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日本の管制塔!?首相官邸とはどういう組織なのか?


二人の日本人を救えなかった苦悩の政府は(毎日新聞社)

1月25日。中東、シリアとイラクに跨る地域を実質的に支配してテロ事件を頻発させている通称「イスラム国」に拘束されていると思われていた日本人・湯川遥菜さんが殺害されたことを印象付ける動画がインターネット上に流布された。
2月1日。同じく、同国に拘束されている後藤健二さんとみられる男性の殺害された動画が流れた。
その両日、日本国政府のどの機関よりも早く内閣総理大臣の声明を発信した政府機関が「首相官邸」である。

内閣総理大臣声明
  1. 人命第一で、可能な限りの外交ルート、ありとあらゆる手段を尽くしています。その中で、湯川遥菜さんが殺害されたと見られる写真が、インターネット上に配信されました。
    御家族の御心痛は、察するに余りあり、言葉もありません。
    このようなテロ行為は言語道断の許しがたい暴挙であり、強い憤りを覚えます。断固として非難します。
  2. 改めて、後藤健二さんに危害を加えないよう、そして直ちに解放するよう、強く要求します。後藤さんの解放に向け、政府を挙げて全力で取り組みます。
  3. 日本政府としては、引き続き、テロに屈することなく、国際社会とともに、世界の平和と安定のために、積極的に貢献してまいります。
    (2015.1.25内閣総理大臣声明原文)

首相官邸とは、ニュース報道や、内閣官房長官記者会見で頻繁に登場する国家機関名だが、正式な名称ではない。又、「官邸」という名詞から連想されるものは建物そのものであり、「首相」の冠が表す「内閣総理大臣の居所」というイメージが強い。本来はそういう意味なのであるが、れっきとした政府組織として位置づけられた国家組織の司令塔なのである。

今月のコラムは、知っているようであまり知られていない「首相官邸」の全容を解説し、我が国の頭脳が如何にして中枢神経へパルスを発し、指示命令系統を制御しているかを見る。


国の意思とはどこが発信源なのか(毎日新聞社)

【首相官邸とは】
東京都千代田区永田町にある、内閣総理大臣(首相)および内閣官房長官が執務を行うための建物。閣議をはじめ、安全保障会議・国家戦略室・行政刷新会議など国政上重要な会議が多く開催される場所を指す(大辞泉より一部抜粋)。正式な名称は定かではない。最もオフィシャルな呼称としては「総理大臣官邸」であろう。これは国会における政府答弁書や外務省告示の書面にその表記が用いられている。又、我が国の法令(憲法以下府省令以上)に登場する官邸の表記は全てこれが使用されている。一方、通称例としては、首相官邸以外に単に「官邸」とも呼ばれる。これは、現在の日本において「官邸」という名がつく施設は「総理大臣官邸」だけであって、他の施設、建築物と混同されることが無いからである。

首相官邸は東京都千代田区永田町二丁目3番1号が住居表示(昭和37年「住居表示に関する法律」で現存建物各戸に付された住所の呼称)である。その隣に位置するのが総理大臣公邸(首相の住まいであり、「国家公務員宿舎法(昭和24年5月30日法律第117号)第10条」により公邸として位置づけられ、無料で貸与される)であり、迎賓機能を持つ公邸と、首相の職務執行拠点である官邸とは目的が分けられている。

現在の首相官邸建物は、旧官邸の老朽化に伴い1995年5月に着工し、2002年4月22日竣工の地上5階、地下1階の鉄骨鉄筋コンクリート造、延べ床面積約25,000平米(実際は地階が複層になっているとされるが、公には公表していない)。最上階(5階)には内閣総理大臣、副総理(随時任命)、内閣官房長官、内閣官房副長官の執務室、4階には閣議室、内閣執務室が置かれ、この2層に執務機能が集中している。3階は事務室と玄関ホール、2階にはレセプションルーム(大小のホール)と貴賓室が設けられている。1階は記者会見室や記者クラブなど広報関係の施設があり、地階は官邸危機管理センターとなっている。屋上にはヘリポートが設置されている。因みに、旧官邸建物は、敷地内を曳家工法により移動し、全面改修を施された上で現総理大臣公邸として利用されている。


首相官邸の内部構造(資料:内閣府)

【首相官邸の機能】
官邸は首相のオフィスである。例えば、内閣の一員であり行政職としての国務大臣は、それぞれの所管省庁の庁舎内にオフィス、つまり〇〇大臣室という執務スペースを有している。内閣総理大臣にしても行政職として他の大臣と身分は同じであることから執務室が必要であるが、行政トップであるので所管省庁の割り当てはなく、統括的な立場で各行政省庁の管理監督を行う為にあてがわれたオフィスが総理大臣官邸(首相官邸)なのである。
ここには、総理大臣の執務室の他、総理の手足ともいえる役人、すなわち官房長官、官房副長官※1、副総理について首相と同じく執務室が用意されている。その他の大臣や政務官などの部屋は無い。在るのは、前述した会議室だけである。内閣を形成する閣僚会議は官邸で行われる。ニュースなどで会議冒頭のみを放映している、閣僚(各大臣)がズラッと椅子に座って首相の到着を待ち、首相が登場すると一斉に起立するあの場面は、この官邸内の4階会議室(閣議室)で行われる。
※1
内閣官房副長官;内閣官房に置かれる官職の一つで、政務担当2名、事務担当1名の計3名が配置され、総理大臣、官房長官を直接的に補佐する。政務担当は国会議員から、事務担当は省庁を退任した元次官から選任されることが通例である。因みに、内閣官房とは、閣議の開催や運営にかかわる事務、閣議が扱う重要問題について関係省庁の総合調整を行う内閣直属の機関である。内閣官房のトップは官房長官、前述した官房副長官の他、内閣危機管理監、内閣総理大臣補佐官 (5名以内)、内閣総務官、内閣広報官、内閣情報官が置かれる。

首相官邸は、内閣官房の下で管理されている。前述の※1にあるように、内閣官房は閣僚会議を統制し、関係省庁との調整を行う言わば内閣の管制塔であり、閣議の企画立案、内閣広報、内閣情報調査、国家安全保障、内閣人事を統括している。又、内閣に組織される各分野の政策推進本部や会議※2の統括責任者を総理大臣もしくは国務大臣が務めるため、それらの会議もほぼ首相官邸で行われる。つまり、単なる総理大臣執務室の箱物ではなく、国家にとっての重要な事案を処理する機関でもあるのだ。
※2
内閣に置かれている各本部及び会議(2014.7現在・非常設会議は除く)
国家安全保障会議、高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部、都市再生本部、構造改革特別区域推進本部、知的財産戦略本部、地球温暖化対策推進本部、地域再生本部、郵政民営化推進本部、中心市街地活性化本部、道州制特別区域推進本部、総合海洋政策本部、宇宙開発戦略本部、総合特別区域推進本部、原子力防災会議、国土強靭化推進本部、社会保障制度改革推進本部、健康・医療戦略推進本部、社会保障制度改革推進会議、水循環政策本部。
その他、内閣には内閣法制局及び人事院が置かれている。


【国家危機管理の中枢部も首相官邸に在る】
政府の危機管理活動の中枢となる施設は、首相官邸の地下1階に在り、平時から24時間体制で情報を収集している。緊急事態発生時には、内閣危機管理監※3・内閣官房副長官補(安全保障・危機管理担当)の指揮下において、官邸連絡室・官邸対策室が設置される。例えば、災害発生時において、それが極めて激甚な場合は、内閣総理大臣によって緊急災害対策本部が設置されるのもここ、首相官邸である。
※3
内閣危機管理監;大災害やテロなどが発生した際、首相官邸に情報を集約し、関係省庁を指揮するために、1998年4月の内閣法改正で内閣官房に新設された役職。官房長官、同副長官を助け、国の防衛に関するものを除く危機管理を統括する。


首相官邸は、サンダーバード秘密基地を連想させる?(資料総理大臣官邸模型:(株)イマイ)

以前は、内閣官房に内閣安全保障室(現、内閣安全保障・危機管理室)が存在し、内閣総理大臣官房(総理府の大臣官房)に安全保障室(現、総理府安全保障・危機管理室)が設置され、警察庁・防衛庁(現、防衛省)とは別に政府の中枢組織として国防を含めた危機管理の対応に当たっていたが、地下鉄サリン事件のような凶悪なテロ事件の発生を受け、内政的な危機管理の対応強化を求める世論が高まったことから、国防を除く危機管理対策に特化して、内閣安全保障・危機管理室(総理府の安全保障・危機管理室は対象外)の指揮監督をする官職として新設されたのが「内閣危機管理監」である。現在は、前警視総監の西村泰彦氏がその職を務めている。

【世界に向けた広報の電波塔】
首相官邸の担うもう一つの役割は広報である。
内閣広報では、内閣が進める重要政策について、各府省庁と連携しつつ、首相官邸ホームページ、Twitter、FaceBook、LINE等、様々な媒体を活用した広報を行い、首相官邸における報道対応(内閣総理大臣や内閣官房長官による記者会見の実施)を通じて、自然災害や緊急事態などの発生時には、全世界にいち早く我が国政府の取り組み状況や、首相の公的見解などを発信している。

早速、本年2月10日の官房長官記者会見が行われ、首相官邸からODA(政府開発協力援助)大綱改訂をはじめとする一般案件18件の閣議決定内容と、政令・人事案件について発表された。
菅内閣官房長官談
「閣議の案件について申し上げます。一般案件等18件と政令、人事が決定をされました。大臣発言として、外務大臣から「開発協力大網について」及び「経済上の連携に関する日本国とモンゴル国との間の協定の署名等について」、御発言がありました。
閣僚懇談会において、農林水産大臣から「平成26年農林水産物・食品の輸出実績報告について」、御発言がありました。」云々。

メディアを通じて毎日のように放映されるこのシーンは、正に首相官邸の顔とも言える広報活動として定着している。


今やおなじみのこのカット(日経新聞)

【ある日の首相】
平成27年2月10日
安倍総理は、総理大臣官邸で第16回日本経済再生本部を開催。
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安倍総理は、総理大臣官邸でペーター・マウラー赤十字国際委員会(ICRC)総裁による表敬を受ける。
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安倍総理は、総理大臣官邸で開催された第65回"社会を明るくする運動"中央推進委員会会議に出席。
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安倍総理は、総理大臣官邸で開催されたサイバーセキュリティ戦略本部第1回会合に出席。
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安倍総理は、総理大臣官邸でモンゴル国のチメド・サイハンビレグ首相と会談し、その後、署名式及び共同記者発表を行う。

このように、首相は自宅(首相公邸)のすぐ隣に在る官邸において多くの会議や委員会を開催し、本会議や外遊、地方での執務が無い時は殆どここで仕事をしているのが分かる。それ故、首相官邸には内閣総理大臣をトップとする数々の会議本部や委員会が置かれ、危機管理部門まで備える要塞として機能を呈している。
定期的ではないが、首相官邸内部の一部を児童、学生らに見学させる催しが行われることがある。昨年(平成26年)は、8月に述べ9日間の見学会を小中学生、特別支援学校の生徒向けに実施。今年度の実施は今のところ未定であるが、成人向けの見学会は一般的には行われていない。どうしても見学を、と仰られる向きには、それなりのコネクションが必要かと。