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日本では、イプシロンロケットの発射成功で湧いているが(JAXA)

さあ、皆さん。これから冬至に向かってどんどん夜が長くなる季節です。秋の夜長に、消費税増税に頭を悩ませ、毎夜パソコンの前で電卓片手に帳簿と格闘されている中小企業の社長さんや、24時間、片時もモニターの前から離れられず、世界中から送られてくる金融市場のトレンドと自らのポートフォリオを重ね合わせて、血眼でキーを叩いている個人トレーダーの億万長者さんも、勇気を持って液晶モニターから視線を外し、窓を開けて、雄大な秋の夜空を見上げてみませんか?
今年の秋の目玉は、アイソン彗星~☆
2012年9月、国際科学光学ネットワーク(ISON)のロシア観測チームが発見した彗星で、これまでの観測では今年11月29日に近日点に達し、太陽の中心から約180万キロまで接近すると予測されている。今年春に話題となったバンスターズ彗星が太陽から4500万キロであったから、桁違いに太陽に大接近するアイソン彗星は核の状態に係わらず確実に明るくなる。記録に残る最も明るい「キルヒ彗星」(1680年)に匹敵するとの見方もあるので、「双眼鏡を使えば11月初旬から見られそう。月明かりの条件なども加味すると、日本では12月上旬から中旬の午前5~6時前に最も観測しやすくなる」と期待するのは、長野県長野工業高等専門学校の大西浩次教授だ。
この彗星、ハレー彗星のように太陽の軌道を回る彗星ではないため、地球接近は最初で最後。


アイソン彗星観測予測2013年12月5日5:00AM・TOKYO(有限会社ドリームズカムトゥルー)

え?落下してきたらどうなるかって?
心配ご無用。彗星は隕石と違い、数が少ないので地球への衝突は数千万年に1度と言われ、今回その軌道も非常に正確に計算され、落下リスクは無いということらしい。

【イプシロンロケット】
イプシロンロケットは、日本の固体燃料ロケット技術の集大成であり、これまで日本が開発してきたM-V(ミューファイブ)やH-ⅡA、H-ⅡBが蓄積してきた技術を活用しているので、信頼性や性能は非常に高いと言われる。


H-ⅡA、H-ⅡB分解図(三菱重工業)

そもそも、ロケット開発は当然最先端の技術を用いたプロジェクトであり、現代において最も機械化されたシステムの上に成り立つSF世界のイメージが定着していると思うが、実は非常に保守的な考え方が主流の開発段階を経て建造され、それを支える技術は、欠点が出尽くしたような何世代も前のものであり、点検作業も人が時間をかけてやれば良いという発想の続く中で行われてきたらしい(JAXA)。すなわち、一般人が描くイメージとしての、射場には数百人の作業員が発射準備に追われ、管制塔には大勢の技術者が集まってカウントダウンを見守る、というあれである。
だから、今回のイプシロン計画の目玉である「人工知能搭載」という技術は、この世界では画期的な考え方を導入したことになる。

【ロケットの知能化とは】
機械を知能化するという技術は、すでに多数の分野で行われている。近年は、ゲーム機や単純なおもちゃにでさえ、簡単な人工知能は採用されている。機械の知能化とは、機械自らが状況を判断し、的確な指示を与えられるようプログラムされたコンピューティングを指す。
例えばエアコンの人工知能などでは、部屋の温度、湿度は勿論、部屋に居る人間の数、動き、外気温や日照の状況なども予め組み込まれた膨大なデータから現在の状況を正確に判断し、最適な室温に保たれるよう機械自らが設定温度や風量を計算して提供するなどの機能を持っている。正にロボットだ。


イプシロンに実際に搭載された人工知能「ROSE」の組み込み(JAXA)

イプシロン計画の中で最もやっかいだったのは、このコンピュータにエンジニアが過去に経験した膨大な作業データを数値化して組み込むという作業である(JAXAプロジェクトマネージャー・森田泰弘博士)。ロケットの打ち上げで何に最も熟練が要求され、時間と労力を費やすかというと、電流を流すことで回転するモーターや開閉バルブの点検だという。実際に搭載される機械を動かし、そこに流れる電流の波形を蓄積し、得られた波形の特徴に応じた関係を見て総合的に正常か異常かの判断を機械自身が出来るようプログラムする。医療分野で当たり前に使用されている、医者に代わって心臓異常を発見する心電図解析などに似ている。このような知能化は、すでに多くの部分で「自動点検」というシステムで運用されている。イプシロンでは、蓄積データの中から異常値を発見するという単純な自動化ではなく、自律点検システムの構築を目指したところが特徴だ。
「自律点検」とは、正常な場合に見られるはずの波形を形作る特徴同士の関係性を見破ることで出来る異常の検知と予防である。イプシロンではこの人工知能をROSE(Responsive Operation Support Equipment)と呼び、もう一つの特徴である少人数での遠隔操作による「モバイル管制」を実現した。これは、パソコン1台で全ての管制を行えるシステムで、ROSEからのデータを普通のインターネットと同じ仕組みでホストに繋ぎ、ROSEが正常なデータを取得しているか、診断プロセスは間違っていないかを監視し、監督する(実際は冗長化のためにパソコンは2台用意している)。


モバイル管制塔内部(JAXA)

【イプシロンは経済ロケット】
ROSEとモバイル管制で、ロケット開発の常識を覆そうと試みたJAXA(日本宇宙航空開発研究機構)では、開発費用の大幅な削減も実現している。今回の初号機では、従来通りの燃料を使う推進系を採用したことで開発コストを下げている。打ち上げ準備期間の縮小、モバイル管制、モーターケースの製造方法の改良など、様々な工夫により大幅なコスト削減を実現し、2013年度の初号機の打ち上げ費用を試算すると、約38億円。これは、M-Vロケットの75億円に比べるとおよそ半分となり、地球周回低軌道に衛星を投入する場合、イプシロンロケットの打ち上げ能力は1.2tで、M-Vロケットの1.8tに比べると約3分の2の能力だ。値段が半分になっても、能力的にはM-Vロケットの3分の2を維持しており、3割ほどのコストパフォーマンスが上がっていると言える。
計画では、2017年に4号機を打ち上げ、その後最終形態の高性能・低価格ロケット(E-1)計画に移行する予定だ。ここまでくれば、毎月1機ずつ打ち上げる基幹ロケットや、サンダーバード特撮のような再利用可能ロケットも夢ではなくなるという。


日本のロケットの比較(読売新聞)

【地球を見守る宇宙開発と、広大な宇宙へ向かう人類の挑戦】
イプシロンに搭載された人工衛星は、「Sprint-A」という世界初の惑星観測専用望遠鏡を搭載した惑星分光観測衛星である。この望遠鏡では、波長の極短い紫外線を“虹”のように細かく分光して波長化することが出来、地球と同じ岩石惑星である金星や火星の大気分析や、木星の磁気圏の観測を行う。Sprint-Aもイプシロン同様、観測機以外の部分を低コスト化した小型科学衛星の初号機である。質量僅か340kg、全幅1m全高1m(太陽電池パネル翼幅6m)で、地球の楕円軌道を1周約106分で周回する。


Sprint-A(イメージ:JAXA)と作業工程(朝日新聞)

ロケットの技術というのは、信頼性を高めるために、欠点が出尽くしたような「枯れたシステム」を使っているという。例えば、昔のブラウン管テレビを構成していたような、信頼性の高い、旧式の部品の寄せ集めで作っているというのだ。軽くて安くて性能が良いというような技術があれば、これを積極的に使っていくことが、価格を下げることに結びつき、ロケットは10年に一度、という科学者にとっては悲しい現実が飛躍的に改善され、今まで分析に何十年も掛かっていた事象でも、ほんの数ヶ月で解明されるということに繋がる。つまり、宇宙開発にとっては一大革命を迎えるということなのだ。


ロケットの仕組みは単純なほど信頼性が高い(楽天:手作りロケットキット)

アメリカ航空宇宙局(NASA)が1977年に打ち上げた惑星探査機「ボイジャー1号」が、太陽系外に出て恒星間飛行に入ったと9月12日に公式発表した。人工の物体が恒星間空間に出た(出たことが交信によって確認された:2013年9月6日現在、太陽から約187.52億kmの距離を秒速17,037m(時速61,333km)で飛行中)のは人類史上初めてのことで、打ち上げから36年の年月を掛けて、太陽から約180億キロ超の宇宙空間に到達したことになる。
NASAによれば、ボイジャー1号が恒星間空間に入ったのは2012年8月25日頃と見られ、太陽系外をすでに1年以上飛行していることになる。


ボイジャー1号は1977年9月Titan-3型ロケットで宇宙へ(NASA・JAXA)

以前から、ボイジャーの位置を特定して太陽系外へ出たかどうかの結論を出すには想定から数年掛かると言われていたが、2012年3月に大規模な太陽風(注1)が発生し、2013年4月にボイジャー1号に到達したことがきっかけで同機の位置を特定するのに繋がったという(「思いがけない太陽からの贈り物だった。」NASA)。恒星間空間では、電子の密度の上昇が予想されており、この時の観測データから密度を導き出したところ、ボイジャー周辺では太陽系外縁部のデータの40倍に上っていたことが分かり、太陽系外へ出たことが確認出来たという。現在もなお一定程度、太陽の影響を受けているということだが、ボイジャー計画の研究者エドワード・ストーン博士(カリフォルニア工科大学)らによれば、「太陽系の影響を全く受けない宇宙空間にボイジャーが入る時期は不明」としている。しかし、ボイジャー1号に搭載した観測機器は、少なくとも2020~25年まではデータを地球に送信出来るとしているので、その時が来たことを知ることは期待出来るかもしれない。


ヘリオポーズ(太陽圏界)を出たことが確認されたボイジャー(イメージ:NASA・JAXA)

注1 太陽風とは
太陽からは、電気を帯びた陽子や電子などの荷電粒子がたえず流れ出している。この荷電粒子を「プラズマ(陽子、電子、Heイオン、その他重元素イオン)」、その流れを「プラズマ流」と呼ぶ。プラズマ流は秒速300~900kmの高速で、密度は1cm²あたり5個の粒子がある程度で、「太陽風」と呼ばれている。太陽の表面は高温で、巨大な爆発を活発に繰り返し、コロナを吹き出している。その中でも特に巨大な爆発は、太陽の引力を振り切って超高速で大量の粒子を吹き出す。これが太陽風と呼ばれる。
太陽風は約100万度の高温で、電子と陽子が分離してイオン化したプラズマ粒子のガスである。地球付近に到達した状態では、太陽風の温度が約10万度、速度が秒速450kmである。
太陽には地球と同様に固有の磁場があり、吹き出す太陽風はこの磁場を引っぱり出しながら、地球にまで届く。地球がもつ独自の磁場圏は太陽の磁力線を跳ね返しているので、太陽の磁力線の中を進む太陽風プラズマは直接には地球に侵入して来られない。


太陽風と地球磁気圏(京都大学大学院理学研究科付属天文台)

【太陽系を出ると何が分かるのだろう】
ボイジャー計画は、太陽系外惑星の探査と太陽系外探査という二つのミッションで計画されている。ボイジャーは、存在すら知られていない未知のものを発見する、真の意味での“探査”機である。木星、土星、天王星、海王星など、ボイジャーは訪れたすべての惑星において、研究者たちの想像をはるかに超える姿を映し出し、未知の情報を伝え続けてきた。ボイジャーが航行してきた、太陽圏の果てというのは、太陽風の流れの影響が及ぶ範囲(ヘリオスフィアHelio sphere)のことで、その外側は太陽系外の恒星間ガスで満たされている。太陽風が恒星間ガスと衝突して弱まってなくなる境界が、太陽圏界面(ヘリオポーズHelio pause)と呼ばれる“太陽圏の果て”である。その位置は、太陽からおよそ130~150天文単位(1天文単位は太陽と地球の間の距離で、約1億4960万km)にあると考えられているが、太陽圏の大きさを明らかにすることもボイジャー探査計画の目的である。(JAXAインタビュー:エドワード・ストーンカリフォルニア工科大学物理学教授、ボイジャー計画プロジェクト科学者)


太陽圏と恒星間空間とボイジャーの関係図(ワールドサイエンスノート)

1972年打ち上げの探査機パイオニア10号、1973年打ち上げのパイオニア11号には、人類からのメッセージを絵で表現した金属板が搭載された。1977年打ち上げのボイジャー1号、2号は黄金色にメッキされた銅製のレコード(注2)を搭載し、これには地球上のさまざまな言語(55言語)や画像データ、音楽、自然界の音が90分間に亘り収録されている。
ボイジャーが太陽系外に向けて旅立つにあたり、1977年6月16日にジミー・カーターアメリカ合衆国大統領が発した公式コメントは、「我々は宇宙に向けてメッセージを送った。我々の銀河には2000億個もの星があると言われ、幾つかの星には生命が住み、宇宙旅行の技術を持った文明も存在するかもしれない。もしもそれらの文明の一つが、このボイジャーを発見し、レコードの内容を理解することができれば、我々のメッセージを受け取ってくれると信じる。いつの日か我々人類は、抱える困難な課題を解消し、銀河文明の一員となることを期待する。このレコードでは、我々の希望、我々の決意、そして我々の友好が、広大で怖れ多い宇宙に向かって示されているのだ…以下省略」と。


ボイジャーゴールドレコード(NASA・JAXA)

注2 ゴールドレコード
レコードジャケットはアルミ製で、その表面は、超純粋ウラン238で覆われている。ウラン238の半減期は45.1億年で、このレコードを受け取った未知の文明は、同位体組成を解析することにより、いつごろ収録されたかが分かるようになっている。

ボイジャー1号が恒星間空間を旅し、太陽系外で最も近い恒星の付近に到達するにはなお4万年の時間を要すると計算されている。その間、ボイジャー1号と交信が可能な時間はごく僅かである。だから、それから先は全くの一人旅である。それから先の未来について、ゴールドレコードの提案者であるカール・セ―ガン博士(Carl Edward Sagan, 1934年11月9日~1996年12月20日、アメリカの天文学者、作家、SF作家。元コーネル大学教授、同大学惑星研究所所長。NASAにおける惑星探査の指導者)は、「広大な宇宙のどこかに、宇宙旅行をする技術を持った文明があったときにのみ、この船に搭載されたレコードを再生できるのだろう。しかし、このボトルメールは、その惑星の住人に希望をもたらすものに違いない」と述べている。

地球外生命体を探す試みは、人類に直接的な利益を直ぐにもたらすということではないだろう。木星の衛星の氷の下からバクテリアの菌が発見されたとしても、直ちにそれを採取して医療分野に応用できるほど宇宙空間は優しい環境ではない。しかし、ガリレオがその時代、夜空を見上げて輝く星を見たとき、もっと沢山の星を見たい(在るのではないか)と思い、望遠鏡の発明(ハンス・リッペルスハイが発明の始祖)に繋がり、人々の欲望が思わぬ発見や発明の糸口になってきたのは、人類の進歩という観点では紛れもない事実である。

太陽系を出ることは、未開拓の宇宙に生命体を求める研究者のモチベーションが様々な発見や発明を促し、結果として生物学や物理学、地学、ITなど様々な分野に影響を与え、科学技術の発達に寄与するということに繋がるのだ。


何万光年の銀河の彼方へ(イメージ:JAXA)