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女不動産屋 柳本美土里

賢治は、6時間目の終了を知らせるチャイムが鳴り終わらないうちに、教室を飛び出していた。
筆箱がランドセルの中で暴れている。
2階から1階に繋がる階段の下4段を残して、賢治は「やっ」という掛け声とともに、いっきにジャンプした。
板張りの廊下ですべらないように踏ん張りながら再び駆け出すと、靴箱がある玄関ホールに到着する。
9番の扉を開けて白いスニーカーを引っ張り出すと、マジシャンのごとく瞬時に下履きと上履きを交換した。

校門を出たのは、桔梗ヶ丘小学校できっと1番のはずだ。
賢治の前に小学生らしき姿は1人も見えないのだから。
何度目かの角を曲がると、賢治は走るのをやめ、一転して慎重な歩みとなった。
ある家の門扉の前で立ち止まると、辺りを見回して、通りの人たちの視線が自分に向いていないことを確認し、素早く敷地内に入っていった。

玄関の横から建物沿いに裏へ回ると、賢治の気配を察したのだろう、甘えたような鳴き声が洩れた。
「しっ、静かに」
小声で鳴き声を制しながら庭に入り縁側を目指すと、庇の下のダンボール箱の中で舌を出し、尻尾を力強く振った茶色の小さな犬が賢治を迎えた。
「お待たせ、マートン。元気やったか?」
阪神タイガースファンの賢治は、利口そうな顔をしたこの犬に、大好きな外国人選手マートンの名前を付けたのだ。
茶色の子犬の頭をひとしきり撫でると、賢治はランドセルから給食のパンの残りを取り出して、口元に持っていってやった。
マートンは、よほどお腹が空いていたのだろう。
みるみるパンはなくなっていった。

昨日、家の近くにある公園に行ったときのことだ。
ジャングルジムの向こう側にある植え込みに置かれたダンボール箱から、何かが顔を出すのがブランコで立ち漕ぎをしていた賢治の視界に入った。
あれ、なんだろう?
漕いでいたブランコから飛び降り、おそるおそるジャングルジムへ歩みを進めた。
ジャングルジムの傍まで来ると、賢治の耳には子犬の甘えた鳴き声がはっきりと聞こえた。
植え込みに駆け寄り、ダンボール箱の中を覗いてみると、そこには小さな子犬が真っ黒の瞳を潤ませて、こちらを向いて鳴いていた。
「かわいい」という気持ちと、「困った」という気持ちが同時に賢治の頭で弾けた。
そして、続けてお母さんの怒る顔が目の前に現れた。
「うちはマンション住まいなんだから、ペットは飼えないって言ってるでしょう」
スーパーのペットショップで、売り物の犬の前からいつまでも離れないでいる賢治の腕をつかんで、お母さんが言った言葉が甦ってきた。

連れて帰ったりしたら、どれだけお母さんに叱られるだろうか?
自分にはどうしてやることもできない。
だって、うちのマンションはペットを飼っちゃいけないっていう正当な理由がお母さん側にはあるんだから。
「見なかったことにしよう」「ごめんね」
賢治は心を閉ざし、踵を返した。
子犬からいち早く逃げ出すように、それでも駆けるのは卑怯なような気がして、競歩のような歩き方で賢治は公園を抜け出した。
しかし、見なかったことにしようと思うほど、賢治の頭の中には茶色の子犬の顔がこびりついて離れなかった。
「お腹は空いてないのかな?」「誰か悪いやつがダンボールを見つけて、悪戯してないかな?」「それとも、誰にも見つけてもらえずに、あのまま死んでいくのかも?」
賢治の心に心配や不安が膨らんで、ご飯を食べ過ぎたときのように息苦しくなった。

「誰か僕の代わりにちゃんと飼ってくれる人はいないのかな?」
「マンションじゃなくて、一戸建てなら・・・」
そんなことを考えながら、住宅街の中を歩いていると、錆びた門扉の家が目に入った。
門扉の隙間から中を覗くと、木でできた引き戸の玄関は長い間開けられたことがなさそうだし、その玄関のまわりには雑草が大きく育っていて、今にも玄関をふさぎそうだ。
「空き家?」
そう思うと同時に、賢治はひらめいた。
「そうだ!空き家なら、どこかに犬を隠して飼うことができるかもしれない」
辺りを見回し、素早く門扉の格子の間に腕を差し込むと、内側のカンヌキを上下に回転させながら横に押しやった。
鉄と鉄とが擦れる音がして、門扉は開いた。
半開きになった門に横向きに体を差し入れ、賢治は敷地に入っていった。
まさかとは思いながら、玄関のドアを横に引っ張ってみたが、鍵がかかっているらしくびくともしない。
雑草でつくられたアーチを掻き分け、裏に回ってみた。
庭には雑草の間に、大きな石や木が並んでいた。
かつての庭は木や花を植えて石を置き、手入れされていたんだろうという名残があった。
家の裏にある勝手口も、雨戸もしっかりと閉じられていて開くことはなかった。
それでも、縁側の庇が庭側に差し出しているので、ここなら雨もかからないだろう。
賢治は表へ引き返し、門扉から首だけを出し、人がいないことを確認して門を閉じ、一目散に公園へ引き返した。
公園に向かって走っている間も、子犬が連れ去られていないだろうか?まさか死んじゃってるんじゃ?とか、悪いことばかりが浮かんでくる。
賢治はひたすら走り続けた。

公園の入り口を通り抜け、ジャングルジムの近くまで到着すると、あのダンボール箱が賢治の目に映った。
よし、まだ大丈夫、ダンボール箱はある。
それでも、子犬を見るまでは安心できない。
急いで駆け寄ると、茶色の子犬は最初の出会いと同じように、鼻を鳴らして賢治を見つめた。
両手で子犬の顔を挟み、頭を撫でた。
「さあ、行こう」
賢治の腕には少し大きいダンボール箱を両手でしっかりと抱え、あの空き家を目指した。

夕食を終えたテーブルには、湯呑み茶碗が二つ置かれている。
妻の美雪は、夫の高志に話しかけた。
「ねえ、ここ何日か夜中に犬の鳴き声がするんだけど・・・もしかして、お隣に野良犬が住み着いているのかもしれないから、明日ちょっと一緒に見に行ってくれない?」
「犬の鳴き声?そんなの聞いたことないけどなあ・・・」
「そりゃあなたは、寝てしまったら救急車のサイレンでも起きないじゃないの。犬の鳴き声くらいで起きるわけないわ」
「たぶん、あの寂しそうな鳴き声からすると、そんなに大きな犬じゃないと思うんだけど。
もしかして、どこかに挟まってたりして抜け出せなくなっているなら、助けてあげないといけないし」
「そうだな、お隣は長い間空き家になっているから、そんなこともあるかもしれないな。わかった、明日一緒に行こう」

庇の下に置かれたダンボール箱の中で、子犬はすぐに見つかった。
「これって、誰かが置いていったんだろうね」
「ってことは、捨て犬?」
「それはどうかな~、水飲み用のお皿も置いてあるし、誰かがここで飼っているのかも?」
「でも、それなら誰かがうちの隣の空き家にこっそり出入りしてるってことでしょう。それはそれで気持ち悪い話だわね」
美雪は、眉をしかめて両腕を抱えた。
「どうする?」
「どうするって・・・このまま放っておくって訳にはいかないだろう?」
「保健所に連絡して引き取ってもらうって方法もあるだろうけど、そうすれば殺されてしまうわよね」
「そうだな、それに空き家とはいえ、個人の敷地内にいる犬を、保健所が引き取ってくれるのかな?」
高志は首を傾げた。
「誰かが飼っている犬かもしれないわね。だとすると勝手なことをして、後々面倒なことになっても困るわね」
「弱ったな~、とりあえず自治会長さんに相談するか?」
「そうね、それがいいわ」

「ふ~ん、そうか。子犬が宮田さんとこにねぇ~」
自治会長の羽田は、目をつむり自慢の髭を何度も撫でながら天を仰いだ。
羽田が考え事をするときは、いつもこの姿勢で髭を撫でるのが癖になっている。
しばらくすると、撫でていた髭から手を離し、拳にした右手を左手の手のひらに打ちつけた。
「誰かが犬を飼っているとしたら、その傍に手紙を置いておくのも手じゃな。正当な権利で飼っているのなら、とりあえず連絡をくれるように。そうでないなら、即刻犬を連れて出て行くように文章にして。連絡もなく犬もそのままなら、そのときは捨て犬とみなして、引き取り手を探すことなんかを考えてみてはどうかな?」
「あと、可能性は低いと思うが、宮田さんが犬を飼っている可能性も皆無ではないから、まず、宮田さんに連絡取ってみよう」

「宮田さんの連絡先は、ご存知なんですか?」
「ああ、宮田さんは、この団地の分譲した頃からの人で、ここに住んでおられた頃には、一緒に地域の活動をしたもんじゃ。もう10年以上前やったと思うが、息子さんのところに引っ越すから何かあったら連絡が欲しいと連絡先を教えてくれたんじゃ」
「さぁ、どれどれ」
自治会長の羽田は、電話の下に置いてある連絡帳を引っぱりだし、老眼鏡をすっかり禿げ上がった頭にずらして、宮田さんの連絡先を探し出した。
「おっ、あったあった」
電話の子機と連絡帳を交互に見ながら、自治会長は電話番号を押した。
「ああ、宮田さんですか?お久しぶりです、柿の木坂団地の自治会長の羽田です」
二人はお互いの健康を気遣う挨拶をした後、自治会長から用件を切り出した。
「・・・ふんふん・・・ということは、宮田さんが飼ってるんじゃないんやな。・・・いやいや迷惑やなんて、お隣さんから話を聞いたもんやから・・・宮田さんが飼ってるんやったら勝手なことはでけへん思うてな・・・うん、判った、じゃあこっちでなんとかさせてもらうわ」
「あんたらも聞いてたと思うけど、宮田さんが飼っている犬やないらしい。となると、まずは手紙作戦やな。どんな相手かも判らんし、自治会長の名前で手紙を書いた方が、あんたらもええやろ?ちょっと待ちや」
そう言うと、自治会長はさっさと手紙を書き上げ、二人に渡して言った。
「これを、犬の傍に置いておくんや。犬の飼主が見たら、なんらかの対応をするやろ。捨て犬の場合、放っておいて死にでもしたら、あんたらも後味悪いやろ?面倒かもしれんけど、1日に1回くらいはエサを食べさしたり。ほんで3日経って手紙もそのまま、犬もそのままの場合は、捨て犬とみなして今後のことを考えよう」

「あれ?こんなところに手紙が」
いつものように、学校帰りにマートンのところに寄った賢治は、ダンボール箱の下に挟まれている手紙を見つけた。
封をしていない封筒から手紙を引っ張り出した。
自治会長名で書かれた手紙。
難しい漢字も多かったが、手紙には他人の敷地に勝手に入っていること、近所迷惑をしているということ、警察に通報する予定があることなどが書かれているらしい。そして犬を連れて出て行くように命令されていた。
「やばい」
誰かが僕がここでマートンを飼っているということを知っている。
警察に捕まったりしたら、お母さんは怒るだろう。
いや、「警察のやっかいになるような子どもを生んだ覚えはありません」なんて言って、泣き出すかもしれない。
お父さんにはこれまで殴られたことはないけれど、さすがに警察沙汰になったら殴られるのかな?
家を追い出されるかもしれない。
そう思うと、悲しくて涙が出てきた。
田舎のおばあちゃんの家は、新幹線で何時間もかかる場所にあるし、はっきりと場所も知らないから、家を追い出されたとしてもおばあちゃんの家に逃げることもできない。
第一、僕が持っているお金では、おばあちゃんの家まで行く電車賃にもならないだろう。
こんなことなら、お年玉でプレイステーションなんて買わなきゃ良かった。

犬を連れて出て行くようにと言われても、連れて帰れる場所なんてない。
日曜日にマートンと出会ってから、今日までの5日間で、マートンはすっかり僕の友達だ。
僕が姿を現すと、激しく尻尾を振って迎えてくれるマートンを、元のジャングルジムの横の植え込みに捨てることなんてできやしない。
「じゃあ、どうする?」
他の空き家を探すか?
でも、たぶん今回と同じことになりそうだ。
仕方ない、怒られるのを覚悟でお母さんに話そう、そしてマートンは親戚のおばちゃんに引き取ってもらえるようにお願いしてみよう。
警察に捕まってから呼び出されるよりは、お母さんのショックもまだマシだろう。

賢治は、自治会長からの手紙を持って家に帰った。
そして、お母さんの顔を見るなり、お母さんが事情を察知して怒り出す前に何度も謝った。
「ごめんなさいばっかりじゃ解らないじゃないの、何をしたかちゃんと話しなさい」
賢治は公園で犬を拾ったこと、空き家があったのでそこで飼っていたこと、それが見つかり自治会長から手紙があったことを話し、ランドセルに入れていた手紙をお母さんに渡した。
その手紙を読み終えるとお母さんは、「ほんっと、あんたって子は」そう言って睨み付けただけで、思っていたよりは怒られなかった。
「一緒に自治会長さんのところに行くから」
そう言うと、賢治の手を引っ張ってお母さんは歩き出した。

「そっか、この坊ちゃんがね~。ボクは、犬が好きか?」
禿げ上がった頭で立派な髭を生やした自治会長が、優しい顔をして尋ねてきた。
この人は、もう警察に連絡したのだろうか?
ちょっと不安になりながらも、空き家に入った言い訳をしようと、「うん、でもうちはマンションだから・・・」と言うと、いらないことを言うな、というお母さんの視線で言葉を制された。
「じゃあ、とりあえず一緒に宮田さんとこに行きましょう」
賢治は、自治会長とお母さんに続いた。
すると、この5日間、毎日通った宮田家の錆びた門扉は、既に開いていて、奥からマートンの鳴き声が聞こえてきた。
「あれ?誰かいるんかな?」
僕たちの様子に気づいたのか、侵入者が裏庭から表にやってきた。
「ああ、あなたは、確か・・・」
自治会長が髭をさすると同時くらいに、侵入者は挨拶をした。
「自治会長さん、ご無沙汰しております。駅前の柳本不動産の柳本美土里です」
「ああ、以前に道路のことでお世話になりましたな」
「はい、その節はお世話になりました」
ベージュ色のスーツに身を包んだ美土里は、まっすぐに自治会長を見て礼をした。
「ところで、今日は宮田さんとこで、どうされたんですかな?」
「ええ、宮田さんからお電話をいただきまして、売却を検討したいから査定をして欲しいと・・・それで、現地確認のためにお伺いしてるんです」

「宮田さんから、もしかしたら犬がいるかもしれないって聞いていたものですから、確認しますと、小さな可愛い犬が裏にいるんですよ」
「そうなんです、そのことで今日は私らもやって来たんです」
美土里は、自治会長以下3人を素早く見た。
「で、あの犬は?」
「すみません、うちの息子が勝手にこちらにお入りして飼っていたようなんです。それでご近所にご迷惑をお掛けしていたようで・・・」
賢治の母親は、恐縮して小さくなった。
「そうですか、でもそれなりの理由があったんでしょう?ね、ボク」
背の高い美土里は、腰を屈めて賢治の視線に合わせて話した。
「まぁ、宮田さんから査定依頼されている私が言うのもアレですが、こうやっていつまでも空き家のまま置いておくというのも、どうかと思うんです。定期的にやってきて手入れをするならともかく、雑草は伸び放題で害虫が住み付いたり、野良犬や野良猫の住処になっていたり、中には屋根や壁が朽ち果てて、隣の家に危険を及ぼしているようなものもありますからね。不審者が入ってきて放火でもして他の家に類焼が及んだりしたら目も当てられませんから」
「だから、将来的に使うのならきちんと定期的に管理する。使わないのなら、売るか貸すか、他に利用するかしないと、そんな空き家が多くなると街がゴーストタウン化したり、地域の中に危険な場所を作ってしまうことになるんですよ」
美土里の剣幕に、自治会長も目を丸くした。
「すみません、ちょっと興奮したみたいで、でも自治会長さんもそう思われませんか?」
「そやな、たしかに空き家が増えると寂しい町になって人の目が少なくなるし、犯罪者にとっては都合がいい環境になるやろな。よくあるのが、やっぱり雑草についての苦情や建物が倒れそうで危険って話やな」

「ところで、この犬はどうするつもりなんですか?ボクがここで飼っていたってことは、お家では飼えない事情がありそうだし・・・」
美土里は、自治会長に訊ねた。
「いくらなんでも、犬つきの不動産って売り出すことはできませんよ」
美土里は笑いながら言った。
「そやな、その問題が残っとったな」
自治会長がそう言って髭をさすると、自治会長の後ろから女性の声がした。
「そのことですが・・・」
「ああ、川辺さん、いてはったんですか?」
川辺というこの女性はいったい誰だろうと、他の皆は自治会長越しに女性を見た。
「この方は、お隣の川辺さんですわ。この犬のことに気づいて、私に相談にいらして・・・」
「初めまして、川辺です。あの・・・もし、この犬の引き取り手がいないのなら、私どもで飼ってもいいねって主人と話していたんです。うちなら、このボクも会いにくることができるでしょう」美雪は賢治に微笑んだ。
「川辺さん、本当にいいんですか?」
「はい、うちは子どももいませんので、家族が増えるようで嬉しいです。とっても可愛い子犬ですし・・・賢治くんだったっけ?この犬がいて、賢治くんが遊びに来てくれるのも、楽しみです」
「そんな風に言っていただいて、本当にありがとうございます」
賢治の母親は、こぼれそうになる涙を押さえていた手で美雪の手を握った。
しょげていた賢治の顔が、晴れやかに輝いた。

「自治会長さん、良かったわね。これで円満解決ね」
美土里はそう言ったが、自治会長は浮かぬ顔をしていた。
「そりゃそうやけど・・・この犬を捨てた人は誰か判らんからなぁ。公園に犬を捨てるなんて、どんな理由があるか知らんが困りもんじゃ。この町で、ペットを捨てる人が増えてしもたら、どう対応したらいいものやら」
自治会長の眉は、八の字になった。

「それなら、うちのお客さんでペットサロンをしている方がいるんです。その方は野良犬や野良猫を拾ってきては、きちんと躾をしてインターネットで欲しい人に譲っているってことなんです。全部が全部っていう訳にはいかないでしょうけど、ある程度はなんとかなるんじゃないでしょうか?それに、可能かどうか判らないですが、地域で犬や猫の動物園みたいな施設をつくることって不可能かしら?学校の飼育小屋みたいに、地域のみんなで動物を育てるみたいな」
「美土里さんは、なかなかのアイデアマンですな~。そうした施設の実現は、なかなか難しいやろうけど、面白い発想ではあるな」
自治会長は、笑いながらも、やや困り気味の顔で美土里の言葉を聞いた。
「お母さん、賢治くんはとっても優しい子ですな。今回のことは、捨てられている子犬がかわいそうで、なんとか飼ってやろうという気持ちから起こしたことやから、あんまり怒らんといてやってください。迷惑らしい迷惑なんて、誰にも掛かってないんやし」
自治会長は大らかに笑いながら、賢治の頭を撫でた。(完)

※このドラマはフィクションであり、実在の団体や個人とは何の関係もありませんので、ご承知ください。