が欲しいってこと?それならこの前も、寒い冬はぬくもりが欲しい、なんて言ってたけど?」
「だって、春になったらなったで外に遊びに行きたくなるでしょ?なら女どうしじゃなく、彼氏と一緒に出掛けたいっていうのが女心じゃない?」
美希は口を尖らせて言ったあと、すぐに顔の前で手を左右に振った。
「でも、美土里と一緒が不満ってことじゃないの。いつも女どうしばっかりは、ちょっと寂しいかなって思って・・・」
「ふふっ」
慌てて弁解する美希がおかしく、美土里は思わず笑った。

「そうね、美希の気持ちもわからなくはないわね」
「そうでしょ、わかってくれる?でも、美土里はそんな気持ちになったりしないの?」
そんな美希からの問いかけに、ふと考えた。
そういえば私も、長いあいだ彼氏がいないよね。
彼氏が欲しくないといえば嘘になるけど、仕事で忙しくしていると、なかなか出会いもないしなぁ。
「美土里は綺麗だから、すぐにでも彼氏つくれるのに・・・」
背が高くスラリとした美土里は、モデルでもしていたかのような体型だ。
その上、大きな瞳ではっきりとした二重瞼に、ツンと尖った鼻に上品そうな小さな口は、典型的な美人といってもいい顔立ち。
街を颯爽と歩く姿は、何人もが振り返るほどである。
「ちょっと美希~、いい加減なこと言わないでよ。すぐに彼氏ができるなら、こんなに長いあいだフリーでいるわけないじゃない」
美土里は、わざと膨れっ面をしてみせた。
「否定するところってそこ?綺麗だからってところは否定しないんだ~」
「もう、美希ったら」美土里は睨んだ。
「冗談よ、冗談」
「お互い彼氏を作る努力をしてないんだから、出来るわけないわよね」
美希は、もう一度息を吐いた。

「でもどうしたの美希。今日はやけに、その話題にこだわってるわね」
「うん、まあね。実は、同じネイリストの友達が結婚するっていうのよ」
口の端っこを曲げて、美希は言った。
「ふ~ん、おめでたい話じゃない」
「まあ、それはそうなんだけど、彼女、私と同い年なんだよね。もうこの歳だから、彼氏がいても結婚までは考えてないのかなって思ってたんだけど・・・なんだか、取り残されていくみたいな気がして・・・」
「そんなの、歳なんて関係ないんじゃない?いくつでも、結婚するときにはするだろうし、彼氏がいたのなら、それも不思議じゃないでしょう?」
「そうね・・・でも、彼っていうのが、ひとまわりも年下で。てっきり遊びだとばっかり思ってたもんだから」
「えぇっ、ひとまわりも年下!?芸能界とかならありそうだけど、私たちの周りでは、なかなかない話よね」
やっと賛同を得たとばかりに、美希は声を大にした。
「でしょ!ほんと、ム~カ~つ~く~!」

今の状況にはそれなりに満足しているのだけれど、同じ境遇だと思っていた友人が、結婚という目に見える幸せを手に入れるのかと思うと、嫉妬してしまうのだろうか?
もし美希が、突然結婚するって言ったとしたら、私も同じように嫉妬するのかなぁ?と、美土里は、ふと考えた。
しかし、目の前で溜息をついたり、怒ったりしている美希を見る限りは、しばらくそういうことはなさそうだ。
「美希、人は人、自分は自分よ。結婚が必ずしも幸せかどうかわからないし、最近じゃ、結婚しても離婚してしまうことだって多いじゃない。それって、離婚に至るまでの辛いことがあるってことの裏返しでもあるでしょ。美希の友達は、結婚という道を選択したんだから、それを祝ってあげるべきだよ」
「うん、それはわかってるんだけどね~、なんだかね~」
美希はコーヒーカップを手に取り、底に残るコーヒーをかき混ぜた。

ふと、美希は思い出したように「そういえば彼女、家を探してるって言ってた」と呟いた。
「え?なんでそれを早く言わないの?」
美土里はコーヒーカップを口に持っていこうとした手を止めた。
「ごめん、忘れてた」美希は、小さく舌を出した。
「忘れてたって・・・まったく、もう」
美希はスマートフォンを取り出し、指でいくどか画面をなぞると、電話を掛け始めた。
「朋子?私、美希。こないだ会ったとき、家を探してるって言ってたよね。今、友人の不動産会社の社長と会ってるんだけど、探してもらったら?ちょっとかわるね」
そういって、美希は美土里にスマートフォンを差し出した。
「初めまして、柳本不動産の柳本美土里といいます」
探す不動産の希望条件などを聞き取る美土里の耳に、コロコロとした明るい声が電話の向こうから響いてきた。
「では、また改めてお電話させていただきます」
電話を切ると、美土里は取り出したハンカチでスマートフォンの画面を拭い、美希に返した。
「ごめんね、じゃあ朋子の件、お願いします」
美希はペコリと頭を下げた。
「こちらこそ」美土里も頭を下げた。

3日後、美希の友人の塩谷朋子と、その婚約者である朝倉洋一が柳本不動産へやってきた。
朋子は、プリーツの入ったボーダーのスカートにイエローのブラウス、それにベージュのカーディガンを羽織っている。
清楚なイメージだ。
160センチには満たないと思われる背の高さで童顔なので、年齢よりも若く見えるのだろう。
婚約者の朝倉の方は、ブラックのチノパンツに白のTシャツ、シャツの上には、こちらも少し濃い色のベージュのカーディガンだ。
短くカットした髪型は、30歳過ぎの年齢に相応しい、知的で優しい印象を持てる。
話をしていても、自分を主張しすぎず、お互いの意見を尊重するように顔を見合わせ相談する仕草は、好印象のカップルだ。
美希が嫉妬するのも、ちょっとわかるような気がする。

「できれば、中古マンションを購入したいんです。その中古マンションを自分たちの希望に合わせてリノベーションして住みたいんです」
朝倉は、そう告げた。
ファッション関係の仕事をしているという彼は、個性やデザインという点を重視するタイプなのだろう。
「そうね、自分たちの希望の間取りやイメージなどを叶えるには、それが一番いいスタイルでしょうね」
中古マンションに比べ新築マンションは、最新の設備や機能を備えていることに加え、誰も住んだことがなく、まっさらというところが魅力だ。
その上、建物自体のデザインや、敷地のランドスケープデザインも、どんどん進化して、素敵なイメージが作られている。
そうした新築マンションが良いという人たちが、日本ではまだまだ主流なのかもしれない。
しかし、その一方で、室内の画一的な間取や内装は、個性を重視したい人には面白くないものに映る。
もちろん、新築マンションも建築早期の段階であれば、オプションで設備や内装を変えることもできるようだが、その多様性や価格という点から見ると、まだまだユーザーの満足のいくものではないようだ。
それなら中古マンションを購入して、自分たちの使いやすい間取にリノベーションし、設備や内装も自分たちの好きなように変更していく方が、住みやすく価格的にも納得のいく個性的な部屋作りができると思う人たちも、増えてきているようだ。

2人が希望する条件は、最寄り駅から徒歩15分以内、部屋の広さは70平米以上、リノベーションするつもりなので、間取や築年数はこだわらない。
予算については、いくらくらいにするのがいいのかはわからないが、ローンの年間支払いが150万円くらいまでに抑えたいとのことのようだ。
2人の所得などから計算すると、住宅ローンにかける年間支払いの150万円は問題ないようだ。
「年間支払い150万円となると、ローンの返済だけで月々10万円とボーナス月加算が15万円2回、それに加えて固定資産税、マンションなら月々の管理費や修繕積立金が必要になるんだけど・・・それぞれ、マンションによって違うけど、ざっくりと固定資産税が年間10万円、管理費と修繕積立金の合計が月々2万円ほどとして、支払いは大丈夫?」
「え~、そんなに要るんですか?これまで賃貸にしか住んだことがなくて・・・」
朝倉は、びっくりした。
住宅ローン以外にも、不動産を所有すると、固定資産税や維持管理費用がかかる。
その辺りの費用を計算に入れずに、家の購入を考えている人は多い。

「じゃあ、そうしたランニングコストを含めて、どれくらいなら支払い可能?」
「そうですね~、固定資産税や管理費、修繕積立金も含めて、年間150万円くらいに抑えられれば・・・」
「ということは、ローンに充てられる支払額は、年間115万円ってとこね。2.475%で35年返済で住宅ローンを借りたとしたら、2400万円くらいは借入れできそうね。で、自己資金はどれくらいを考えてるの?」
朋子と朝倉は、視線を合わせた。
「200万円くらいは、なんとかなると思いますが、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫よ。物件価格の100%も、それを超えて購入のための諸費用までも貸してくれるローンもあるから。200万円あるなら、諸費用分はそれで足りそうね」
「物件を探すとしても、リノベーションをするとしたら、その予算を差し引いた価格で物件を探さないといけないわね。70平米のマンションで、浴室・キッチンなどの設備を全部取替えて、床や壁クロスなどを張替えたフル改装するとなると、うちならざっと400万円くらいってとこでしょうね。とすると、購入物件に充てられる予算は2000万円くらいかな」
「じゃあ、ちょっと待って。その線で物件を探してみるから」
そう言うと、美土里は微笑んでソファを立った。

「素敵な人ね」
朋子は、応接ソファから立ち上がり、パソコンのあるカウンターに向かう美土里の後姿を見つめながら呟いた。
「うん、そうだね。朋ちゃんとは違うタイプのね」
ここであまりに同調しすぎると、彼女の嫉妬を買ってしまう。
朝倉は朋子のプライドを傷つけないように気を使いながら、美土里を褒めることに同意した。
「美人で頭も良くてテキパキと仕事をこなす、いかにもやり手の女性って感じで、憧れるわ~」
「朋ちゃんとはタイプが違うんだから、比べることないよ」
朝倉は、朋子の手を優しく握った。
しばらくして、プリンターの印字音が止まると、美土里は2人の元に戻ってきた。
「お待たせしました。そうね、さきほどの条件で物件を探したら、6件ほど売り出されているわ」
美土里はプリントアウトされた販売図面を、2人の前に広げた。
2人はソファから身を乗り出した。
6枚の販売図面を、ひとつずつ見ていく。
結局、あまりにも築年数が古い物件2つをはずし、4件を候補とした。
「これって、部屋の中を見ることはできるんですか?」
「ええ、もちろん見せてもらえるわよ。でも、このうちの2件は、まだ売主さんが住んでるようだから、売主さんの都合も聞かないとね。ちょっと調整してみるから、内覧に都合のいい日時を教えてくれる?」
美土里は2人に内覧希望日を確認した。
日程調整をしてからまた連絡することを約束して、2人は柳本不動産をあとにした。

週末に内覧が決まった。
「お2人は、これまで部屋を見に行ったことってあるのかしら?」
「いいえ、初めてなんです」
「そう、じゃあ少しアドバイスさせてもらうわね。お2人はリノベーションを前提とするんだから、構造的に希望の間取にできるかどうか?とか、設備の取替えについての問題、そうね、例えば壁付けのキッチンを移動させるとしたら上下水道の配管ができるか?そうしたところをしっかりとチェックする必要があるわね」
「それと、内装の汚れ具合は部屋によって様々だから、びっくりするような部屋も中にはあるかもしれないわ。でも、それは内装を変えるんだから、あまり気にしないことね」

3人は1件1件丁寧に見ていった。
「朝倉さん、リノベーションは3LDKタイプの部屋ならリビングを広げて2LDKにしたいって言ってたわよね?」
「ええ、この部屋ならリビングと隣の境のこの壁をとっぱらってしまって、リビングを広げたいな~って思います」
朝倉の言葉を聞くと、美土里はおもむろに撤去したいという壁を叩いた。
「残念だけど、ここは無理ね」
「えっ?」
壁を叩くことで、何かわかるのだろうか?
不思議そうに、朝倉と朋子は美土里の真似をして壁を叩いた。
そこには硬い壁があるだけだ。
「じゃあ、ちょっとこっちに来てみて」
そう言うと、美土里は部屋の別の壁の横に立ち、さきほどと同じように壁を叩きだした。
2人は美土里に促されるまま、そちらの壁も叩いてみた。
さっきより、柔らかい感触だ。
「違いがわかる?あっちの壁は、コンクリートでできているから硬かったの。それに比べ、こっちの壁はたぶん石膏ボードでしょうね、だから柔らかいのよ。ここの壁は撤去できるかもしれないけど・・・」
「もちろん、石膏ボードの壁だからって、コンクリートの壁の上に石膏ボードを貼っているってこともあるから決め付けられないけど、どちらにしても撤去したい向こうの壁はコンクリートってことが明らかだから、この部屋じゃリビングを広げるリノベーションはできないわね」
2人はまだ納得できていないようだ。

「コンクリートの壁って撤去できないんですか?」
朋子が質問した。
「壁式工法っていって、コンクリートの壁で建物を支えている工法のマンションの場合、部屋と部屋の間のコンクリートでできている壁については、耐力壁だから撤去することができないのよ。それに比べて、ラーメン構造っていう工法があるんだけど、これは、一般的な木造一戸建てのように、柱と梁で建物を造っているから、部屋内の間仕切りだけのための壁については取ってしまっても問題ないの」
「このマンションは5階建てでエレベーターがなかったわよね。こうしたマンションの場合、コンクリートの壁で建物を支える壁式工法が多いのよ。入ったときから、そうじゃないかなって思ってたんだけどね。この壁式工法っていうのは柱がないのも特徴なの。だから見て、部屋の隅に柱が出ていないでしょう。乱暴な言い方をすれば、柱が無いのが壁式工法、柱があるのがラーメン構造というのが見分けるポイントかもね」
「ラーメン構造って面白いネーミングですね」
笑いながらも、美土里の説明に2人は納得したようだ。
ラーメンって、もしかして食べるラーメンと勘違いしてる?
ドイツ語で、"剛接合された"っていう意味なんだけど・・・ま、いっか。

美土里は、続けた。
「でも、部屋の隅に柱がないからって、必ずしも壁式工法って訳じゃないのよ」
さっき、柱があるかないかってところで見分けろと言った美土里が、いきなり違うことを言い出したので、朝倉は首を傾げた。
「柱がないっていうのは、部屋の隅に柱形が見えないってことだけで、実際には柱は存在している場合があるの。柱の出っ張りを隠すため、もしくは出っ張りを利用して、収納スペースをつくったり、部屋の隅に柱形を出さないために、柱をバルコニーに配したりしているマンションも、近年に建てられた物件にはあるのよ」
「そうだったんですか?どういった構造で建てられているのかも、しっかりと確認しないとダメですね。それに、間取変更ができるかできないかなんて、考えてもみませんでした。どんな部屋でも間取変更ができるものだと思っていました」
2人は美土里の指摘に感心させられた。

では、次のマンションだ。
「このマンションは、部屋の隅に柱形があるから、ラーメン構造なんですね」
「ええ、そうみたいね。まず室内の壁は抜けるでしょうけど、撤去したい壁については、きちんとチェックしておかないとね」
「きちんとチェックって、どうするんですか?」
「コンクリートの壁なら、壁に設置されたコンセントを外してみたら、その奥にコンクリートが見えるからわかるわよ」
なるほど。
「この部屋なら、リノベーションできますか?」
美土里は、キッチンと洗面所、浴室、トイレの位置関係を確認した。
「朋子さんは、アイランドキッチンにしたいって言ってたわよね?」
「はい、キッチンがリビングの中心にあって、友人や子どもたちと一緒に料理を楽しんだりできるアイランドキッチンが理想なんです」
朋子の瞳が輝いた。

「そう、でも現状のキッチンの位置は壁に接しているわよね。で、その横の壁を隔てて洗面所と浴室があるわ。間取図を確認すると、その向こう側にあるトイレの裏側に配管スペースがあるみたいなの。ということは、キッチンの排水は洗面所と浴室の下の排水管を通って、トイレの裏側の排水管に集められて下の階へ流れていっているみたいね」
美土里が何を言いたいのかが、2人にはさっぱりわからない。
「つまりね、水道配管や排水管が、今のキッチンがある位置までしか来ていないの。だから、キッチンの場所をリビングに移動するとしたら、それだけ排水管や水道管、それに排気ダクトや電気配線も伸ばさないといけなくなるわ。排水管を伸ばすとなると、移動させるキッチンまでの配管が床の上に出てしまうの。そうすると、せっかく広々としたリビングが、配管が邪魔になって全面フラットというわけにはいかなくなるわ」
美土里は屈み、配管が出てくるあたりのスペースを指差し、手をしきりに動かして言った。
「それを解消するためには、リビングの床全体を上げるっていう手もあるけど、そうなるとリビングと繋がる廊下と段差ができるし、リビングの高さが狭くなるので、それに合わせて建具も作り直さないといけないし、なによりも部屋の高さがないと圧迫感が出てしまうし・・・と考えると、ちょっと現実的にはリビングの床を上げるってことは、一般的にはしないわね」
「アイランドキッチンは難しいけど、片方だけ壁側につけるカウンターキッチンなら大丈夫よ」
そっか~、リノベーションもなかなか難しいんだな。

「やっぱり、アイランドキッチンっていうのは無理なんでしょうか?」
朋子は残念そうに、うなだれた。
「そうね、なかなか水周りを自由に動かせるマンションっていうのは少ないでしょうね。木造の一戸建てなら、かなりその辺りの自由度は高いんだけど・・・でもね、リビングの中心にキッチンがあって・・・という朋子さんの希望なら、アイランドキッチンじゃなくても叶えることができると思うわよ」
え?
朋子は、顔を上げた。
「壁側に配管スペースがあるなら、片方を壁に付けたカウンターキッチンになるけど、もっとリビング側に移動させてL字型のキッチンを選べば、リビングと一体になったようなキッチンスペースを実現することができるんじゃない?それには、現状の間取のままだとリビングが狭くなってしまうからお勧めできないけど、リビングと隣り合わせのキッチンからみたら反対側の部屋との間仕切りは取っ払って、リビングを広げるんだから、狭くなるっていう問題もないしね」
「ちょっと、スペース的にどんな感じになるかイメージしてみましょうか?」
美土里は、そう言うとメジャーを鞄から取り出した。
メジャーをキッチンのサイズまで伸ばし、リビングの上に当て、書類やファイルを床に置くことで新たに配置する位置を示した。
そして、リビング横の部屋との引き戸を取り外し、広げたリビングの大きさがわかるようにした。
「うん、これならイメージに近いわ」
朋子の顔に笑顔が戻った。

「美希、朋子さん綺麗ね~」
披露宴会場に入ってきた新婦に、美土里と美希は見とれた。
「結婚っていいわね。自分が主役で、みんなに見てもらって祝福してもらえるんだから。私も結婚したくなってきた」
「なに言ってるのよ、美希。あんたは、披露宴がしたいだけじゃないの?」
「ふふっ、そうかも。披露宴が終わったら、すぐに別居っていうのが理想なんだけど。一緒にいて欲しいときはいてほしいけど、独りでいたいときもあるし、家事が面倒なときもあるもん。考えたら、なんだか窮屈そうだしね~。面倒のない彼氏がいたらそれでいいわよ。ってことで、新郎の友人に声でも掛けて、飲みに行こうか?」
「ほんと、あんたって人は・・・」

新郎と新婦は、美土里の紹介した中古マンションのリノベーションも済ませ、一緒に住んでいる。
新婚旅行から戻ってきたら、美希たち友人を招いて新居披露のパーティを開くとのこと。
あのキッチンを中心として、みんなで祝杯をあげるのだろう。
リノベーションが完成して引渡したときの2人の満足げで嬉しそうな笑顔が、美土里の脳裏に浮かんだ。(完)

※このドラマはフィクションであり、実在の団体や個人とは何の関係もありませんので、ご承知ください。