トップページ > 2012年11月号 > マンスリー・トピックス

国債発行特例法(赤字国債法案)を読み解く


増え続ける国債残高は何を意味するのか(時事通信)

現在の国会で最も重要な法案である「国債発行特例法案」が10月半ばになっても成立していない。これは、長い戦後の歴史においても非常に特異な状況であり、国家財政の破綻という前代未聞の危機に遭遇していることを我々国民はどこまで本気で捉えているのか。国庫の枯渇(国の金が無くなること)を現実にするこの問題は、民主党政権が臨時国会開会に向けた最強のカードとして利用しているのだが、政局の打開策のみを必死に探る与党幹部には、ひしひしと忍び寄る史上最悪の大恐慌の影を軽視し、高をくくっている連中ばかりが目につくのだから、この国の明日は、この国の未来は、真っ暗な闇の中に吸い込まれていくことはもう止められないのかも知れない。

【国債とは何だ?国債の本当の目的を知る】
財政法(昭和22年3月31日法律第34号)第4条では「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」と、国債の発行を原則として禁止している。しかし、同条「但し書き」では、公共事業費、出資金及び貸付金という投資的経費に限り、国債発行を認めるという手法(建設公債原則)を採用している。これに対して赤字国債と呼ばれる所以は、財政法では認められていない、歳入を補填(ほてん)するために発行する国債である。従って、赤字国債の発行は財政法に違反しているので、毎年度、特例法を成立させて発行している(特例国債とも呼ばれる)。


御用金とは、江戸時代の国債なのだ(法政大学出版)

そもそも、日本国において国債はいつのころから発行されているのであろうか。歴史的には、江戸時代中期に入り、幕府の各藩統制も落ち着き、中央集権が確立して様々な税徴収制度による幕府財政の安定に政策が施されてきた時代に勘案された「御用金制度」が実質的な政府発行債である。
※「御用金:宝暦十年(1761年)から始まり20回ほど徴収され、富裕商人などから財源を求めた。年利3%の利息を加えて返還する決まりのため、幕府債である。実質は税で、半ば強制的に上納を命じた。当初は上方商人と周辺都市の百姓に限定したが、幕府の御用商人や江戸など幕府直轄都市の町民、幕府領の百姓まで徴収範囲を拡大した。初めのころは返還されていたが、幕府側が財政難に陥ると返還が滞った。又、定期的に行われるのではなく米価調整や財政補填、江戸城の再建など、各種土木事業費、長州征伐などを名目に不定期で徴収した。文化年間(1804年~1818年)だけでも3回実施し計125万両を徴収したという。


明治5年横浜-新橋間に鉄道が開通(新橋鉄道局)

その後、明治に入り1870年(明治3年)九分利付外債をロンドンで発行(鉄道敷設)、1878年(明治11年)起業公債発行(最初の一般公募国債)、1882年(明治15年)日本銀行が開業し、明治17年から日銀が国債事務の取り扱いを開始、1894年(明治27年)軍事公債条例公布、1896年(明治29年)帝国整理公債がロンドン市場に上場を認められる(日本国債の国際市場初上場)に至り、1904年(明治37年)日露戦争が勃発し、日本国は戦費調達のためにロンドンで外債を発行するなど国債を利用した財政安定策を積極的に活用した。昭和期には昭和恐慌からの脱出を図るため、1932年(昭和7年)大蔵大臣・高橋是清は軍備拡張と農村救済を柱とする「高橋財政」といわれる積極財政による景気刺激政策を推進すると同時に赤字国債を大量発行し、国債の購入を日銀に引き受けさせた。しかし、赤字国債発行や日銀による国債引き受けはインフレを引き起こす危険を伴う措置であったため、高橋は1936 年(昭和11年)軍事費を削減する予算を組み、公債漸減方針を打ち出すが、「2.26 事件」で暗殺される。その後、第2次世界大戦へと突き進む日本は、軍事費拡大に対する国債の発行増加を止められず、終戦の年まで国債発行額は増加し続けた。
国家の再建が始まった1947年(昭和22年)、財政法の制定によって国債発行が禁止されてから1964年までの間、我が国は均衡予算(税収と歳出の均衡)を実現している。しかし、1965年(昭和40年)に経済不況が起こり、翌年には景気刺激策としての戦後初の国債が発行され、1967年以降は毎年建設国債が発行されるに至り、予算均衡主義は葬り去られることとなった。


大東亜戦争国庫債券の文字が見える戦時国債(造幣局蔵)


巨額の国債を発行した終戦直前と現在の国債残高は同水準

現在、発行されている国債にはいくつかの種類があるが、大きく発行目的による種類と、償還期間による種類によって区別すると分りやすい。しかし、大切なことは国債を他の公債や民間社債などと同列に金融投資債権として捉えるのではなく、あくまで今回のテーマに沿った理解、つまり国が借金をする理由を把握する為には、財政法に認められた国債と(但し書きだが)、特例法でしか認められない(法律に規定が無い)国債とが現実に存在し、2011年度ではその発行割合が実に後者が6倍強に達しているということを国民はまず理解しておかねばならない。

【国債は借金!借りたら返す、の当り前をどうする?】
建設国債にしても赤字国債にしても、まずその利子を払う必要がある。平成24年度の年間国家予算は90兆円ほどであるが、国債費(利子と借換費用)は20兆円にも上る。実に予算の23%弱でだいたい1/4だ。年間予算の収入の44兆円が国債発行によるので、収入の49%。健全な財政としての税収入は41兆円。国債依存度が高いと言われるのはこの数字である。つまり、44兆円の国債を新規発行するとしても、内20兆円は利子やその他費用に充てられ、残りが一般財源として公共投資などに回されるという「自転車操業」状態である(但し、東日本大震災復興債及び財投機関債、財投債を含む)。
国債は毎年、月ごとに12回発行される利付国債と、年4回公募される個人向け国債がある。ここで聡明な読者はお気づきであろうが、発行済み国債の元本償還はどうなっているのかという問題である。毎年、月ごとに発行され続けて来た様々な国債は1年以下の短期国債、2年債、5年債、10年債、15年債、20年債、30年債から構成されているので、順次毎年、毎月元本償還期(満期)が巡ってきているはずであるが、現在までの国債発行残高は700兆円と言われる割には、前述した国債費の20兆円では到底足りないことは一目瞭然である。


借りたもんは返す!あたりまえでっせ(ニチブンコミック)

ここに国家の苦しい苦しいからくりの正体を暴こう。国債費(利子と借換費用)と書いたのは、そのものずばり、満期の来た国債を借換えることであり、その費用が国債費として20兆円計上されるのである。つまり、政府や国は実際には国債の償還を行っていないことになる。しかし、そんな大事件を耳にしたことは無いのは何故か。
それが知る人ぞ知る60 年償還ルールである。急増する国債発行額の推移の中で60年償還ルールとは、今まで発行された赤字国債などの償還時に、新たに発行する借換債によって返済する手法である。例えば10 年満期国債の満期が来たときには全額償還するのではなくて、6 分の1 だけ償還し、残りの6 分の5 を借換債という新たな国債を発行して支払うのである。2 年満期国債も同様で、2年後に全額返済するのではなく、30 分の1 だけ償還し、残りの30 分の29 は借換債を発行する。つまり、「60 年」という長い期間で返せばよいという事になり、結果として国債発行額を増大させる原因になっている。


え~、60年で返済しますと…(イメージ)

【赤字国債の増大は社会経済の破綻を意味する!?】
これは、一般家庭のように単に借金が増え続け、家計が破綻するという単純な意味ではない。日本の国債は外債として発行している額は僅かであり、殆どが国内において消化されている。従って世に言う「デフォルト=債務不履行」は現実化しないというもので、アルゼンチンやギリシャなどと訳が違うと。表面的に説明するなら、日本には国債を買う個人資産が十分にあるし、軽微なデフレ継続が物価を押し下げているので、低金利の国債購入を可能にしている。国民は新規国債も発行済み国債も償還されると信じているのだから、国債として国に貸した金が戻ってこないなんていうことは仕組み上もあり得ないと国債を買い続ける。つまり、財務省が目論んでいる長期的な財政健全化計画に期待するということが、国民の財産を守ることに繋がるのだから、増税もやむなし、年金減額も受け入れましょう、そしてもっと個人が国債を買いましょうという実にお利口な国民であるからだ。
そうして国民が黙っている間に、国家は長期的戦略を立てなければならない。少子高齢化により、個人資産貯蓄残高は減少の一途を辿っている。国民の貯蓄率は先進国の中でも最低ランクであることを知っている人は少ない。日本人は個人資産世界一なんて昔の夢だ。だから消費税を12%まで引き上げ、消費を押え、だらだらとデフレを継続させて長い時間を掛けて財政赤字を減らしていく政策を選んだのだ。

【国債管理政策というものがあることを知っているか?】
国債管理政策とは、「国がどのような種類や償還期限の国債を発行していけば、円滑に買い手が付き、しかも利払いのコストを低く抑えられるか」を追求するものである。政府は、国債管理政策について以下の目標を掲げている(IMFガイドライン国際基準による)。
第一、「円滑かつ確実な財政資金の調達」である。これは必要量の国債を発行、供給することにより政府の財源を確保することである。
第二、「中期的なコストの抑制」である。国債を発行することにより国は利息を付けて返さなくてはならない。様々な種類の国債を発行することによりそのコストをいかに抑えていくのかというもので重要である。
第三、「日本の金融・資本市場の発展」である。


必要な資金は海外から!(イメージ)

その中でも、第三の政策において政府はすでに個人向け国債の市場拡大と、海外への販売戦略を進めている。海外の保有者が増えることは、非常に経済的効果が期待される。海外投資家は、株式などの商品と同じ投資基準で国債の売買を行う。例えば、今後さらに財政状況が悪化すると国債を売却する。しかも、海外投資家は「素早く」それを行う。その行動は財政へのチェック機能になり、規律を生む。つまり財政は市場規律、それも厳しい海外の市場規律に晒されることになる。海外への販売のために「税制」の改善や海外投資家の非課税手続きの簡素化をすでに実現させている財務省は、自ら海外へも出向いて国債の営業も行っている。そこまでして国債の消化を海外へ求めなければ、国内の消化率が減少することが明らかである以上、長期的戦略が成立しない。今後の景気回復局面で金利が上昇し、国債価格が下落する状況になれば、国が支出する国債の利払いも増え、財政の悪化が一段と進む懸念もある。財務省の試算では、長期金利が1%上昇すると国の元利払い負担は1 兆2 千億円増えるとされる。さらに、長期金利の上昇は国債価格の下落を招き、大量保有している銀行、中央銀行、郵貯の財務を直撃する。このことは、金融不安や政府への信用失墜に繋がり、国民は国債を「最も安全な投資」とは見なくなる可能性があり、このことが最も恐れる事態なのである。


警告!!(第二海援隊出版)

【クラウディングアウトが日本を襲う】
経済全体の需給バランスを考慮せず、各論だけの議論が行なわれている。しかし、経済のバランス式は、どうしても成立しなければならない。それを無視した感情的な議論に政策が押し流されれば、最も望ましくない形での負担が国民に押し付けられることとなる。
政府支出を行う財源として国債を発行し、民間から資金を借り入れると、借り手が増えるため金利が上がる。金利が上がると、投資が減り、国民所得の増加を妨げてしまう。政府支出には、民間投資を押しのけてしまうというマイナスの効果が働くことを「クラウディングアウト」と言う。今正にこの状況が我が国経済に襲いかかっている。国が破綻するとは、国民がこの国を信用しなくなることを意味する。増税は確かに消費を犠牲にする。一方で国債発行は民間投資を犠牲にするのである。つまり、国債によって調達された資源は、不要な公共投資に費やされるにも係わらず、政府は増税を先送りにしてでも国債発行は先送り出来ない状況に在るという。しかし、この国の辿るべき道は、一刻も早く健全な歳入出のバランスを取り戻すことであり、税収の確保にあることは明らかなのである。


八ッ場ダム工事をなぜ再開したのか…(群馬県庁)