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世界に先駆けて神岡に次世代重力波観測用望遠鏡を設置(東大宇宙線研究所)

ここ数年、世界的規模で気象状況に変化が現れている。集中豪雨という言葉は随分久しく、今やゲリラ豪雨という代名詞に置き換えられ、真夏日とは、聞く者に涼しい感すら与えるほど、猛暑日という言葉がニュース、天気予報で繰り返される毎日。マンスリー・トピックスでは、今話題となっている政治、経済、世界情勢を題材に取材と文献などから購読者の皆様に分かりやすく且つ簡潔に情報を届けることを目的として、旬なテーマを選んで毎月執筆させて頂いているが、今回は少しマニアックな、が、しかし、結構ファンの多いサイエンスの分野から、「重力波」をテーマにお届けする。
この蒸し暑い季節に、脳みそから汗が噴き出すかもしれぬ、物理学と量子力学をオカズに、果てしない光の海に心を開き、弛まなく続く宇宙の営みを目の当たりにすれば、知らず知らずのうちに俗世から幽体離脱する我が身を眺めることが出来るやもしれぬ。それは今、地球上で起こっている様々な人間社会の歪がもたらす現象を、神の視点まで高めるがごとき錯覚をもたらす、かも。

それでは、熱帯夜に激辛チゲ鍋を制覇した後の征服感に似た感覚を味わって頂こう。(^汗^)


七夕に欠かせない夏の大三角形。その向こうには何があるのか(イメージ)

【天体観測に重力波?】
天体を科学的に観測するには、可視光線、エックス線や赤外線などの電磁波(光)を利用する。天体から放出されるエネルギーは光の形で出ることが分かっているため、天体観測の主流はその光を捉えて分析している。しかし、中性子星やブラックホールなど、非常に質量が大きく高密度な天体では光さえも放出できない。このような天体やその周辺では我々の環境下では想像もつかない現象が起こっているはずである。そこで重力波を観測することが出来れば、そのような現象を詳細に観測することが可能となる。それによって、宇宙誕生の、より初期の情報の取得、宇宙重力波背景放射の検出(原始重力波の観測から宇宙膨張説、宇宙インフレーション理論の検証)や、非常に重い重力場での物理現象の観察、そしてアインシュタイン理論の検証が期待できる。


連星中性子星(パルサー)の運動から発する重力波イメージ

重力波は、アインシュタインの相対性理論で予測され、存在が確認されている(1916年、一般相対性理論を発表した2年後に発表した「アインシュタインからの最後の宿題」と呼ばれる。重力波が存在することは1979年に連星中性子星の公転周期の変化の証明から間接的には示されている=ハルス&テーラー博士による公転周期の短縮変化が重力波を原因とする仮定によって得られる理論的予想と、誤差1%程度で一致する観測結果から重力波の間接的な存在検証がなされた。1993年ノーベル賞受賞)が、直接観測には至っていない。相対論では、質量を持つ物体があれば、その周辺では時空が歪むとし、さらにその物体が運動をすれば、歪みが波となって光速で伝わっていくと仮定した。これが重力波の正体である。質量を持つ物体であれば重力波は当然発生するが、地球上の物体では質量が小さすぎて、現在の技術力では重力波の観測は不可能である。しかし、天体からなら、巨大なブラックホールや中性子星の動きで生じる波動を捉えることが可能なはずである(とはいえ、その場合でも時空の歪みは地球と太陽の距離で水素原子1個分の歪みが観測される程度=3kmの1兆分1の10万分の1mmと推測)。そこで、我が国では東京大学宇宙線研究所が重力波の直接観測を世界に先駆けて達成しようと、次世代重力波望遠鏡の建設計画を進めている。
その名は「KAGRA」。同研究所は岐阜県飛騨市の神岡鉱山坑道を使用し、2017年の本格運用を目標に、今年6月、望遠鏡設置のためのトンネル工事を完成させた。来年にも重力波望遠鏡が設置され試験運用を開始する予定だ。

しかしながら、重力波を観測出来たとしても、それはどの方向から来たのか、どの天体からの波動なのかを断定するには一台の望遠鏡だけでは判断できないので、角度の確定には最低でも三台の望遠鏡が必要となる。現在、KAGRAの他に、アメリカ、ヨーロッパ(ドイツ・イギリス・フランス・イタリア)でそれぞれ重力波望遠鏡の建設計画が進行中であり、この複数台を使って国際協力の下、重力波の観測精度を高めて行くことになる。


【重力波観測の歴史】
重力波の観測は、アインシュタイン博士自身、直接観測は難しいと考えていたようであるが、1960年代にメリーランド大学・ウェーバー博士によって重力波検出装置、「共振型重力波アンテナ」が考案された。この装置は、重力波によって、金属で出来た大きな共振体が励起(れいき)(量子力学上の理論で、原子・分子・原子核は、通常はエネルギーの最も低い基底状態にあるが、外部から粒子の衝突や放射線の吸収などによりエネルギーを受けとり、より高エネルギーの状態に移行すること)し、共振振動が観測されることで重力波を検出しようとするものである。ウェーバー博士は2台の検出器を使い、地球上で起こる原因で両方の検出器が反応し、同様の信号が出てしまう可能性を低減するために、2台の検出器を離して実験した。そうして検出した信号を解析し、偶然の確率を遥かに超える確率で同時に信号が検出されたという結果を示し、宇宙からの重力波を検出したと発表したが、現在までそれが重力波信号であった事実は検証出来ていない。しかし、この後、世界の研究者がこぞって重力波の直接検出を目指すようになり、アメリカでは「ALLEGRO」、ヨーロッパでは「EXPLORER」「AURIGA」「NAUTILUS」など、様々な共振型重力波検出装置が開発されるに至った。

レーザー干渉計型重力波検出器(※1)は、共振型検出器の欠点である、使用する共振体の持つ共振帯域周波数に対応した重力波しか検出できない部分を克服し、広帯域に重力波を検出できるようマイケルソン干渉計を改良して作られた。
※1 干渉計とは、光の性質を利用し、干渉縞を観測することで様々な物理量を計測することが出来る装置で、対象測定物に応じて様々な手法がとられている。一般によく知られているのは、レーザーの波長や微少距離を計測するマイケルソン干渉計、流体の計測に用いられるマッハ・ツェンダー干渉計、光学素子の波面歪み計測を行うフィゾー干渉計などがある。


干渉計のしくみ(東大宇宙線研究所)

現在の重力波望遠鏡は、レーザー干渉計型で1000万光年の距離にあるおとめ座銀河団まで観測可能である。しかし、これでは重力波を観測できる可能性は1000年に1回程度のチャンスしかない。そこで、世界各国は次世代望遠鏡の開発に取り組んでおり、約7億光年先のヘラクレス座銀河団まで観測可能距離を伸ばそうとしている。そうなると重力波観測の確立が1年に数回程度に上がることが期待されている。

【重力波望遠鏡の仕組み】
重力波は、全ての物体を貫通してしまうため、その反応を見るには何かに衝突させる方法は採用出来ない。しかし、光は重力波によって歪んだ空間に沿って走る性質があることは分かっているから、併せて光が直行方向で伸縮するという性質も利用して到達速度の差を観測すれば、重力波の存在を裏付けることが出来る。つまり、長さを測るには、同じ光を直行するニ方向に向けて発射し、遠くに置いた鏡で反射させ、また戻ってきた光の到達時間を両方で比較する。出来るだけ長い距離を走った光のほうが、短い距離を走った方の光より戻ってくるのに時間が長く掛るため、伸縮の有無が分かる。ただ、地球上では地球が丸いという絶対条件があるので、光が走る筒(腕)の長さは4km程度が限界である。一回折り返しで8kmであるから無駄が多くなる。そこで片腕に鏡を二枚用意し、その間を何度も反射して折り返すことで、実質的に光が70km程度走るよう設計している。


この中を光が走る(東大宇宙線研究所)

【KAGRAの特徴】
KAGRA計画では、上述した測定値の感度向上のため、他国の装置にはないチャレンジを行っている。
一つは、神岡鉱山坑道内という、極めて地面振動が少なく、温度と湿度の安定した環境に設置するということだ。地面は実際、海面の波や風、地球自身に起因する固有の振動で常に動いている。それが地下深くに潜ることにより低減され、神岡鉱山内の振動は地上の1/100程度まで小さくなっている。このことは重力波検出器を長時間運転し、観測する上で大きな利点となっているのだ。試験用に坑道内に設置された、光が走る距離を大型干渉計並みに似せたプロトタイプ検出器(LISM重力波実験用プロトタイプ)では、片腕の規模は20mと小さく、極めて簡素な制御のみであるが、当時の複雑な制御系を組み込んだ、どの大型検出器も達成出来なかった1週間以上の連続運転を達成している。
もう一つは、検出器にサファイアという光学素子を使用し、且つ検出器をマイナス253℃(物理の法則上、これ以上冷やせない温度=絶対0度はマイナス273.15℃)まで冷却することで、検出器の感度を制限していた熱雑音をさらに低減することを目指している。そのプロトタイプとして、すでに同じ神岡鉱山内にCLIO(Cryogenic Laser Interferometer Observatory)レーザー干渉計型検出器を建設し、低温鏡を利用した検出器の実証実験を行っている。


【世紀の大発見!?原始重力波の痕跡を捉えた】
138億年前、宇宙が誕生直後に発生したと考えられる重力波(原始重力波)の痕跡が、アメリカ・カリフォルニア工科大学の研究チームらによって今年3月17日に発表された。チームは、宇宙が生まれた38万年後に放たれた光の名残とされる「重力波背景放射」と呼ばれる電磁波を南極に設置した重力波観測望遠鏡(BISEP2)によって捉え、詳細な観測と分析を行った結果、宇宙初期の急膨張によって出た重力波が背景放射の光に影響を与え、光に特定のパターンを生じさせていることを突き止め、重力波の存在を確認したとしている。又、チームは重力波の強さも測定し、重力波を発生させた急膨張のエネルギーを計算することが可能となり、宇宙誕生のときに何が起きたかをこれまでになく正確に知ることが出来るとしている。大栗博司カリフォルニア工科大学教授は、今回の観測で、創生直後に宇宙が膨張するときのエネルギーが初めて解き明かされたとし、宇宙進化の数あるモデルのうち、このエネルギーに相応するモデルは限られるため、宇宙の成り立ちをより正確に証明できると言う。又、物理学の大きなニ本柱である、量子力学と相対性理論が宇宙誕生時には統合されていたことも分かり、両者を繋ぐ超弦(ひも)理論(素粒子はひも状であるという理論)の検証にも道を開いたことは、ノーベル賞級だとし、最初に理論を唱えた日本人の佐藤勝彦博士(自然科学研究機構)も称賛に値すると述べている。


重力波背景放射によると推測される光の痕跡(共同通信)

この発見に東京大学宇宙線研究所チームは、宇宙誕生の時の姿を伝える新たな観測事実でデータであるとともに、現在解明されていない量子力学と相対性理論の統一が、確かに宇宙誕生時には存在したことを示す大発見といえるとしたうえで、直接的に重力波を観測する事を目的としたKAGRA計画に一層の期待を込めた。


重力波観測望遠鏡(BISEP2)

【量子力学と相対性理論の統一】
物理学の原点は、物体の運動法則から自然界のあらゆる現象を論理的に解明する自然科学である。研究対象は多岐に亘り、素粒子から宇宙の起源までを一連に結ぶ。目に見えないミクロ(微視)の世界を扱う量子力学や、熱力学に代表されるマクロ(巨視)的視野での研究を行う分野に大別される。

ハッブル(エドウィン・パウエル・ハッブル(1889~1953)アメリカの天文学者。我々の銀河系の外にも同様な星雲があることを発見。遠方の銀河の後退速度がその銀河までの距離に等しいことを発見した)が、宇宙の星々を観測し、そのドップラー効果から、この宇宙の星は、全て(例外なく)地球から離れつつあることを発見した。これはつまり、宇宙の中心が地球であるという理想論ではなく、宇宙は膨張していることが確かになった。であれば、時間を遡ると、宇宙はもっと小さかったことになる。それを極限まで突き詰めれば、宇宙は一点に収斂(しゅうれん)してしまうことになる。この宇宙の(質量を含む)全てのエネルギーが、一点に集まってしまうということである。逆に見ると、宇宙は、一点(極小のエネルギー塊)が膨張してできたことになる。その原始的膨張がインフレーションであり、そしてビッグバンに繋がるとするのが定説となっている。


宇宙の生い立ち(毎日新聞)

ニュートン力学(古典力学)とマクスウェルの電磁気学の矛盾を特殊相対性理論で解決し、ニュートン理論では説明不能だった重力現象を一般相対性理論で乗り越えたのが、アインシュタインである。しかし、そのアインシュタイン理論も又、ブラックホールや初期宇宙の特異点といった極限状況には通用しない。そのため現在では、アインシュタイン理論を乗り越える新たな重力理論が提案されている。すなわち、「宇宙の始まりでは空間が極限まで押し潰されているので、重力だけでなく、ミクロな世界の理論も同時に必要になり、宇宙の始まりの謎を解くには、アインシュタイン理論の限界を乗り越え、相対論と量子力学の2つの理論を統合しなければいけない。その先に、自然界のすべての現象の基礎となる究極の統一理論があると期待されている。


やっぱり物理学はおもしろい?(ピタゴラスの定理:数理ラボ)