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新政権誕生後、1ヶ月しか経たないのにこの雰囲気(共同通信)

新政権誕生から今日まで、まだ船出したばかりの安倍政権だが、滑り出しは怖いぐらい上々。年末からメディアにも出ずっぱりで、一時期の橋下徹日本維新の会代表の人気を凌ぐ勢いで、国民の期待を一身に受けている感がある。今回の衆議院選挙後から野党に回った民主を筆頭に、未来の党(昨年末に事実上の解党→生活の党と名称変更)、みんなの党、社民党などなど、いつもなら新政権に対する揶揄や新内閣についての批判が論戦の舞台に上がるのだが、今回はもう全く影が見えず、日本中に無視されている感じだ。
前回も書いたが、事実、今回の新政権は非常にやり易い環境下で船出したのだから、この人気ぶりも織り込み済みでなければならない。間違っても自民党が期待されているなんて思い上がってはいけない。政府に待ち構える難問は山積みどころか塩漬け状態なのだから、早速片づけていかねばならないのだ。そこで、この雰囲気に間違いなく冷や水を浴びせるのが「消費税増税問題」である。安倍政権が毎度のごとく就任後間もなく支持率を急降下させるのか、これまでにない国民の信頼を勝ち取る「優秀な」政府となるか。それは、この消費増税に係る中身の仕上げ方に掛っている。外交問題、領土問題、経済再生etcは、先月号の予想通り。さあ、今月は新政権が早々に迎える正念場の消費税について、筆者の予想はズバリ的中するのか。それは数カ月後のお楽しみ。

【第一段階は消費税の軽減税率適用の有無】
前月号に予想した消費税関連の政府対応はこうだった。
『消費税増税案の具体化に向けた調整が行われる。2014年4月を実現させる為の方策が税制調査委員会で討議に入り、小手先の条件(2013年秋ごろに実質経済成長率が2~3%で推移していることなど)を付すが、数字の操作でいくらでも好転を印象付けられるのだから、結局は予定通りの税率8%時代がやってくるのは確実。』
『消費税の使途については、与野党の協議(なれ合いの調整)によって、地方税化の一つである一部地方共有税基金の創設が議論されるが、年内に結論は得られない。そもそも、消費税の地方税化には財源を消費税11%と仮定しているから、8%増税時点では国の負担が大きすぎるからである。』


経済再生は国の財政安定から(共同通信)

昨年の衆議院選挙に大勝した後、特別国会を召集した与党自民党は首相指名の段階ですでに2013年度における税制改正大綱の作成と消費増税に関する具体的な内容の検討に着手している。これには、民主党政権時に一旦は廃止されていた党税制調査会の権力を復活さすべく、政府税制調査会を廃止する方向で進め、経済財政諮問会議の再開と並んで与党の絶対的権限を確保することが財政再建の第一義とする、安倍政権のスタートダッシュである。

民主党は2009年の政権交代後、「内閣への政策決定の一元化」を掲げて党税調を廃止し、税制改正を政府税調で行うとしたが、決定に関与できないことには民主党内でも不満が高まり、2011年に野田佳彦内閣になってから民主党税調が復活した経緯がある。一方、旧自民党政権時代は党税調が大きな権限を持ち、学者・有識者中心の政府税調は中長期の理念的な大枠の議論が中心で、実際の具体的な税制改正は、党税調が財務省主税局と二人三脚で「大綱」を決め、政府税調が追認する形をとっていた。特に、かつての故・山中貞則氏に代表される「税制のプロ」と呼ばれた古参議員が絶大な権力を持ち、「インナー」と呼ばれる少数の党幹部が密室で事を決めてきた。
民主党は、正にそうした不透明さを正そうとしたのだが、「国民や個々の企業・事業者の懐に直結する税金は政治の真髄」といわれるように、特に特定業界に直接かかわる租税特別措置の取り扱いなどは、「平場の議論で公明正大に決める、とはなかなかいかない」(財務省関係筋)という、ある意味「必要悪」として自民党税調が機能してきた面があることも事実だ。全て政府税調で決める、としていた民主党政権でも、藤井裕久氏が党税調会長として最後は消費税引き上げを党議決定に導いたのは記憶に新しい。国民に不人気の増税をする際は、税のプロとして一定の権威がある大物政治家が「悪役」を引き受けて与党内を纏めないと話が進まないという声は根強く、自民党の政権復帰で税制改正論議も、基本的に昔に戻ることになった。


民主党政権下の政府税制調査会風景(共同通信)

現在の議論の中心となっている「軽減税率」とは、食料品や生活必需品などの税率を5%などに据え置くもので、負担軽減が見えやすいが、食品でもスーパーの買い物と外食で非課税・課税が分かれる国があるなど、品目の線引きが難しいし、軽減の範囲を広げれば税収が大幅に減る。又、公明は8%引き上げ段階(2014年4月)から導入を主張するのに対し、自民党内では「軽減税率は消費税が10%以上になってから検討」(党税調幹部)との考えが根強い。
もともと、2012年6月の民主・自民・公明各党の幹事長が合意して署名した「三党確認書(三党合意)」の存在があるが、現段階では税制改正に係る民主の主張はことごとく退ける風潮が強く、軽減税率についても民主が示してきた還付交付金方式(所得に応じて現金を払い戻す、給付付き税額控除)も、所得税の最高税率45%案にも与党の反対論は強い。

では、具体的な「軽減税率」の対象となる品目とその内容はというと、自民・公明両党が1月11日夜、与党税制協議会を開き、消費税増税の際に軽減税率を導入すべきとの認識で一致したが、自民党の野田税調会長は「時期や品目について、まだちょっと、そういう議論にまで至っておりません」と述べている。しかし、軽減税率を導入するとなると、間違いなく食品が対象となる。これは、欧州各国など付加価値税導入国の対象品目から類推しても明らかであり、主食となる米、味噌、醤油などがあげられる。


どっちがお得??(時事通信)

【軽減税率は最良の策か】
軽減税率の導入はどの財を軽減するかを巡って政治的な対立や新たな政治的利権を生み出す可能性が高い。さらに、欧州では、軽減税率の線引きを巡って税務当局と事業者(納税義務者)との間で訴訟も頻発している。財務省財務総合政策研究所が提出した「EU付加価値税の現状と課題を精査し、日本の消費税の制度設計に当って主要な論点((税率構造,課税ベース,納税協力,および逆進性への対応)を考察する」というレポートがある。これは、『(※注)マーリーズ・レビュー』第一巻第四章「付加価値税とその他の消費税」("Value Added Tax and Excises")をてがかりに、EU 付加価値税が現在直面している課題を考察しており、EU 付加価値税を「老化し、機能不全に陥った古い租税」とし、その原因は複数税率構造と広範な非課税項目にあると指摘。レポートの結論としては、望ましい消費税制度とは、「広い課税ベース・単一税率」といえよう。消費課税に内在する逆進性の問題は、事前の十分な調査と国民への説明を前提とし、所得税や社会保障と連動した制度設計によって対応していくべきであろうと結んでいる。

次のグラフは、「1989年まで」「1990年~94年まで」「1995年以降」の3期間で付加価値税を導入した国々のうち、「単一税率」で導入した国の数(青色の棒グラフ)と、「複数税率」で導入した国の数(赤色の棒グラフ)を表している。これを見ると一目瞭然であるが、複数税率で導入する国は急激に減少し、1990年以降は、単一税率で導入する国が大勢を占めている。つまり、軽減税率(複数税率)を導入することは世界の常識ではないことが分る。

《※注マーリーズ・レビューとは、イギリスのノーベル経済学賞受賞者であるジェームズ・マーリーズ卿を座長に世界トップクラスの経済学者チームによって作成された税制改革指針であり、英国を中心に各国の著名研究者を結集した政策提言です。所得課税から消費課税への転換を求めた初の本格的な提言であるミード報告(1978年)の後継として位置付けられています。》

【自民・公明税調よ!もう一度十分な議論と検証を】
マーリーズ・レビューでは、世界の消費課税・消費税に関して、付加価値税(VAT)と物・サービス税(GST:Goods and Service Tax)という2つの潮流を見出しています。
VATはどちらかというと旧い「モノの時代」の消費税で、GSTはサービスを含めた新しい時代の消費税であると捉えています。アングロサクソン系の国を中心に遅れて消費税を導入した国では、消費税をGSTと呼び、非課税対象や軽減税率をなくし、課税ベースを広げ、財源調達に専念し、低所得者などに対しては給付付き税額控除や社会保障で別途配慮する、という役割分担を明確にしています。例えばニュージーランドでは、金融取引も政府間取引も課税対象です。非課税のものは一切無い。逆に英国は食料品などに対する「ゼロ税率」を実施していますが、マーリーズ・レビューではそれがいかに逆進的且つ非効率かを述べると同時に、それに代わって給付付き税額控除を導入した場合のメリットを分析し、英国政府にゼロ税率の廃止と給付付き税額控除の拡充を提言しています。
付加価値税の効率性を示すものとして、C-efficiencyという指標があります。一国の消費の総量と税率をかけた数字と、実際の税収との比率を見たものです。最も効率の高いのがニュージーランドの96.4%、低いのがメキシコの30.4%です。日本は65.3%と比較的高い数字となっているので、この効率性を今後の引き上げにおいても低下させないようにすることが重要でしょう。具体的には、非課税や軽減税率を可能な限り抑える必要があるということです。


イギリスVsニュージーランド、どっちが豊かな国?

英国の「ゼロ税率」の問題点として、エンゲル係数は低所得者ほど高い傾向にあるとはいえ、絶対的な食料支出額は高所得者の方が圧倒的に高いことが指摘されています。絶対数で見ると逆の効果となっているという指摘です。一方、ニュージーランドではありとあらゆる課税が一律12.5%となっていますが、逆進性に対する対策として、多様な家庭の事情に応じた税額控除が多重的に実施されています。

参考文献
※Good and Service Tax(GST)という考え方・税の逆進性にどう対処するか(一橋大学経済学研究科教授 佐藤 主光 中央大学法科大学院教授/東京財団上席研究員 森信 茂樹・「マーリーズ・レビュー報告書とわが国の税制改革への示唆」)
※EU 付加価値税の現状と課題─マーリーズ・レビューを踏まえて─ 東海大学法学部教授 西山 由美