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新しいモノ大好き日本人には無駄な抵抗か?(新機種販売に行列:イメージ)

中古(既存)住宅の流通促進が声高に叫ばれている。戦後の復興期より、国民生活の基盤である住宅の確保に対して、国は一貫して住宅建設に注力し、莫大な国家予算をつぎ込んできた。結果、高度成長期と相まって、国民の生活水準の飛躍的な向上が達成され、住宅の取得(持ち家)に拍車が掛り、世界にも類を見ない産業住宅(ハウスメーカー)を主体とした住宅供給システムが出来上がる一方で、住宅基本法に基づき5年ごとに住宅建設目標値を設定する「住宅建設五箇年計画」(第1次 1966年 - 第8次 2005年)が住宅生活の指針で、公営・公庫・公団住宅の建設戸数目標などが位置づけられていた。それが世に言う「スクラップ&ビルド」社会を助長し、経済循環の計画的陳腐化戦略において住宅も例外ではなく、平均寿命25年と言われる超短命住宅社会構造が我が国の象徴となっていた。
平成18年、ようやく国は住宅分野における産業構造の変革に乗り出し、住宅建設計画法を廃止して住生活基本法の制定を行い、住宅の長寿化と中古市場の活性化を促進することになった。


今は昔。団地建設ラッシュは高度成長のシンボルだった(花見川団地:UR都市機構)

それから8年が過ぎ、現在の住宅市場はどのような変化を経験し、どのように変わってきたのか。又、当の住宅の構造自体、どのように進化しているのか。市場における新築住宅の供給は、ピーク時に比して数十万戸単位で減少している事実はあるが、実態はどうなのか。中古住宅市場(優良な住宅ストック)は活況を呈しているのか、など。現政権下でも重点項目に掲げられている中古住宅流通の現状と問題を追ってみた。

【量から質へ…日本の住宅を考える】
住宅建設計画法は、昭和41年に住宅政策の基本的枠組みを定める目的で制定された。当然、戦後の住宅難を克服し昭和25年の住宅金融公庫、26年の公営住宅制度、昭和30年の日本住宅公団創設を補完するものとして、住宅建設五箇年計画を軸とした「量の供給」に重点を置いた施策でスタートしている。その後、第3期五箇年計画(昭和51年~55年度)の時点ですでに量の確保から質の向上へと方針を変更し、昭和60年を目処に全世帯の過半数が最低居住水準(一世帯一住宅、一人一室)を上回ることとし、第4期(昭和56年~60年)においては平均居住水準確保へと上方修正した目標値を掲げ、面積要件と併せて環境(設備等含む)要件も加味された。 しかしながら、既成事実化された住宅金融公庫、日本住宅公団、地方公社による住宅建設方針は計画着工戸数の達成から抜け出せず、平成8年の公営住宅供給方式の自由化に至るまで、必要な政策目標の達成というスタイルは変わらなかった。


都市居住型誘導水準に定められた面積要件(国土交通省建設白書)

バブル経済崩壊の影響が長期に及ぶ中、政府の方針は第8期五箇年計画(平成13年~18年)においてようやく抜本的な政策転換とこれまでの枠組みの解消を盛り込んだ整理を行い、本法による五箇年計画の終了と問題状況の把握から新しい住宅政策の方向性を建議し、公庫、公団、公社制度の「官から民へ」、「国から地方へ」という観点で見直しを行った。その結果制定されたのが住生活基本法である。


国土交通省建設白書より

一方、市場では国の戦後住宅政策が浸透し、経済成長期の意識は戦前までの日本人の生活規範をも変え、物質的な豊かさを求める中流意識が蔓延する中で、市場原理に従った新築志向の販売合戦が続いてきた。民間企業において、政府方針の踏襲は勿論であるが、建てれば売れる、の成長期に供給してきた住宅の質はといえば総じて優良であるとは言えず、欧米諸国から"うさぎ小屋"と揶揄される環境が長く続く結果となった。

【今後の官民の住宅政策、市場戦略推進方針】
失われた20年と呼ばれたデフレ期を経験し、公的住宅政策も民間企業戦略においても住宅の「量と質」に関して大きな転換を余儀なくされた。
平成18年の住生活基本法制定に際し、国土交通委員会は「少子高齢化時代に対応し得る住宅政策の確立のため、総合的な住宅政策体系の構築と共に、個々の施策の効果的且つ効率的な実施を通じて豊かな住生活が実現されるよう、関係機関は最大限の努力を行うこと」を付帯し、戦後80年に及んだ我が国の住宅政策の転換を発表し、持続可能な社会を実現するため社会資本としての中古住宅ストックの活用について言及した。
「住生活基本法」では、それに基づく「住生活基本計画」を策定し、具体的な「成果指標」を設定し、住宅の安全性という問題なども解決すべき「成果指標」となっている。 具体的には、先ず新築住宅において、安全で良質であることを第三者機関が認定する「住宅性能表示制度」の実施率を向上させることも目標のひとつに掲げ、平成17年度は16%弱だった実施率を、平成22年度には50%にまで高めることを目標にした(実績は23.6%)。これら適切な情報公開により、住宅の信頼性向上を推進するとした。
又、中古市場においては平成27年度までに、新耐震基準適合率を90%に、共同住宅の共用部のユニバーサルデザイン化率は25%に、そして地球環境も視野に入れた省エネルギー対策として二重サッシ等の使用率を40%に高めることなどを目標とし"欠陥住宅"の減少と中古住宅を含めた住宅の質の向上のための対策を積極的に進めていくこととしている。


国土交通省住宅局住宅生産課より

民間企業では、大手ハウスメーカーを中心として住宅性能に関する研究開発が昭和50年代から急速に進み、建築基準法等の改正整備も伴い、住宅の高耐久化が模索された。不燃材料の研究や住宅長期保証制度(メーカー保証)はじめ、新耐震基準適合住宅構造、環境配慮(無公害建材等の普及)、木質系3階建住宅の開発、平成に入ると省エネ基準が示され、エコ住宅の開発がなされた。又、阪神淡路大震災、新潟中越地震、東日本大震災と相次ぐ大規模自然災害の教訓から、法的基準を超越する免震構造や、現在に至っては福島原発事故後の自然エネルギー需要に応える太陽光発電、畜電システムも取り入れた住宅の研究も進み、住生活基本法の理念を災害教訓が実現するという皮肉な結果となっている。


住宅の耐熱実験(ミサワホーム総合研究所)

【中古住宅流通促進の鍵】
新築住宅に関しては工業化住宅の強みから先進的研究が進んでいるが、政府が掲げる住宅ストックの活用に関する問題が大きくクローズアップされている。とりわけ旧耐震基準時代に建築され、現在も一定数残っている中古住宅の耐震化工事は、国、地方自治体において平成32年度中に95%達成の目標を掲げ、耐震診断と改修工事推進を重点施策としている。

木質系住宅が圧倒的に多い我が国では、中古住宅に対する不安や偏見が根強く、新築志向に拍車を掛ける。又、高度成長期の大量供給に伴う品質低下も現実的であり、特に高額な注文住宅以外のストックに対して、維持修繕を優先するよりも建替えが経済的、環境的の両面からも有益であるという見解にも理由がある。従って、一定量の中古住宅については依然取壊して新築という循環は存在していくし、デベロッパーの業態もそうそう一朝一夕には変わらない。であるから、国は中古住宅ストックの活用という前に、「優良な」という形容詞をわざわざ用いている。
では、優良の基準は何かというと、以下のように国土交通省が纏めている。

  1. その住宅に関する情報が整備されている(家歴)
  2. 耐震・省エネに対する改修が行われている
  3. リフォーム等により魅力的な住宅に再生されている
  4. 瑕疵保証保険等の対策が施されている
  5. 長期優良住宅としての認定・評価がなされている(担保評価)
  6. 維持管理に適切なメンテナンス体制が採られている

これらの条件を整備し、実現してこそ中古住宅ストックの流動化が図れ、長期利用が可能な社会資本としての中古住宅市場が活性化していくのである。


こんな中古住宅、いっぱいあるよね…(墨田区広報課)

【リノベーションという付加価値が流通の起爆剤に】
すでにリノベーションという造語は広く浸透してきている。リフォームと区別する不動産情報ポータルサイト等によれば、従来の間取りの大幅な変更と水廻り設備の新設を含み、既存住宅に新たな価値を生み出す機能の包括的な改修工事と要約する。それには構造的な耐震化や劣化した主要な部位の修繕も当然であり、且つ新築住宅の建設費よりも安価でなければならない。
バブル経済華やかなりし頃の「金に糸目を付けない」豪華なリフォームは除外し、高度成長が終息し、オイルショックを経験した後の低成長期に入った頃から住宅に対する様々な模索が始まっている。我が国では、時代の変遷と共に住宅に対する転換期を何度も経験してきた。明治維新後の都市部への人口集中、流入と所謂サラリーマン層の出現による核家族対応住宅の模索、大正時代に入り、欧米文化と日本文化の融合を軸に、「文化住宅(アパートのことではない)」の出現に多くの建築家と呼ばれる設計士達が登場する。そして太平洋戦争終結以降、アメリカの色彩を強く受ける時代が到来し、住宅難と復興とに立ち向かうために、狭小住宅や規格住宅が研究提唱された戦後期から高度成長期を経て、住まいの本質を問う専門家たちが動き出したのである。


個人を主体とした家づくりを建築家は提唱する(イメージ)

「住まい」とは何か。これを定義するほど意味の無いことはあるまい。具体的に利用目的が定まっている商業建物とは違い、抽象的概念の多様性に応える必要があるのが住まいであり、住宅であるからだ。厄介なのは、人間社会の様式によって住まい手が入れ替わることが往々にしてあり、ハード部分に都度変更を加えるには経済的損失が大きく、結果としてシンプルで可変性のあるスタイル(間取りとか構造、意匠も時には含む)へ向かうしかないというエコノミックアニマルハウス主流の社会構造である。
リノベーションの手法はまずニ方向に分岐する。それは、供給側と使用側における主体性である。つまり、供給する側(売主、不動産事業者など)が行って市場へ出すのか、使用者(買主や借主など)が自由にそれを行うのか、であるが、建築家等の専門家は概ね後者のリノベーションに意味を持たせている。それは、住まいの多様性は住まい手の個性によって方向が定まるからである。個人の生き方を他人が左右することは出来ず、どう住まうかは住み手の意識にのみ実現できるというシンプルな発想こそ、住まいの本質と考えるからである。


Before⇒After(イメージ)

しかし、現場はそう片づけられない。日本人のDIY(do it yourself)志向は欧米に比して極端に低い。これは可変性に乏しい伝統的工法(在来工法)の技術的な問題や、気候風土、戦後の社会構造、教育制度などと相まって、市場が発展せず、結果として完成品、既製品による住宅の工業化が浸透し切ってしまったことによる。従って、リノベーションという手法もその主体は供給側に委ねられることが定番になっており、ある意味我が国では正当な流れとも言える。一言で括れば、「理想と現実」なのであろう。しかし、理想も現実も、共にリノベーションと言う手法を用いることによって廃棄物として処理される運命にある中古住宅に価値を創造し、優良なストックとして再活用する意識が芽生えてきたことは社会資本の持続的活用に結びつくものであり、中古住宅の流通という課題における重要な鍵を握ると言える。
現時点(平成26年3月発表)での市場調査において、購入者自らがリノベーションを行う前提で中古戸建住宅を検討すると回答したサンプルは約21%であり、且つ実行に移したサンプルは約3%となっている(ホームズ総研)。一方で、供給サイドの施工によるリノベーション済みの戸建て検討するとした回答は住宅購入者全体の17%、同最終取得まで至ったサンプルは1.2%に留まる。施工のし易さと構造の透明性から中古マンションと比して当然数字は伸びないが、それでもこの結果はリノベーション市場の未成熟度を顕著に示している。


この柱は残そう!(イメージ:水工房・スケルトンリフォーム)

今後において、中古住宅流通の鍵と目されるリノベーションの価値を高めていくことは出来るのか。単なる政府目標に踊らされた一過性のブームに終わらせるのか。「日本人の住まい」という本質に正面から向き合う必要がありそうである。