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二百十日って知ってる?備え有れば憂いなし…??(イメージ)

8月8日、気象庁は午後4時56分ごろ、奈良県などでマグニチュード7.8の地震で震度6弱から7程度の揺れが予想されるとして、緊急地震速報を発表しました。しかし、実際は震度1以上の揺れは観測されませんでした。地震発生とほぼ同じ時間に震源から離れた三重県の南東沖の海底地震計がノイズを検知していて、離れた場所の地震計が反応したことで、大きな地震が起きたとシステムが誤認したとみられています。8日夕方に発表された緊急地震速報について、気象庁は、誤報だったとして謝罪しました。(TV朝日ニュース)

平成7年の阪神淡路大震災以降、大災害に備える様々な取り組みが実施されてきている中、地震速報送信システムもその一つで、ほんの数秒から数十秒の間であるが、揺れが襲ってくる前に携帯端末等のメールを利用して緊急地震速報を受信することが可能となっている。しかし、平成19年10月1日の一般運用開始以来、これまでに誤報と位置づけられる内容が計33回も発信されていることから、気象庁ではシステムの一部見直しも検討するとしているが、この緊急地震速報を支えるシステムはどのようなものなのか。知られざるプロジェクトに潜入してきました。

【気象庁緊急地震速報のしくみ】
気象業務法の一部を改正する法律(平成19年法律第115号)の施行(平成19年12月1日)に伴い、緊急地震速報は地震動の予報及び警報と位置付けられ、気象庁は、発生した断層運動による地震動(以下「地震動」といいます)の一般の利用に適合する予報及び警報をしなければならないこと、気象庁以外の者が地震動の予報の業務を行おうとする場合は、気象庁長官の許可を受けなければならないこと、気象庁以外の者は、地震動の「警報」をしてはならないことなどが規定されました。

地震が発生すると、震源からは揺れが波のように地面を伝わっていきます(地震波)。地震波にはP波(Primary「最初の」の頭文字)とS波(Secondary「二番目の」の頭文字)があり、P波の方がS波より速く伝わる性質があることが知られています(P波の速度は一般に約7km/sとS波約4km/s)。一方、強い揺れによる被害をもたらすのは主に後から伝わってくるS波です。このため、地震波の伝わる速度の差を利用して、先に伝わるP波を検知した段階でS波が伝わってくる前に危険が迫っていることを知らせることが可能になります。この理論を使うと、現在、情報を伝えるために使われている有線・無線の電気信号(原理的には光の速度・約30万km/秒)と、地震波(地震波の伝わる速度は、数km/秒 程度)が伝わる速度の差を利用すれば、地震が発生した場所の近くの観測点地震計で地震波を検知し、それを電気信号で気象庁に伝え、地震波が伝わってくる前にこれから揺れることを再び電気信号を使って伝えることができます。


P波とS波の伝わり図(資料:ホームズ君)

※気象庁が配信する警報は、放送局(日本放送協会)が受信すると直ちにテレビやラジオで放送される。携帯電話機等には、携帯電話事業者経由で配信する。基地局側から片方向の 情報通知によって、対象端末すべてに強制的に受信させる「一斉同報通知機能」(ブロードキャスト機能)を用いている。通常の通話やデータ通信とは異なる優先経路で配信するため、輻輳やパケット集中による遅延が起きていても、影響を受けずに伝達できる。

【地震の発生を素早く捉え、揺れの強さを速やかに予測する技術】
気象庁では、全国約235箇所(平成24年3月現在)の地震計に加え、独立行政法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網(HI-net・全国約850箇所)を利用して多くの地震計のデータを活用し、地震が起きたことを素早く捉える体制を持っています。又、コンピュータの技術性能の向上により、瞬時に計算が出来るようになったことで、1観測点のP波の観測データから震源やマグニチュードを推定する手法などを活用して、少ない観測点のデータから震源やマグニチュードを迅速かつ高精度で推定することが可能となりました。


(資料:気象庁)

【緊急地震速報の内容】
緊急地震速報は警報と予報の2つの種類があります。
1)警報
我々一般国民に伝えられる緊急地震速報(警報)は、平成19年10月1日以降、2点以上の地震観測点で地震波が観測され、最大震度が5弱以上と予測された場合に発表しています。2点以上の地震観測点という条件は、観測点地震計の近くでの地震以外の揺れによる誤報を避けるためで、最大震度5弱以上の条件は、震度5弱以上になると顕著な被害が生じ始めるため、事前に身構える必要がある揺れの基準です。

■緊急地震速報(警報)の内容
・地震の発生時刻、発生場所(震源)の推定値、地震発生場所の震央地名
・強い揺れ(震度5弱以上)が予測される地域及び震度4が予測される地域名(全国を約200区域に分割した地域名)

具体的に、「強い揺れ」と表現する理由は、予測震度の値が、±1程度の誤差を伴うものであること及び、出来るだけ続報(訂正や補正情報)は避けたいことからです。又、震度4以上と予測された地域まで含めて発表するのは、震度を予測する際の誤差のため、実際には5弱の揺れを感じる可能性があること、震源域の断層運動の進行や連動により、タイムラグを生じて5弱となる可能性があるという理由によります。
なお、「続報」は、震度3以下の予測が5弱以上の予測に速報後の解析で修正された場合や、新たに震度5弱以上が予測された地域及び新たに震度4が予測された地域が補足された場合に発表します。又、誤報であった場合(地震以外情報での誤認)も続報で対応しますが、予想震度を下回った場合は続報として修正しないこととしています。

2)予報(予報業務許可事業者等向け)
平成18年8月1日より先行的に活用できる分野について提供していた緊急地震速報は、機器制御などの高度な利用者向けとして引き続き提供しています。又、各家庭用の端末などで、高度利用者向けの緊急地震速報(予報)を受信し、受信地点の予測震度や主要動到達予想時刻などを表示する等にも利用されています。気象庁は緊急地震速報(予報)として、地震を検知してから数秒~1分程度の間に数回(5~10回)程度発表します。第1報は迅速性を優先し、その後提供する情報の精度は徐々に高くなっていき、ほぼ精度が安定したと考えられる時点で最終報を発表し、その地震に対する緊急地震速報の提供を終了します。地震動の予報とは、2ヶ所以上の地震観測点のデータに基き、地震の最初のわずかな揺れから各地の揺れ(地震動)を予想し発表することであり、地震の発生の予想は含みません。


予報業務許可事業者の会社で予報を行って、その予報を利用者の受信端末に
配信し、利用する形態…サーバー(予報配信)型サンプル(資料:気象庁)

■緊急地震速報(予報)の内容
・地震の発生時刻、地震の発生場所(震源)の推定値
・地震の規模(マグニチュード)の推定値
・予測される最大震度が震度3以下のときは、予測される揺れの大きさの最大(最大予測震度)
・予測される最大震度が震度4以上のときは、地域名に加えて震度5弱以上と予測される地域の揺れの大きさ(震度) の予測値(予測震度)、その地域への大きな揺れ(主要動)の到達時刻の予測値(主要動到達予測時刻)

高度利用者向けの緊急地震速報(予報)の発信条件は、気象庁の多機能型地震計設置の観測点いずれか1ヶ所において、P波またはS波の振幅が100ガル以上となった場合又は、地震計で観測された地震波を解析した結果、震源・マグニチュード・各地の予測震度が求まり、そのマグニチュードが3.5以上、または最大予測震度が3以上である場合です。
※ガル(gal):加速度の単位で、人間や建物にかかる瞬間的な力の事。地震動の加速度で一秒間にどれだけ速度が変化したかを表す単位で、震度同様、同じ地震でも観測地点の位置によって違う値を示す。ガリレオ・ガリレイ(イタリアの天文学者)の頭文字からとったもので、速度が毎秒1cm(1カイン)ずつ速くなる加速状態を1ガルとしている(1ガル=1cm/sec2)。

【今回の誤報の原因とは】


海底ケーブルに繋がれた地震計の分布(資料:気象庁)

8月8日の16時56分頃発表された緊急地震速報によると、地震の規模を示すマグニチュードが7.8、震源の深さが約60キロだった。しかし、気象庁は記者会見で、この緊急地震速報が「誤報」であったことを発表。橋田俊彦地震火山部長と長谷川洋平地震火山部地震津波監視課長が陳謝した。原因について気象庁は、和歌山県北部の地震の発生と同じタイミングで、三重県南東沖の海底地震計のノイズを、地震の揺れとして取り込んで計算してしまったことを挙げた。

和歌山県北部を震源とする地震があったその18.5秒後、三重県沖の海底に設置された地震計(東南海3)で信号が約2秒間途切れるトラブルが発生。実際には地震が起きていないのに、その後に再感知した上下動を示すノイズを、地面が1センチ動く揺れとシステムが認識したというもの。


上二つのグラフが水平動、下が上下動を表す。下のグラフのノイズの最後の途切れ
から再び感知したノイズによって大きな揺れを計算したという(資料:気象庁)

1点の観測点のみの処理結果によって緊急地震速報(予報)を発信した後、所定の時間が経過しても2観測点目の処理が行われなかった場合はノイズと判断し、発表から数秒~10数秒程度でキャンセル報を発信するという(島嶼部など観測点密度の低い地域では、実際の地震であってもキャンセル報を発信する場合があります)。しかし、8月8日のデータでは、東南海3がキャッチしたノイズが偶然にも同時刻であったため、2観測点データとして瞬時に計算された推定値が警報として発表されたということらしい。
ただし、気象庁では緊急地震速報の運用においては予めその限界を把握しており、1観測点のデータを使っている段階では地震以外の揺れ(事故、落雷)や機器障害により誤った情報を発表する可能性があることは、過去の誤報も含めて、止むを得ない範囲と捉えている節もある。

【より精度の高い速報システムを目指して】


より高い精度を得るための研究は続けられている(イメージデータ:防災科技研)

緊急地震速報では、気象庁の多機能型地震計(約250点)及び(独)防災科学技術研究所Hi-net(約850点)のデータが用いられていますが、Hi-netは観測可能な振幅が約1mmであることから、震度がほぼ4以上の地震時には振り切れてしまい、マグニチュード決定には使用できなくなるという問題がありました。そこで、同研究所の強震観測網(K-NET・ KiK-net) においても連続観測を行うことにより回線輻輳等のリスクを排除するとともに、広帯域地震観測網(F-net)の活用等、リアルタイム性を確保することが出来るようになっています。1秒でも早い情報発信が求められる緊急地震速報においては、伝送速度の短縮も非常に重要な問題です。パケット時間長等のデータフォーマットの見直しも含め、一層の伝送速度の短縮が望まれています。又、猶予時間の短い直下地震等への対応や、ジャストポイントでの情報取得には、現在ある20乃至25km間隔の観測網では十分とは言えず、半導体センサー(MEMS)等を用いた地震計の開発によって観測網の間隔を大幅に狭めることが出来、開発と同時に公共施設や家庭への普及方法、利活用についても検討されています。


あと14秒…何ができますか?(イメージ)

しかし、これらの技術の目的は、つまるところ一人でも多くの国民の命を救うこと。喉元過ぎれば…、対岸の火事、など、日本人は危難に遭遇した後の対応には世界的な評価を受ける、尊敬されるべき民族であるが、危機管理の面では島国故か、めっぽう疎いのが現実です。いくら技術的分野の発達を進めても、国民個々の防災意識が育っていなければそれは結局絵に描いた餅に終わることは容易に判断できるのです。緊急地震速報は、生死の境のほんの十数秒の猶予を造り出す装置に過ぎません。

さあ、貴方なら、あと十数秒。残された人生をどう生きますか?