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連日の猛暑の中、熱戦を繰り広げた候補者たち(共同通信)

このコラムを執筆しているときは、まだ投票日を迎えていないので結果がどう出たかは分からない。しかし、選挙前の予想と中盤戦を終えた時点での有権者アンケートなどから、自民公明の与党が善戦していることが伝えられ、前回の衆議院総選挙同様、民主の苦戦は明らかなようだ。更に、橋下大阪市長と石原前都知事率いる日本維新の会や第三極に対する期待は大きく削がれ、ミニ政党乱立の姿も有権者の政治離れに歯止めがかからない様相だ。

そんな暑い最中の参議院通常選挙だが、過去の経緯を振り返ってみると、興味深い法則が成り立っていることに気づく。野党不在の政局(一党支配)、国民不在の政治に合わせて大きな国民負担を強いる政策が実行されようとするとき、一つの既存政党が躍進するという法則。それが日本共産党だ。共産党という響きに我々日本人は過剰に反応するのであるが、戦前戦後から冷戦を経て、旧ソ連の崩壊、中国の改革開放、そして北朝鮮の諸問題等、共産圏と呼ばれる社会主義国家を自由主義国家観で見るとき、先入観と偏見も交えた評価が先行するが、実はとても大切なバランスが成り立っていることに気づかねばならない。
それでは、我が国における共産党の存在意義と実態を理解したうえで何が見えてくるのか。今回は、そこから参議院通常選挙の結果と照らして考えて頂きたいと思い、ペンを執った。

【共産主義と社会主義】
共産主義や社会主義という言葉の定義を今ここで確立させることは避ける。何故なら、およそ政治的に利用される様々な言葉は、個々人の思想を裏付けるそれぞれの環境や教育、体験、経験などによって解釈を生み、又定義されるのだから、共産主義=○○の意、という定義に対する批判がこの時点で噴出してしまうと思うからである。
従って、ここで使う共産主義は、イデオロギー的解釈では決してなく、単に人間の分裂と支配、搾取を止め、お互いが分かち合って共同する社会構造を理想とする「生き方」に語彙を求めることとする。一方社会主義も同様、その思想の原点に戻り、個人主義:社会主義という観点から解釈をお願いしたい。つまり、特定の個人の考え方が最優先されるのではなく、社会全体の均衡、公平性の実現には個人の自由をも制限されなければならないとする社会主体思想そのものである。


レナード・ショッパ著

我が国は、戦後の分権的特徴と中央集権的な特徴を兼ね備えた独特の混合経済体制を築き、経済学者の竹内靖雄によって「日本型社会主義」と呼ばれる事があり、「世界で最も成功した共産国」というように、自由経済と国家統制経済のバランスによって敗戦からの立て直しを短期に成功させた国である。

【日本共産党とは】
日本共産党は、社会主義・共産主義社会を最終的な目的としている政党であることには違いは無い(日本共産党綱領)。資本主義が、私的利益の追求を経済の基本原理としていることで、多くの人々を抑圧し、経済の非効率を招いていると批判し、生産手段を社会化することによって、その弊害を取り除くことを目指す思想・運動・体制を日本共産党は社会主義・共産主義と呼んでいる。生産手段とは、工場などの設備・原料のことを指し、社会化とは、社会(国民)の所有に、つまり「皆の物にする」ということである。その際、共産主義を目指す勢力が国家権力を掌握し、漸次的に計画経済を導入して不況、失業、貧困などを無くす(最近では環境問題への対処も重視されている)という。


日本共産党志位和夫委員長(共同通信)

社会主義という場合は、社会民主主義の思想と運動を指す場合があるが、共産主義という場合にはそうではない。社会民主主義は、社会主義体制というようなものを創ることは目指さず、人々の生活を少しずつ改善していくことを社会主義の要素とし、一般的には、福祉国家政策が社会民主主義の特徴とされることが多い。例えばヨーロッパの場合、高度経済成長期には保守政党も福祉国家政策を採用したし、低成長期には、社会民主主義政党も市場原理を重視する政策を採っている。メディア等で「中道左派」と表現されるのは、社会民主主義の勢力を指す。日本共産党の場合は、直ちに社会主義・共産主義を目指すのではなく、まずは資本主義の枠内での「民主主義革命」(共産主義政党の政権運営)を行うことを綱領に掲げ、その内容は、アメリカへの従属体制を打破することと、独占資本主義政策に民主的規制を加えることであるとする。

【参議院選挙の焦点が何故共産党なのか】
昨年の衆議院総選挙で民主党が陥落し、変わって返り咲いた自民党安倍政権が推し進める経済再生政策「アベノミクス」も、時間の経過とともに実効性の検証段階に差し掛かってきた。株式市場や為替市場においては、大きな政策転換や経済対策の発表を受け、その期待感から値動きが活発化し、連れて個人投資家にも相場の動きに遅れまいとする焦燥感から取引量が拡大し、結果として株高円安の一定水準に到達した。しかし、エコノミストの多くは、投機筋のマネーゲームとして冷やかな視線の中、実態経済への政策浸透はまだまだ先との見解を示し、ここにきて株価や為替に安定感を失っている現状がある。


ほんとうに景気は良くなるのか?

このような不安定な実体経済の状況を脱するには、三本の矢のうち、大胆な金融緩和策に基づく市場への現実的な通貨供給が急務である。つまり、無制限の量的緩和の目的が、日銀による債券市場への介入及び銀行による大量の新規国債引き受けに留まらず、市中金融における中小企業への積極的な設備投資誘導や資金融資を含む市場への通貨放出が必要だということである。しかし、金融機関は今までの金融引き締め政策とリスク・アセット(資産〈融資や債券など〉に関する貸倒れの危険性の総量)増加に対するトラウマは拭えておらず、安全な融資先以外の選択は消極的で、このまま行けば、2001年の量的緩和政策における景気対策の失敗を踏襲するだけである(2001年3月19日導入、2006年3月9日解除の金融緩和政策)。

そうした経済情勢の不透明な中で行われる(7月21日投開票)参議院通常選挙での争点は、当然に現在進行形のアベノミクス絡みの経済再建に対する有権者の反応を、各政党がどう自前の議論に誘導させるかであるが、一方で山積する外交問題(領土、防衛、安全保障、TPPなど)、社会保障と税金(年金、雇用、消費税など)、憲法改正、エネルギー問題など、アベノミクスだけでは解決できない難問に各政党の対応は生温い。有権者の6割が無党派と言われ、且つ政治に期待しない無関心な国民とあっては、この国の未来に不安は隠せないのだが、このような時代背景にあって行われる国政選挙に必ずと言っていいほど現れる法則が「共産党の躍進」なのである。

【共産党が躍進すると時代はどう変わるか?】
先の6月23日に投開票された東京都議会選挙で、日本共産党は、前回の2009年の8人の倍以上となる17人が当選。わずか15議席に終わった民主党を抜いて都議会第3党となった。
都議会選挙では、景気回復の実感が持てない有権者は、自民・公明以外の候補者の支持層も多かった。しかし、消費税もTPPも原発も、ゆくゆくは国民の生活に直結する問題に玉虫色の政策しか出せない民主党や、内紛劇を抱える日本維新の会も頼りない。そこで、唯一の野党を掲げて、その他全ての党をオール与党に位置付けた共産の"庶民の味方"的な図式は注目されやすかった。そのうえ、組織的な援助・サポートによって「中間共同体的な何か」を作ることが出来つつある共産党に対し、惨敗を喫した他の党は、そういう「何か」を構築出来ていなかった。「あのとき世話になったから」という"どぶ板感覚"を有権者に持たせることが出来た共産党の躍進というのが、政治記者の多くの評価であった。


都議選での大躍進は何故起こったか(資料:朝日新聞)

つまり、参議院選挙も同様に、反自民・公明の有権者と、無党派、その他政党の弱い支持層が都議選と同じ理由で動いたとき、消去法的で申し訳ないが唯一残るのが「日本共産党」ということになる。
実際、1995年の参議院通常選挙において、当時自民・社会・さきがけの連立政権(村山富市社会党党首が内閣総理大臣)下で、自民党と並ぶ2大政党の一角だった新進党が解党し、共産党は小党乱立の中、東京、埼玉、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫の7選挙区で当選、比例代表でも820万票を取って合計15議席を獲得、非改選と合わせて23議席に躍進した(参考:週刊ポスト)。

共産党が少々、議席を増やしても政治は変わらない、と考えるのは大きな間違いだ。今回の参院選で共産党が都議選並みの得票率(13.6%)を取れば、非改選と合わせて会派として認められる「10議席」に回復する可能性がある。共産党の10議席は、民主党や第三極など、「政権と闘わない野党」の数十議席とは比べ物にならない破壊力を秘めているからである。共産党は、公称2万数千箇所とも言われる地方組織の拠点と、機関紙「赤旗」に代表される情報収集と調査能力の高さには定評がある。国政での政権追及能力は数々の政界疑獄事件に発展してきたのも事実であり、第一次安倍内閣を揺るがした一連の事務所費問題(架空事務所の支出を不正に請求、または過剰な支出を事務所費として計上していた問題で、当時の伊吹文明文科相や松岡利勝農水相らが事務所費を不正請求していたことを報じた)は赤旗のスクープが発端である。最近では、九州電力の偽メール事件も共産党議員のスクープであり記憶に新しい。
自民・公明の与党にすれば、与野党談合で懐柔できる野党なら、数十人の議席でも恐くはないが、それが通用しない共産党の躍進は脅威である。参議院では10議席あれば本会議で質問も出来る。つまり、他の野党が与党政権をチェックできない状態が続くならば、有権者は「共産党」という"未知の果実"に手を伸ばすという選択もあり得、独裁的、暴走的な政治手法はことごとく通用しなくなるということが言えるのである。


衆議院代表質問で(写真:朝日新聞社)

然らば、共産党が躍進すれば、日本の政治は良くなるのか。それは、期待値以外の何物でもないのか。答えは、正常な国会にその結果を求めるしかないのだが。

<執筆日:2013.7/15>