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女不動産屋 柳本美土里

窓越しに見える港は、瀬戸内海に面した小さな漁港。
鉛色の雲が低くたれこみ、岸壁沿いに規則正しく並べた笹の葉のように揺られている船を、霧のような雨が包み込んでいた。
しかし、正午を過ぎた頃から黒く見えていた海の色が、僅かに薄くなってきたように思う。
いつもは眺めることのできる島は、まだ雲の中に隠れてしまっているが、西の空から一条の光が岸壁を照らしていた。

かつて玲子が育った実家は、海沿いの国道から車1台がやっと通れる細い坂道を登りきったところに建っていた。
貿易で栄えた神戸の中心地から程よく離れており、海の向こうの祖国へ慕情をかきたてられる坂の町は、かつて外国からやってきた貿易商人に好まれた居留地でもある。
ところどころに洋館が建つ実家のある町とは少し趣は異なるが、磯の匂いが鼻をくすぐり、静かに打ち寄せる波の音が部屋の中まで届く、かつて実家で感じていた海を五感で感じられるこの家に、玲子が越してきたのは去年の冬だった。
きっかけは、中学時代の同級生である瀬田君が誘ってくれたのが始まりだ。

中学の頃の玲子は、勉強よりもおしゃれに興味を持ち流行を追いかける進んだ少女だった。
それに引き換え瀬田君は、とても勉強ができた。
学校でも、彼は常にトップクラスの成績ではなかっただろうか?
先生からの受けもよく、間違いなく模範生徒と呼ばれるにふさわしい男子生徒だった。
玲子はそんな瀬田君のことを、賢くて真面目な近所の同級生くらいにしか思っていなかったのだけれど。
家が近いということで親同士も顔見知りで、中学生の頃にはお互いの家をよく行き来したものだが、玲子が私立の女子高、瀬田君が進学校へと、それぞれが別々の高校に進んだことで、次第に交流は途絶えがちになっていった。
そして、彼が東京の大学に行ってからは、連絡すら無くなっていた。

中学生の頃から清楚な顔立ちで美少女と噂の高かった玲子は、短大に入ってからというものは、近隣の男子大学生からの交際申込がひっきりなしにあったりして、それなりに学生生活を楽しんでいた。
短大を卒業してからは、玲子は保険会社の事務員に。
会社に入って間もなく、女子社員たちの憧れの存在である6歳年上の、いわゆるイケメンの同僚の男性に告白されて付き合うこととなり、美男美女のカップルとして、すぐに会社でも話題になった。
そして彼の転勤を機に、翌年、玲子は会社を退職し、二人は結婚したのだった。
それまでの玲子の人生は、順風満帆のように思われた。
小さいながらも商社を経営する父と、地方公務員の娘だった母に一人娘として大切に育てられた玲子は、多少のわがままでも、願うことは何でもかなえられてきた。
魅力的な外見の女性には、世間も甘いのかもしれない。

歯車が狂いだしたのは、二人の子供を転校させるのが忍びなく、夫に単身赴任をさせることになった辺りからだろう。
子供たちが大きくなり小学校に入学した後に夫に出た転勤辞令。
彼らを転校させることが忍びなく、夫を単身赴任させることにしたのだ。
夫を単身赴任させた当初は、玲子も気丈にやっていたが、子供たちにとって父親が必要なシーンが度々あると、玲子は馴染みの無い土地で、孤独感に苛まれる日々が続いた。
これまでの人生の中では、玲子の周りには自然と人が集まっていたのに。
自分と子供だけが、孤島に放り出されたように思える。
そんな寂しさが、夫への過度の干渉となっていったのだろう。
赴任先の夫に電話を掛け、その日の行動を確認することが、彼女の日課となり、夫と連絡がつかない夜には、眠ることも出来なくなってしまっていた。

夜中の電話は妻の玲子からのものだろう、夫はためらいながら受話器を上げた。
「あなた、お帰りなさい。今日は遅かったのね、何かあったの?」
いきなりの玲子の詰問口調にうんざりしながらも、夫は返事した。
「いや別に、新入社員の歓迎会があっただけだけど・・・」
それが何か問題があるのか?という言葉を夫は飲み込んだ。
「そう、それにしては遅かったんじゃない?」
「誘われれば、2次会くらい行くだろう」
夫は、憮然と吐き捨てるように言った。
「もう、疲れているから寝るよ」
続く玲子の言葉をさえぎるように、夫は受話器を置いた。
玲子は埋まらない心の穴を感じていた。

英二は、疲れ果てていた。
妻の玲子が、慣れない土地で、一人で子育てしていることには頭が下がる。
でも、子供のためと単身赴任を提案したのは、彼女の方だ。
業績回復のための人員整理により、社員一人当たりの仕事量は増えている。
いくらやっても減らない仕事に押しつぶされそうになりながら、やっと家に帰りつくと、妻からストーカーのような電話が掛かってくる。
「家族の生活を守るために孤軍奮闘しているのは俺だぞ、どうしてその俺を痛めつけるようなことを平気でするんだ」
英二の心が休まるところはなかった。

そんな英二の心に魔が差すのには、多くの時間は必要なかった。
会社の食事会の帰りのことだ。
同僚の女子社員から、帰宅が同じ方向なので一緒に帰りましょうと誘われた。
帰りのタクシーの中で、仕事のことで相談があると言われ、家の近くのバーで飲みなおすことになった。
会社での人間関係の愚痴を宥めているうちに、彼女は酔ってしまい、仕方なく英二の部屋で休ませることにしたのだが、連れて帰る道すがら、以前から英二のことが好きだったと告げられ、自分に身体を預ける彼女の柔らかさに、英二の理性はどこかへ消し飛んでしまっていた。
社内でも、何かと気を遣ってくれる彼女に、英二も好意を感じていたのだろうか。
良くないこととは判っていたが、英二は彼女といるときだけが、心休まる時間となってしまっていた。

ある日、英二の叔父が亡くなったという報せが届いた。
赴任先から駆けつけた英二とともに、玲子も子供たちを連れ通夜の席に参列することになった。
その席上のことだ。
家族親族の焼香が済み、弔問客の焼香がなされているとき、線香の香りとご住職の読経が流れる中に、異質な音が耳に届いた。
その音は、隣に座る英二のポケットを震わせていた。
携帯電話?
英二は、携帯電話を持たない主義だといっていた。
それがどうして?
「あなた、もしかして携帯電話の音?」
「あ、うん、ごめん電源切ってなかった」
そういうと英二は、喪服の内ポケットから素早く携帯電話を取り出し、電源スイッチを押した。
携帯を買ったとも聞いていないし、電話番号も教えてもらっていない。
もしかして、会社から配布されたもの?
いや、営業でもない英二に会社が携帯電話を渡すわけがない。
「あなた、携帯電話を持つことにしたの?」
そう聞けば、英二はどう答えるのだろうか?
適当に返ってくるだろう答えに対し、追い討ちを掛けるように質問をしてしまうだろう。
そうして、夫が次々と嘘を重ねる姿を見たくはない。
問いただすことを止めた玲子の心の奥底に、濁った澱が溜まった。

玲子の心の内には、消化できないものが残ったままになっていた。
次に、英二の携帯への着信を知ったのは、彼が風呂に入っているときだった。
吊り下げられた喪服から、振動音が響いていた。
見ないほうがいいという声と、見てはっきりと確認するべきだという声が、玲子の内でぶつかった。
気がついたときには、携帯を取り出しメールの受信画面を開いていた。
絵文字の間に、夫との関係を詳らかに示す文面が、そこにあった。
玲子の心の澱は固まり、その底にはっきりと存在を現した。
こうなってみれば、自分が本当に夫のことが好きなのか、好きだったのかも判らなくなってきた。
いつも男性から求められて付き合ってきた。
夫にも、熱心に口説かれ、付き合い、結婚をした。
愛されているというのが心地よくて、自分を愛してくれる男性を愛している錯覚を起こしていただけではないだろうか?
こうして、夫の気持ちが離れているのが判ったとたんに、夫への気持ちも霧のように消えてしまったことを思えば・・・。

英二との離婚は、スムーズにいった方だろう。
何度かの話し合いをし、子供の親権は玲子が持ち、財産分与と養育費の支払いを受けることとなった。
結果的に子供たちから父親を奪うことになり、玲子は呵責を覚えたが、それでも母親の自分がしっかりと自分の人生を歩むこと、それを子供たちに胸を張って見せることができれば、きっと子供たちも解ってくれるだろうと自分に言い聞かせた。
夫の転勤でやってきた土地だけれど、子供たちも学校に慣れ、友達もできた今は、この地で生きていこうと決めた。
玲子は、仕事を探して勤め始め、子供を育て、がむしゃらに生きた。
玲子の思いが通じたのだろうか、子供たちは非行に走ることも無く、母親を思いやることができる優しい子に育っていった。
長男が高校に進学すると、さすがに年頃の兄と妹が同じ部屋では良くないし、それぞれが集中して勉強をするためにも、一人ひとりの部屋を与えてやりたくなった。
幸い、勤続年数もそれなりの年月となり、住宅ローンを借りることもできそうだ。
玲子は、離婚の際の慰謝料を頭金に、家を買うことにした。

条件は、子供たちの学区が変わらないこと、中古でも構わないけれど一戸建て、3LDKもしくは4LDK、予算は1200万円まで。
玲子は週末に新聞に折り込まれる住宅のチラシを、真剣にチェックするようになった。
「なかなか思うような家は無いわね、建売住宅や分譲マンションばっかり。たまに中古の一戸建てがあったとしても、学区外だったり、値段が高すぎたり・・・」
「でも、おかあさん、学校からの帰り道の途中にある不動産屋さんの窓に、家の情報がいっぱい貼ってあるよ」
娘が母の顔を覗き込むように言った。
「そうねえ、不動産屋さんなんて行ったことないし、何だか無理やり契約させられそうでちょっと怖いけど、仕方ない、今度行ってみようかしら」
「私も付いていってあげるから、大丈夫」
中学生のくせに、すっかり大人びた口調で母親を励ました。

不動産屋で調べてもらうと、その条件で売り出されているのは3件しかないらしい。
どれも、見たことのない情報だったので、思い切って訊ねた。
「これらの情報は、チラシとかで見たことないですけど、こういった物件情報はチラシには掲載されないのですか?」
「そやね、全部の物件が広告できるわけちゃうからね。売主さんが、自分の家を売り出しているのを知られたくなくて、広告はしないで欲しいという場合もあるし、チラシに掲載するにも、費用的に掲載できる物件数には限りがあるから、売れにくいような物件は後回しになってしまうのも、現実やろね」
3件とも見せてもらい、結局、一番静かな環境が得られる家を選んだ。
中古物件とはいえ、外壁の塗り替えもされ、部屋のクロスや畳も張替えられた部屋は、気持ちよく快適だ。
なによりも、それぞれ自分だけの部屋があるというのが、子供たちにとっては最高のプレゼントだった。

玲子の同級生である瀬田は、東京の大学を卒業した後、医療機器メーカーに就職した。
彼が就職した頃は創業間もない会社だったのが、機械治療の拡大にともない、急成長を果たし、東証一部にも上場され、国内でも指折りの医療機器メーカーとなった。
瀬田は技術畑一筋で、ひたすら開発に没頭した。
だからといって、仕事にかかりきりになって、女性と付き合ったり結婚を考えたりしなかったわけではない。
同僚から紹介された女性たちと遊びに行き、それなりに恋愛もした。
母親が元気な頃には、お見合いの話も幾度かあり、その度に東京と郷里を行き来したものだが、毎回のように、にべも無い返事をしていたことで、お見合いの話も出なくなっていた。

瀬田には、初恋の人がいた。
実家の近くに住んでいた、玲子だ。
中学生の瀬田には、玲子はまぶしい存在だった。
さらさらの黒く艶やかな髪が胸元まであり、二重まぶたの澄んだ大きな瞳から発せられた光は、見つめられると火傷をしそうなくらいだった。
いつの頃からか、彼女の顔を見て話をすることすらできなくなった。
高校に進学し、それぞれ別の学校に行くこととなったが、たまたま道で出会うと高校生に成長した彼女の美しさに、瀬田は挨拶をするのが精一杯だった。
付き合うこともなく、告白することもできず、思い焦がれる瀬田の一方的な恋だったが、あの気持ちを超えることは、これまでなかった。
玲子のことは、同級生の噂話で耳にしていた。
早くに結婚したことや、子供がいること、そして旦那さんと離婚して、女手ひとつで子供を育てていること。
そんな噂を聞くにつれ、彼女の身の上を案じ、自分にできることは無いか、など考えるようになった。
そうこうしているうちに、瀬田は40代の年齢に突入してしまっていた。

そして、二人の突然の再会は、悲報がもたらした。
偶然実家に帰ってきていた瀬田に、独り暮らしをしていた玲子の母親が亡くなったと友人から連絡が入ったのだ。
慌ただしく向かった葬儀場の喪主席には、力なく玲子が座っており、その横には制服を着た男の子と女の子が並んでいた。
喪服を着た玲子は、少女の頃の華やかさは影を潜めていたが、細くて白いうなじと、結んだ髪からの後れ毛が、妙齢の色香を感じさせた。
瀬田が焼香を済ませ、玲子にお悔やみを述べたとき、玲子の驚いた様子が、瀬田のことを思い出した証だった。
「瀬田君、もし時間があったら一緒に来て欲しいんだけど」
玲子が声を掛けたのは、斎場に向かう出棺のときだった。
瀬田は、少ない親戚以外で、母親を知る僅かな人物なのだろう。
見知らぬ玲子の親戚たちの中で、居心地が悪いのを感じながらも、瀬田は骨上げにも加わった。
そんな特殊な状況を共有したことが二人の繋がりを作ったのか、それから折をみて会うようになっていった。

玲子の母親が亡くなったことは、瀬田にとっても他人ごとではない。
瀬田の父親も既に亡くなり、母親が実家に独りで住んでいる。
最近では足腰が弱り、買い物を行くのにも不自由をしているようだ。
「仕事を辞めて、実家に帰ったほうがいいのかな?」
そんな言葉を母の前で出すと、年寄り扱いをするなと叱り飛ばされるのがおちだが、実は瀬田は真剣に考えていたのだ。
会社には早期退職優遇制度がある。
その上、会社が成長するとともに、給料天引きで、こつこつと買い続けていた会社の株も、財産といえるほどの、かなりの金額になっている。
会社を辞めても、経済的に困ることはないだろう。
長い間独りにさせた母親と一緒に暮らし、介護をしながら、いつか母を看取るのも自分の役割ではないか。
そしてもうひとつの夢、玲子と夫婦になることは無理かもしれないけれど、せめてリタイヤした後の生活を一緒に過ごせたら。
母と暮らすのには、何の問題もない。
しかし、玲子には子供たちがいる。
彼らが結婚して家を出ない限りは、一緒に住むことは出来そうにはないが、それ以前に、年老いた母がいるところに、玲子を呼ぶことはできない。
でも、二つの思いを実現させることができる方法があった。

そうしよう。
瀬田は決めた。
こうなると、実行力のある瀬田は行動が早い。
東京では、関西の不動産情報が入りにくいからと、インターネットで物件探しを行いながら、玲子を口説いた。
2世帯住宅なので、自分は母親と住み、玲子は家族と住んでくれたらいいから、と。
もっぱら瀬田が主導で物件を探し、玲子とともに検討した。
条件は、海が見下ろせる2世帯住宅で、病院などが近くにある、それなりに便利な場所。キャッシュで買うことを考えれば、予算は改装費を入れて4000万円くらいが限度だろうが、あまりにも築年数が古い物件は避けたい。
そんなに多くは無かったが、検討に値する物件は数件見つかった。
その中で、最も有望と思われる物件の広告をしている不動産会社に問い合わせをした。
「はい、柳本不動産です」
電話の向こうからは、歯切れのいい女性の声がした。
「御社がインターネットに掲載されている、海の近くの2世帯住宅は、まだありますか?」
「はい、ございます」
「そうですか、ちょっと見せていただきたいのですが」
「内覧ですね、いつごろがご希望ですか?」
瀬田は、東京からの問い合わせであること、来週の週末には行けることを告げ、内覧の予約をした。

「東京からですか、遠いところ、ありがとうございます」
グレーのスーツに身を包んだ女性は、瀬田よりも背が高い。
物件の最寄り駅で「柳本美土里」柳本不動産の代表の名刺を受け取ると、瀬田と玲子は軽く会釈をした。
美土里に案内された2世帯住宅は、港に面した道路から坂を50メートルほど上がった場所に建っていた。
斜面を歩いて登るのは少し骨が折れそうだが、実家に繋がる坂に比べればたいしたことはない。
2階建てで1階と2階に玄関ドアが据えられている2世帯住宅だ。
玄関の横には、小さなエレベーターも設置されている。
これなら、足の悪い母親が2階に行くのにも楽だろう。
部屋に入ると、南側の大きな窓から光が差し込み、1階からでも海を見下ろすことができた。
2階に上がると、さらに開放感は広がり、漁港の向こうにあるヨットハーバーまで見渡すことができる。
玲子は思わず感嘆の声を上げた。
「なかなかの眺望でしょう?前の道は少し坂が急ですが、そのぶん眺望がいいんでしょうね。ただ、2世帯住宅は、一般的でない大きな家ですので、需要という点では少し落ちるんですけどね」
押し付けがましくなく、客観的に話をする美土里に、二人は好感を覚えた。
瀬田と玲子はいくつかの確認を美土里にし、その回答を得ると、購入については即答せずに持ち帰って検討する約束をして部屋を出た。

「でも、瀬田君うまく考えたわね、2世帯住宅だなんて。これなら私のところは今まで通り、子供たちと3人暮らし、瀬田君はお母さんと一緒に住む、で私たちは同居しているのと同じようなものだからね」
「まあね、2世帯住宅って一般的には、子世帯、多くは息子の嫁が同居することによる嫁姑の争いを避けるための、世帯分離の手法のように考えられているけれども、よく考えれば、いろいろな使い方を考えられると思ったんだ。今回の僕たちのようなパターンは珍しいかもしれないけど、例えば1世帯分を自身の家族で住み、もう1世帯分を賃貸しするっていうのもありだよね。これなら、賃料収入を得ながら住むことができる。その場合、それぞれの間取を変えて、住む方の世帯と貸す方の世帯を入れ替えることによって、家族の成長や家族数の増減に合わせたフレキシブルな暮らしが出来るという利点もあると思うんだ。仲のいい家族同士で2世帯住宅に住むってことも、楽しいかもしれないしね」
瀬田は饒舌に話した。
「なんだか不動産屋さんみたいね」
「実は、賃貸しできるっていう話は、あの女性社長から聞いた話なんだ。母親の介護のために同居するから家を探しているって言うには、ちょっと不思議に思われたと思うんだ。だって、実家は母所有だから単に同居するだけなら実家でもできることだし。となると、2世帯住宅の購入を検討しているのは、なにか特別な事情があるなって感づいたんじゃないかな?それで、2世帯住宅のいろんな利用方法の提案をしてくれたんだと思う」
「そう、詮索せずにいろんな可能性を考えて提案してくれるなんて、嬉しい心遣いだわね」
玲子は優しく微笑んだ。
自分と子供たち、瀬田君とお母さんとが、同じ屋根の元に暮らすなんて、数年前まで考えもしなかった。
でも、こうなることが、ずっと昔から決まっていたようで、いろいろあったけど、全てはここに向かっての人生だったような気がする。
「瀬田君、あの家に決めましょうよ」
瀬田はゆっくりと頷いた。(完)

※このドラマはフィクションであり、実在の団体や個人とは何の関係もありませんので、ご承知ください。