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朝鮮労働党一党支配のイデオロギーとは(朝鮮労働党モニュメント:ピョンヤン)

今回のテーマは、非常にナイーブな内面を持ち、又政治的思想に基づく批判的な内容に偏りがちな問題を、あえて取り上げようと思う。
今、世界中で国際平和を語る時、必ず登場する敵国としての存在。それは「朝鮮民主主義人民共和国(日本の呼称は北朝鮮=英語訳north Korea)」。西洋資本主義的自由経済を謳歌する西側諸国からすれば、これほど理解に苦しむ国家はそう多くは無い。例えばイランなどは、その多くが宗教的理由に国家観を求めようとする。正しいか否かは別にして、では、北朝鮮はどうか。北朝鮮を語る時に宗教的事由を引き合いにはしない。殆どがそうであろう。ならば、あの国の国家観をどう説明するか?そこに現在の北朝鮮国家の行動規範が見えてくれば、少しは理解?いや、納得??とも違うが、少しは、そう、客観的に評することが可能となるかも知れない。(本編は特定の国家思想を批判するものではなく、歴史的資料に基づき、筆者が独自に分析を加えた上でその国家観を想像するものであり、個人の主義主張や歴史的認識を先導するものではありません)


【金日成と金正日】
この国の体制とイデオロギーは、金日成の一人支配体制を正当化するための理論であり、金日成に対する個人崇拝は一つの思想として定着している。こう言い切る関係書物は多い。金日成の理論とは、「唯一思想体系」と称される主体思想を指す。北朝鮮で「主体」という言葉が初めて公式に使用されたのは、1955年12月28日に開かれた朝鮮労働党宣伝扇動大会だった。金日成はここで「思想事業で形式主義を退治し、主体を確立すべきだ」と演説した。当時、ソ連ではスターリンが死亡し、スターリンを格下げする動きが広がっていた。こうした動きは、ソ連の影響を大きく受けていた北朝鮮で、金日成の一人支配体制の基盤を弱くする原因になりかねない重大な要因になる可能性があったとされる。
※朝鮮労働党はもともと朝鮮共産党北部朝鮮分局として発足(党創設記念日)。1946年8月、朝鮮新民党を吸収し北朝鮮労働党となる(第1回党大会)。


朝鮮労働党最高人民会議の様子(共同通信)

1970年の第5次党大会では、主体思想が党の理念として党規約に明文化された(1982年に改正された憲法には、主体思想が公式の統治理念として明文化され、それ以降には「思想における主体、政治における自主、経済における自立、国防における自衛」を掲げ、党の核心となる原則となった)。1974年には主体思想を「金日成主義」と規定し、「金日成主義」は「主体時代の要求を反映した新しく独創的な革命思想」で、「主体の思想と理論、方法の体系」だと強調した。マルクスレーニン主義と区別して、後にはマルクスレーニン主義より優れた思想だと主張するようになっている。又この年は、金正日が事実上の後継者として公式に登場した時期で、主体思想は金日成の一人支配体制、唯一支配体制、金正日への世襲体制の構築と密接な関連がある。

1955年の扇動大会以降、中国とソ連のイデオロギーの対立が深刻化し、現代修正主義(注1)についての論争が拡大すると、独自路線を追求する大義名分として活用されはじめた。その後、金日成に絶対的な権力が集中し、神格化と個人崇拝が大々的に行われ、「唯一思想体系」が登場した。この「唯一思想体系」こそ主体思想であり、それに基礎を置いた政治、思想が主体思想である。
※(注1)
現代修正主義が最初に発生したのはユーゴスラビアで、その見解は1958年のユーゴ共産主義者同盟第7回大会で採択された網領に体系的に盛込まれていた。ユーゴ修正主義はその後フルシチョフ修正主義によってより体系化された。核戦争人類絶滅論、アメリ力帝国主義美化論、現代帝国主義変質論、日和見主義的平和共存論、あるいは世界革命の主要な推進力を平和共存下の共産主義建設に求めることや、国家独古資本主義の発展により独古資本の国家権力の革命的打倒なしに社会主義に移行できるとする改良主義的構造改革論、平和移行唯一論など、マルクス主義の右翼的修正を主な特徴としている。この言葉は主として中国共産党のソ連共産党批判に用いられている。


党大会で演説する金正恩第一書記(アジアプレス)

「主体思想」は内外の情勢に伴って変化してきた。最初は「人民が全てのものの主であり、全てを決定する」という哲学の原理に基礎をなす思想であった。つまり、人が自主性と創造性、意識性を持って、自分の運命を自主的かつ創造的に開拓していく社会的存在、すなわち歴史の主体ではあるが、無条件に自分の運命を自主的かつ創造的に開拓できるものではなく、首領様の偉大なる指導を受けてこそ、初めて歴史的主体としての役割を果たすことができるとする。この「首領様の指導」こそ、主体を確立する核心だと言う、いわゆる「革命的首領観」である。
1986年には、この「革命的首領観」に「社会政治的生命体論」が加えられた。これは革命の主体は首領であり、党や大衆の統一体であって、首領と党、大衆は一個の生命体として運命を共にする社会的政治的生命体であると主張している。こうした論理は「血縁論」にも発展し、世襲体制に正統性を与える根拠になっていった。

そして、金正日体制下での最高人民会議(1998年9月5日)では、金日成を「社会主義朝鮮の始祖」と規定する修正憲法が採択され、国家主席制を廃止して金正日は国防委員会委員長に選出された。これは、最高軍事指導機関であり、全般的国防管理機関である「国防委員長」が、条文の配列上とはいえ、最高人民会議常任委員会よりも、上位に置かれた事になる。すなわち、国家主席の廃止という改革と共に、新しい指導体制が軍事と国防を最優先するという、他国に見ない変則的な危機管理体制、(主体思想に根ざした「赤旗思想」、「強盛大国論」、「先軍政治論」など、新しい実践的統治理念)であることを示している。

【唯一思想体系とは】
1974年4月14日、金日成62歳の誕生日の前日、金日正が全社会の金日成主義化の要求を全党に徹底させるために10大原則を発表した。

  1. 偉大な首領金日成同志の革命思想で全社会を一色化するために身を捧げて闘争しなければならない。
  2. 偉大な首領金日成同志を忠誠で高く敬い奉じなければならない。
  3. 偉大な首領金日成同志の権威を絶対化しなければならない。
  4. 偉大な首領金日成同志の革命思想を信念とし、首領の教示を信条化しなければならない。
  5. 偉大な首領金日成同志の教示執行で無条件性の原則を守らなければならない。
  6. 偉大な首領金日成同志を中心とする全党の思想意志的統一と革命的団結を強化しなければならない。
  7. 偉大な首領金日成同志にしたがって学び、共産主義的風貌と革命的事業方法、人民的作業作風を所持しなければならない。
  8. 偉大な首領金日成同志が抱かせて下さった政治的生命を貴重に守り、首領の大きな政治的信任と配慮に高い政治的自覚と技術で忠誠を持って報答しなければならない。
  9. 偉大な首領金日成同志の唯一的領導のもとに全党、全国、全軍が一体になって動く強い組織規律を樹立しなければならない。
  10. 偉大な首領金日成同志が開拓なさった革命偉業を、代を継いで最後まで継承し、完成しなければならない。

金日成氏は神格化した(イメージ:アジアプレス)

この事業を通じて、思想闘争のなかで全党員を金日成主義者につくりかえ、首領に無限かつ無条件の忠誠を尽くし、首領の教示を各自が信念化し信条化することを要求した。
唯一思想とは、党には一つの思想しか存在できず、それは党を創建し、領導する首領の思想である。党内に首領の思想と反する他の思想があれば、そのような党は、事実上一つの党とはいえない。首領の思想とは、すなわち金日成の主体思想(チェチェ思想)である。そして、主体思想とは、北朝鮮では「全ての党員が、金日成同志の周囲に鉄石のように団結し、一片丹心その方の領導を受け入れ、朝鮮革命の勝利のために最後まで確固として闘争すること」という党と首領に対する忠誠を高めることが定められた。

【北朝鮮の国家体制】

北朝鮮の体制は大統領制でも議院内閣制でもなく、「会議制」と呼ぶ。会議制は名目上、国家の最高権力が最高人民会議にあるが、最高人民会議は党が領導し、党は首領が領導するので、首領はどんな肩書きであれ、政治、国防、外交、経済、社会、文化など全ての分野で最高の権力を持ち、直接権力を行使できる関係に立っている。このため体制の核心は首領が「領導」する党ということになる。


金正日時代の朝鮮労働党組織図

党の権力構図を把握するには、政治局、秘書局、中央委員会の順に序列を確認する必要がある。政治局と秘書局の構成員は重なる場合が多いが、政治局と秘書局の構成員が最高指導部であり、次は政治局委員、政治局候補委員、秘書局委員、中央委員の順になっていると言われる。

【開戦に高まる緊張…北朝鮮の本気度】
平成25年3月16日付の中国青年報によれば、同14日、北朝鮮中央通信が軍隊への入隊志願者が急増し、その数100万人を超える若者が志願しているとする報道をキャッチしたと伝えている。米韓の合同軍事演習「キーリゾルブ」が3月11日に始まってから北朝鮮の反発は一層強まっている。朝鮮中央通信は同14日、朝鮮人民軍最高司令部の報道官が、3月5日に「第2次朝鮮戦争の避けがたい時」、同11日の「韓国との休戦協定の白紙化」との声明を発表して以来、国家を守る聖戦に参戦するため、入隊志願者は北朝鮮全土で学生20万人超を含む100万人に達するとしている。

又、韓国政府は13日、小中学校向けに「戦時緊急避難マニュアル」を配布することを発表した。マニュアル制定にあたっては、「韓国政府として軍事行動に直接対応した初のマニュアル」とし、その目的については、「朝鮮半島の緊張が日々高まる状況下で、子供の安全を守り、不安を抑制するため」と説明している。
これまでに検証してきた北朝鮮の思想、国家観、国家体制と組織体系から、北朝鮮が何故ここまで強硬姿勢に出るのか、いつもの瀬戸際外交の手法なのか。


厳戒態勢に入った北朝鮮軍(イメージ:アジアプレス)

北朝鮮の休戦協定破棄に対して、中国共産党の中央党校国際戦略研究所は「白紙化にはアメリカに和平協定締結を迫る意図がある」と分析している。その中で同校のヂャン・レングイ教授は、「長年に亘りアメリカは北朝鮮の交渉テーブルに就くことを拒否してきた。今回の核実験を含め、一段階高い圧力を掛ける狙いがあると思うが、アメリカは無条件の核放棄を求めており、核放棄に優先する和平協定などあり得ないだろう。国連安保理決議に対する北朝鮮の不満と対抗意識の表れであり、恐れずに足りず、北朝鮮の目的も達成されないだろう」と言っている。


アラスカのFort Greelyに地上配備されるミサイル迎撃用ミサイル(米国防省広報)

しかし、楽観は危険とする意見もある。当然韓国もこの動きに警戒を強める。キム・グァンジン国防相は3月11日、「深刻な危機」との認識を示した上で、軍事挑発に対しては「直ちに反撃する」と明言した。2010年に砲撃を受けた延坪島を始め国境付近の島では、すでに住民の一部が避難するなどの動きも出ている。北朝鮮が核を使用するについては、国家滅亡の危機に瀕する状態がその条件であることは勿論だが、北朝鮮が度重なる挑発行動や、開戦状態を起こしかねない軍事行動(哨戒艦「天安」爆沈事件など)に出た場合、今回は韓国軍の動向がターニングポイントとなろう。
又、アメリカは北朝鮮の弾道ミサイルに対処するため、2017年末までに14基の迎撃ミサイルをアラスカ州に配備すると発表。米軍はすでに30基をアラスカ、カリフォルニアの両州に配備しており、今回の追加配備が実現すれば、計44基が西海岸で北朝鮮のミサイル攻撃ににらみを利かせることになると、15日の国防総省での記者会見でヘーゲル国防長官が述べるなど、危機感の裏返しとも取れる対応を急いでいるのも気に掛る。


北朝鮮の砲撃を受け炎上する延坪島(左)とテポドンII(共同通信)

ともあれ、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)が、建国以来の大きな岐路に立たされているということは紛れもない事実なのである。